仕事とAIの不安

会社で人員削減の話が出て、動揺が収まらない。解雇の知らせを想像した米国の大学生84人の実験では、次の仕事探しを書くより先に気持ちを書いた組で、緊張の体の反応が大きく下がっていた

約6分で読めます

わかっている度 ★☆☆ 低研究3本・公的指針0件を整理
開いたノートの上に置かれたペン
Photo: Jegan12345 / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究と公的機関のデータ・指針をAIが調べて整理しました(商品の紹介や診断はしていません。出典は末尾)。

「AIの導入で、うちの部署は人を減らすらしい」。そんな話を聞いた日は、仕事が手につかず、胸のざわつきが収まらないものです。すぐに転職サイトを開くべきか、まず落ち着くべきか。解雇の知らせを想像してもらった米国の実験では、最初の5分で「気持ち」を書いた人のほうが、体の緊張の反応が大きく下がっていました。ただし小さな実験1つの結果で、確かなことはまだ多くありません。

3行でわかる

  1. 解雇の知らせを想像した米国の大学生84人の実験では、知らせを読むと、緊張で変わる皮膚の電気反応が大きく上がった。
  2. そのあと5分間、気持ちと向き合い方を書いた組は、次の仕事の探し方を書いた組より、その反応の下がり幅が大きかった。心拍には差がなかった。
  3. 職を失う不安と、のちの落ち込みとの関係は、7件の追跡研究のまとめで「証拠は限られている」段階。動揺した日は、気持ちを先に書き、具体的な一手はそのあとに回す方法が試せる。

01 結論から言うと人員削減の話で動揺したら、まず何をする?

研究から考えられるのは、「先に気持ちを数分書き、仕事探しの計画はそのあと」という順番です。実験では、気持ちを書いた組の緊張の反応がより大きく下がっていました。ただし想像の場面での小さな実験で、強くは言い切れません。

悪い知らせを聞くと、体はすぐに身構えます。この状態で「次の仕事をどう探すか」を考えても、頭がうまく働かず、焦りが増えることがあります。

ここで紹介する実験は、生成AIによる人員削減を直接調べたものではありません。「解雇の知らせを受けた直後に、何を書くと体の緊張が下がりやすいか」を比べたものです。AIをきっかけにした配置転換や人員削減の話を聞いたときにも、手がかりになります。

02 研究とデータでわかっていること気持ちを書くと、体の緊張は下がる?

下がり方が大きい結果が出ています。解雇の知らせを想像した実験で、5分間気持ちを書いた組は、仕事探しの計画を書いた組より、緊張で変わる皮膚の電気反応の下がり幅が大きくなりました。ただし心拍には差がありませんでした。

84人解雇の知らせを想像し、5分間どちらかの内容を書いた米国の大学生(2016年の論文)
0.42→0.13気持ちを書いた組の、皮膚の電気反応の平均。知らせを読んだときから書いている間まで(同じ実験)
0.31→0.12仕事探しの計画を書いた組の同じ数値。下がり方は小さかった(同じ実験)
7件職を失う不安と、1〜5年後の落ち込みの関係を調べた追跡研究の数(欧米などの24,833人、2015年のまとめ)。証拠は4段階の2

Probst・Jiang(2016年)[1]

参加者は、15年勤めた会社で働き、家族を支える男性の暮らしぶりを読み、自分がその人だと想像しました。続いて「あなたは解雇されます」という社内の知らせを読むと、緊張すると変わる皮膚の電気反応(汗による変化を測る指標)が、平均0.07から0.36に上がりました。

そのあと、参加者をくじで2つの組に分け、5分間自由に書いてもらいました。一方の組は「どんな気持ちになるか、失業にともなう孤立や不安、落ち込みにどう向き合うか」を書きました。もう一方の組は「新しい仕事を具体的にどう探すか」を書きました。

書いている間、気持ちを書いた組の数値は0.42から0.13に、仕事探しを書いた組は0.31から0.12に下がりました。どちらも下がりましたが、下がり方は気持ちを書いた組のほうが大きく、その差は統計的にも確かめられました。心拍は、知らせを読むと少し上がりましたが、書く内容による差は出ませんでした。

対象: 米国北西部の大学の学生84人(半数が仕事をしていて、21人は解雇された経験があった) / 限界: 実際の解雇ではなく想像の場面。書く課題をしない組がなく、何もしなくても自然に下がった可能性がある。気持ちを書いた組は、知らせを読んだときの数値がもともと高く、書き終えたあとの値は両組でほぼ同じだった。

Theorellら(2015年)[2]

働く環境と、のちの落ち込みの関係を調べた研究をまとめると、「職を失うかもしれない不安」が落ち込みを強めることを示す証拠は、4段階のうち2の「限られている」段階でした。

対象は、欧州と英語圏の国で、働く人を1〜5年追った質の高い研究です。職を失う不安については7件・24,833人分がありました。同じまとめで、自分で決められる裁量が小さいことや、職場のいじめは、より強い「中程度」の証拠でした。

対象: 1990年〜2013年6月に発表された59本の論文 / 限界: 生成AIが広まる前の研究。職を失う不安の影響は、まだはっきり言える段階ではない。

Watkins(2008年)[3]

同じことを何度も考える「くり返し考えること」には、立ち直りを助ける面と、落ち込みや不安を強める面の両方がある、と整理したレビューです。違いを分ける一つが、「なぜ」と抽象的に考えるか、「どう感じたか」を具体的にたどるか、でした。

このレビューが紹介している実験では、失敗の体験を「なぜそう感じたのか」と書いた人は、そのことで頭がいっぱいなほど、12時間後の嫌な気分が強くなっていました。「その時その時どう感じたか」を具体的に書いた人では、そうした結果は見られませんでした。

対象: 研究のレビュー(解雇の場面を調べたものではない) / 限界: 紹介されている実験は失敗の体験についてのもので、人員削減の不安にそのまま当てはまるかはわからない。

03 まだわかっていないこと気持ちを書けば、不安は消える?

そこまではわかっていません。実験は想像の場面で、書いた直後の体の反応しか測っていません。気分そのものや、何日もたったあとの不安が変わるかは調べられていません。

  • 実際に人員削減の対象になった人で、同じ結果が出るかは確かめられていない。
  • 何も書かない組がなく、書いたこと自体の効果なのか、時間がたって落ち着いただけなのかは区別できない。
  • 気持ちを書いた組はもともと反応が高く、書き終えた後の値は両組でほぼ同じだった。下がり幅の差が、出発点の違いによる部分もありうる。
  • 大学生が対象で、家族を養う年代の働く人に当てはまるかはわからない。
  • AIをきっかけにした人員削減の不安を、直接調べた研究は見つからなかった。

04 今日からできるセルフケア動揺したその日、どう過ごす?

気持ちを数分書き出し、「なぜ」より「今どう感じているか」を言葉にします。そのうえで、確かめることを1つだけ決めます。どれもお金をかけずにできる工夫です。

1

5分だけ、気持ちを書き出す

紙やメモに、怒り・不安・家族への心配など、浮かんだ気持ちをそのまま書きます。きれいな文章にしなくてかまいません。実験と同じく、気持ちにどう向き合うかも一言添えます。

目安 5分・1回

2

「なぜ」より「どう感じているか」を書く

「なぜ自分が」と理由を追うより、「今、胸がざわつく」「家族に話すのがこわい」のように、感じていることを具体的に書きます。研究のまとめでは、抽象的に「なぜ」を考えるほうが嫌な気分が長引きやすい実験が紹介されていました。

目安 書き出しの中で3行ほど

3

落ち着いてから、次の一手を1つだけ決める

気持ちを書いたあとで、「うわさが本当か上司に確かめる」「職場の制度を調べる」など、具体的な行動を1つだけ書きます。研究者も、気持ちに向き合ってから仕事探しに移る順番をすすめていました。

目安 10分・その日のうちに1つ

心配が何日も頭から離れないときは、心配する時間を1日30分にまとめる方法や、AIに仕事を奪われそうな不安との付き合い方も参考になります。

05よくある質問

気持ちを書くより、すぐ転職の準備をしたほうがよくないですか?

準備そのものが悪いわけではありません。実験でも、仕事探しの計画を書いた組の緊張の反応は下がっていました。気持ちを書いた組のほうが下がり幅が大きかったので、動揺が強いときは先に数分だけ気持ちを書き、そのあと準備に移る順番が、研究から考えられる一つの方法です。

書いた紙は、とっておいたほうがいいですか?

この実験では、書いたものをどうしたかは比べていません。人に見られたくない内容なら、捨ててもかまいません。目的は、頭の中の気持ちを一度外に出すことです。

何日も不安が続くときは、毎日書いたほうがいいですか?

この実験は5分を1回だけ試したもので、何日も続けたときの効果は調べていません。書いたあとにかえってつらくなる日は、無理に続けなくてかまいません。

つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。

無料ツール
セルフチェックで「今日やること」をまとめる
当てはまる悩みを選ぶだけ。診断はせず、記事の対策を一覧にします。
研究早見表でほかの悩み247件も見る

出典

  1. Probst TM, Jiang L (2016). Mitigating Physiological Responses to Layoff Threat: An Experimental Test of the Efficacy of Two Coping Interventions. International Journal of Environmental Research and Public Health, 13(3), 338. https://doi.org/10.3390/ijerph13030338
  2. Theorell T, Hammarström A, Aronsson G, et al. (2015). A systematic review including meta-analysis of work environment and depressive symptoms. BMC Public Health, 15, 738. https://doi.org/10.1186/s12889-015-1954-4
  3. Watkins ER (2008). Constructive and unconstructive repetitive thought. Psychological Bulletin, 134(2), 163-206. https://doi.org/10.1037/0033-2909.134.2.163