AIとの付き合い方

AIに任せきりで、自分で考えるのが面倒になった。1,578人の実験では、頭を使った分だけ報酬が出る12分の練習のあと、報酬がなくても難しい問題を選ぶ人がわずかに増えていた

約7分で読めます

わかっている度 ★☆☆ 低研究3本・公的指針0件を整理
木の机の上に置かれた1本の鉛筆
Photo: AaronNinetyTwo / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究と公的機関のデータ・指針をAIが調べて整理しました(商品の紹介や診断はしていません。出典は末尾)。

文章も計画も調べものも、AIに任せる日が続くうちに、自分で考えること自体が面倒になってしまった。前は少し難しい問題にも向き合えたのに、今は最初から答えを聞きたくなる。そう感じている人は少なくありません。結論から言うと、頭を使うことの「面倒さ」は変えられないものではなさそうです。1,578人の実験では、頭を使った分だけ報酬が出る12分の練習のあと、報酬がなくなっても難しい問題を選ぶ人がわずかに増えていました。ただしAIを使う人を調べた研究ではなく、効果も小さめです。

3行でわかる

  1. ドイツの学生と米国の大人1,578人の実験では、「頭を使った分」に報酬が出る12分の練習をした組で、そのあと報酬がなくても難しい計算問題を選ぶ傾向が少し強まった(効果の大きさ0.22、小さめ)。
  2. 英国と日本の7つの実験では、人は単調な作業に「予想よりも意欲的に」取り組んでいた。報酬なしでの自分のやる気を、前もって低く見積もりがちだった。
  3. どれも短い実験室・オンラインの実験で、AIに頼ってきた人の「考える気持ち」が戻るかを直接調べた研究はまだない。

01 結論から言うとAIに頼るうちに考えるのが面倒になったら、戻せる?

戻せる可能性はありますが、直接確かめた研究はまだありません。頭を使うことの心理学の実験では、努力そのものが報われる経験をすると、報酬がなくても難しい課題を選ぶ人が少し増えていました。面倒さは、経験で変わりうるものと考えられています。

心理学や脳科学では長く、「頭を使う努力は誰にとってもいやなもので、人はできるだけ避ける」と考えられてきました。AIに任せたくなるのも、この自然な傾向の表れと言えます。

一方、紹介する研究のグループは、努力の価値は経験によって学ばれると考えました。結果だけでなく、頭を使ったこと自体が報われる経験を重ねると、努力そのものが少し好きになる、という見方です。

AIを使うと考える力そのものが落ちるのかという研究は、ChatGPTと考える力の記事で整理しています。

02 研究とデータでわかっていること頭を使う努力は、練習で「好き」に変わる?

少し変わる可能性があります。12分の練習で、頭を使った分だけ報酬をもらった組は、報酬がなくなっても難しい問題を選ぶ傾向がわずかに強まりました。別の実験では、人は報酬なしの作業を予想より楽しんでいました。

12分頭を使った分だけ報酬が出る練習の長さ。これだけで、そのあとの難しさの選び方に差が出た(2022年発表)
1,578人実験の参加者。ドイツの大学生121人と、米国のネット調査の大人1,457人
0.225つの実験をまとめた、難しい問題を選ぶ傾向の差の大きさ。心理学では「小さめ」の水準
3.31→4.1520分の単調な作業の楽しさ。やる前の予想と、実際の評価(7段階、英国の大人50人)

Clayら(2022、ドイツ・ドレスデン工科大学、オーストリア・ウィーン大学)[1]

参加者は、記憶を使う課題を約12分練習しました。片方の組は、頭を使った分だけ報酬が増えました。最初の実験では心臓の反応で努力の量を測り、オンラインの実験では選んだ課題の難しさで決めました。もう片方の組は、報酬の額がでたらめでした。そのあと、報酬が出ないとわかっている計算問題で、どの難しさを選ぶかを調べました。最初の実験では、努力が報われた組のほうが難しい問題を選び、難しさの平均は5段階のうち3.10で、もう片方の組は2.87でした。5回のオンライン実験では結果が出た回と出なかった回がありましたが、まとめると差は0.22でした。

対象: ドイツの大学生121人と、米国のネット調査サービスの大人1,457人 / 限界: 練習は12分だけで、差が長く続くかはわからない。研究者自身も、練習直後の一時的な偏りの可能性を完全には否定できないとしている。

Kuratomiら(2023、岐阜聖徳学園大学、ドイツ・テュービンゲン大学ほか)[2]

英国と日本の参加者で7つの実験を行いました。長く単調な作業の前に「どのくらい楽しめそうか」を予想してもらい、あとで実際の気持ちを聞きました。どの実験でも、人は予想より意欲的に取り組んでいました。最初の実験では、20分の言葉の連想の課題で、楽しさの予想が3.31だったのに対し、実際は4.15でした。成績に応じたお金が出る条件では、この見積もりの低さは小さくなっていました。

対象: 英国の大人と大学生、日本の大学生(7つの実験) / 限界: 作業の選び方は研究者の判断によるもので、ほかの作業に当てはまるかはわからない。参加者は若い大人だけだった。

Krausら(2025、オーストリア・ウィーン大学、ドイツ・ドレスデン工科大学)[3]

1つ目の研究と同じ形の練習をしたあと、報酬の出ない計算問題を解いてもらい、ほほえむときに使う顔の筋肉の動きを測りました。努力が報われる練習をした組では、問題を解き終えたあとにこの筋肉の反応が強まり、特に難しい問題で目立ちました。この反応は、本人が感じた「解けてうれしい」気持ちの強さとも結びついていました。

対象: 194人(努力が報われる組94人、報酬がでたらめな組100人) / 限界: 実験室での1回の実験で、筋肉の反応から気持ちを読み取る間接的な測り方。日常生活で同じことが起きるかはわからない。

3つを並べると、「考えるのが面倒」という気持ちは固定されたものではなく、努力が報われる経験で少し変わりうる。また、やる前の「面倒そう」という予想は、実際より悪く見積もられがちだと見えてきます。

03 まだわかっていないことAIに頼ってきた人でも、同じように戻る?

まだわかっていません。紹介した研究はどれもAIの利用を調べたものではなく、12分から数十分の短い実験です。AIに長く頼ってきた人の「考える気持ち」が、日常の工夫で戻るかを確かめた研究は見当たりません。

  • 練習の効果がどのくらい続くかは調べられていない。研究者も、日常では努力が報われる経験は何年もかけて積み重なると書いている。
  • 研究で使われたのは外から与えられる報酬で、自分で自分にごほうびを決める形は試されていない。
  • オンラインの5回の実験は、結果が出た回と出なかった回があり、まとめた差も小さめだった。
  • AIの使いすぎで考えるのがおっくうになった人を対象にした研究はまだない。

04 今日からできるセルフケア自分で考える気持ちを取り戻すには?

結果ではなく「考えた時間」を記録して自分をねぎらい、少し難しいことを1つ選んで、AIに聞く前に取り組んでみます。やる前の「面倒そう」は実際より大きく見積もられがちなので、まず20分だけ試します。

1

「面倒そう」の予想と、やったあとの気持ちを比べる

考える作業の前に「どのくらい楽しめそうか」を1〜7で書き、終わったあとにもう一度書きます。7つの実験では、実際の取り組みが予想を上回っていました。差を目で見ると、次に始めやすくなります。

目安 1回20分、前後に10秒ずつ

2

結果ではなく「考えた時間」をねぎらう

うまく解けたかではなく、自分で考えた時間をメモに残し、終わったら好きな飲み物を飲むなど小さなごほうびを決めます。研究で報われたのは「頭を使った分」でした。自分で出すごほうびの効果は、まだ確かめられていません。

目安 1日1回、記録は30秒

3

少し難しいことを1つだけ、AIに聞く前にやる

文章の下書きや段取り決めなど、少し手ごわい作業を1つ選び、AIに聞く前に自分の案を出します。実験では、難しい問題ほど、解いたあとの「うれしい」反応がはっきりしていました。

目安 1日1つ、10〜20分

先に自分で考えてからAIを見る方法は、考える前にAIに聞いてしまうときの記事で、AIに頼って力が落ちた気がするときの研究は、AIに頼りきりで力が落ちた気がするときの記事で紹介しています。

05よくある質問

AIに頼りすぎて考えるのが面倒になるのは、怠けている?

怠けとは言い切れません。心理学では長く、頭を使う努力は誰にとってもいやなもので、人は自然と避けると考えられてきました。一方で、努力が報われる経験をすると、難しい課題を選ぶ傾向が少し強まった実験もあり、面倒さは経験で変わりうると考えられています。

どのくらい続ければ、考えるのが苦にならなくなる?

まだわかっていません。実験では12分の練習のあとに差が出ましたが、どのくらい続くかは調べられていません。研究者も、日常では努力が報われる経験は何年もかけて積み重なると書いています。まず1日1つ、少し難しいことに取り組むところから始めるのが現実的です。

やる気が出ないときは、ごほうびで釣ったほうがいい?

研究で効果がみられたのは、結果ではなく「頭を使った分」に応じた報酬でした。また、人は報酬がなくても、作業を予想より楽しめていました。成功したときだけごほうびを出すより、考えた時間そのものをねぎらう形のほうが、研究の条件に近いと言えます。

取りかかること自体ができないときは?

先延ばしの研究は、やるべきことに取りかかれないときの記事で整理しています。

無料ツール
セルフチェックで「今日やること」をまとめる
当てはまる悩みを選ぶだけ。診断はせず、記事の対策を一覧にします。
研究早見表でほかの悩み220件も見る

出典

  1. Clay G, Mlynski C, Korb FM, Goschke T, Job V (2022). Rewarding cognitive effort increases the intrinsic value of mental labor. Proceedings of the National Academy of Sciences, 119(5), e2111785119. https://doi.org/10.1073/pnas.2111785119
  2. Kuratomi K, Johnsen L, Kitagami S, Hatano A, Murayama K (2023). People underestimate their capability to motivate themselves without performance-based extrinsic incentives. Motivation and Emotion, 47, 509–523. https://doi.org/10.1007/s11031-022-09996-5
  3. Kraus J, Mlynski C, Hartmann F, Clay G, Goschke T, Silani G, Job V (2025). The pleasure of effort. Annals of the New York Academy of Sciences. https://doi.org/10.1111/nyas.15323