AIがあるのに勉強する意味がわからず、集中して学べない。米国の大学生の実験では、学ぶ理由を「人の役に立つ」とつなげて書いた組で、退屈な問題を後半も解き続ける量が3割以上多かった

AIに聞けばすぐ答えが出るのに、なぜ自分で勉強するのだろう。そう考え始めると、机に向かっても集中が続かない。そう感じている人は少なくありません。米国の大学生の実験では、学ぶ理由を「人の役に立つ」ことと結びつけて書いた人は、退屈な計算問題を後半も解き続けていました。意味は待っていても戻りにくく、自分で言葉にすると取り戻しやすいことが、研究からわかっています。
3行でわかる
- 米国の大学生の実験では、学ぶ理由を人の役に立つこととつなげて書いた組は、退屈な計算問題を後半に解いた量が、比べた組より3割以上多かった。
- 米国の大学の化学の授業2,505人の実験では、学ぶ内容と自分の生活とのつながりを3回書いた組で、2年半後も理系の専攻を続ける人が74%と、比べた組の70%より多かった。
- ただし効き方は環境しだいで、米国の中学校の実験では、先生が学ぶ目的を伝えるメモを添えたときだけ成績が上がっていた。
01 結論から言うとAIがあると、勉強に集中できなくなるのはなぜ?
学ぶ理由が見えなくなると、退屈な練習を続ける力が落ちやすいからだと考えられます。実験では、学ぶ理由を人の役に立つことや自分の目標とつなげて書くと、退屈な問題を解き続ける量や、学びを続ける人の割合が上がっていました。
勉強の多くは、計算や暗記のように、それ自体は面白くない練習の積み重ねです。AIで答えがすぐ手に入ると、「この練習は何のためか」が見えにくくなります。
ここで紹介する研究は、生成AIが広まる前のものです。AIと学ぶ意欲を直接調べたものではありません。ただ、「退屈だけど大事な練習を、何が支えるか」を確かめた実験で、AI時代の学ぶ意味を考える手がかりになります。
02 研究とデータでわかっていること学ぶ理由を書くと、退屈な勉強を続けられる?
続けやすくなる結果が出ています。米国の大学生の実験では、学ぶ理由を人の役に立つことと結びつけて書いた組は、娯楽の動画やゲームが選べる中でも、退屈な計算問題を後半に解いた量が比べた組より3割以上多くなりました。
Yeagerら(2014年)[1]
大学生に、「世の中をもっとよくするには?」を考えて書いてもらい、先輩たちが「学ぶのは将来だれかの役に立つため」と話す声を読んでもらいました。そのあと、画面の片側で退屈な引き算の問題を、もう片側で動画やゲームを、好きに選べる課題(4分を2回)に取り組みました。
1回目の4分では差がありませんでした。退屈さが増す2回目では、比べた組は解いた問題が44%減ったのに対し、理由を書いた組は26%減にとどまり、解いた量は3割以上多くなりました。自分の興味や上達だけに目を向ける文章を書いた組では、比べた組との差ははっきりしませんでした。
同じ論文の別の実験では、米国の高校の9年生(日本の中学3年生ほどの年齢)338人に同じ活動を1回行ったところ、その後の数か月の理数の成績が少し上がりました。もともと成績が低めだった生徒では、0.2ポイント(4点満点の成績)上がっていました。
対象: 米国テキサス大学の心理学入門の受講生429人(2学期分)など、4つの研究で2,000人以上 / 限界: 中高生と大学生が対象で、働く大人は調べていない。研究者自身も、どこでも同じ効果が出るとは限らないと書いている。
Asherら(2023年)[2]
米国中西部の公立大学で、化学の入門の授業を受けた2,505人を、くじ引きで3つの組に分けました。2つの組は、学期中の3回の課題で、習った内容が自分の興味・目標・生活にどう役立つかを書きました(片方の組は、人の役に立つことも加えて書きました)。残りの組は、習った内容をまとめるだけの課題でした。
2年半後、自分とのつながりを書いた組では74%が理系の専攻を続けていて、比べた組の70%より多くなりました。自分の役に立つことだけを書く方法と、人の役に立つことも加えて書く方法では、効果にはっきりした差はありませんでした。
対象: 米国の大学の化学の授業の受講生2,505人(92%が1年生) / 限界: 1つの大学の1つの授業での結果。課題は1回500語ほどの文章で、短いメモで同じ効果が出るかはわからない。
Reevesら(2021年)[3]
米国の都市部の公立中学校で、中学1・2年生321人に、学ぶ目的を考えるネットの活動(または比べるための別の活動)を行いました。2週間後の授業では、英語の作文の課題に、先生の手書きのメモを添えました。メモは「この課題で力をつければ、いつか人の生活をよくできると思うから出している」という内容か、関係のない内容でした。
学ぶ目的を考える活動をした生徒の作文の成績が上がったのは、学ぶ目的を伝えるメモを受け取ったときだけでした。メモがないときは、活動の効果は見られませんでした。
対象: 米国の公立中学校の生徒321人 / 限界: 1つの学校の1つの課題での結果。効果が見えたのは、主に英語を母語としない生徒だった。
03 まだわかっていないことAI時代の学び直しにも、同じ方法が効く?
まだわかっていません。ここで紹介した実験は、生成AIが広まる前の、中高生と大学生を対象にしたものです。AIで答えがすぐ手に入る状況で、学ぶ理由を書く方法が効くかを確かめた研究は見当たりません。
- 生成AIが身近になってから、学ぶ理由を書く方法の効果を確かめた実験は見当たらない。
- 働く大人の学び直しや資格の勉強で、同じ効果が出るかは調べられていない。
- 人の役に立つ理由が、自分のための理由より効くのかは、研究によって結果が違う(大学生の退屈な課題では差が出たが、化学の授業では差がなかった)。
- 中学校の実験では、周りの環境が学ぶ目的を支えているときだけ効いていた。一人で書くだけでどこまで効くかは、はっきりしない。
04 今日からできるセルフケア学ぶ意味を取り戻すには、何から始める?
学ぶ理由を、自分の言葉で短く書き出すことから始められます。その勉強で誰の何がよくなるか、自分の生活のどこで使うかを書き、学んだことを実際に使う場面を1つ作ります。やる気が戻るのを待つ必要はありません。
自分で頭を使う手ごたえを取り戻したい人は、考える面倒くささを立て直す記事も読めます。AIの使い方を変えたい人は、先に自分で考えてからAIに聞く記事が参考になります。
「この勉強で、誰の何がよくなるか」を書く
家族、同僚、お客さんなど、具体的な人を1人思い浮かべて、学んだことでその人の何がよくなるかを書きます。大学生の実験では、こうした理由を書いた組が、退屈な問題を後半も解き続けていました。
目安 5〜10分
習った内容と、自分の生活のつながりを書く
その日に学んだことが、自分の興味や目標、毎日の暮らしのどこで役立つかを書きます。化学の授業の実験では、学期中に3回書いた組で、学びを続ける人が多くなっていました。
目安 週1回、10分
退屈な練習は、後半に入る前に理由を読み返す
退屈な練習は、後半になるほど手が止まりやすくなります。実験でも、差が出たのは後半でした。1で書いた理由を机に置き、練習の途中で読み返します。
目安 練習の途中に1回、30秒
学んだことを使う場面を1つ作る
同僚に説明する、家族の困りごとに使ってみるなど、学びが人の役に立つ場面を自分で用意します。中学校の実験では、学ぶ目的を支える環境があるときだけ効果が出ていました。
目安 週に1回
05よくある質問
AIがあるのに、勉強する意味はある?
研究は「意味があるか」そのものには答えていません。ただ、学ぶ理由を自分の目標や人の役に立つこととつなげて書いた実験では、退屈な問題を解き続ける量や、理系の道を続ける人の割合が上がっていました。意味は、自分で言葉にすることで見つけやすくなります。
「人の役に立つ」と思えないと、勉強は続かない?
そうとは限りません。米国の化学の授業の実験では、自分の興味や目標とのつながりを書く方法と、人の役に立つことも加えて書く方法で、効果に差がありませんでした。自分のためと思える理由でも手がかりになります。
大人の学び直しにも効く?
はっきりしていません。ここで紹介した実験は、中学生・高校生・大学生が対象でした。働く大人の学び直しで、同じ方法を確かめた大きな実験は見当たりません。
書くだけで、本当に集中が変わる?
条件しだいです。米国の中学校の実験では、学ぶ目的を考える活動だけでは成績に差がなく、先生が「この課題は人の役に立つ力につながる」と書いたメモを添えたときだけ成績が上がっていました。理由を書くことと、それを実際に使える場面の両方が必要と考えられます。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Yeager DS, Henderson MD, Paunesku D, Walton GM, D'Mello S, Spitzer BJ, Duckworth AL (2014). Boring but important: a self-transcendent purpose for learning fosters academic self-regulation. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/a0037637
- Asher MW, Harackiewicz JM, Beymer PN, Hecht CA, Lamont LB, Else-Quest NM, Priniski SJ, Thoman DB, Hyde JS, Smith JL (2023). Utility-value intervention promotes persistence and diversity in STEM. Proceedings of the National Academy of Sciences. https://doi.org/10.1073/pnas.2300463120
- Reeves SL, Henderson MD, Cohen GL, Steingut RR, Hirschi Q, Yeager DS (2021). Psychological affordances help explain where a self-transcendent purpose intervention improves performance. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/pspa0000246


