AIの絵と比べて、自分の絵に自信がなくなる。同じ絵でも「人が描いた」と知ると評価は高くなっていた

SNSを開くと、AIが数十秒で作ったきれいな絵が次々に流れてくる。何時間もかけた自分の絵が急に色あせて見えて、描く意味がわからなくなる。そんな気持ちになる人は少なくありません。研究では、人は作品の見た目だけでなく、だれがどんな思いで描いたかも含めて評価していることがわかってきました。
3行でわかる
- AIが作った同じ絵に「人が描いた」「AIが作った」と表示を変えて見せた実験では、「人が描いた」と表示したほうが、好ましさ・美しさ・深み・価値のいずれも高く評価されていました。
- 6つの実験(計2,965人)では、見分けがつかない絵でも「AIが作った」と表示すると評価が下がり、AIの絵と並べて見ると、人の絵はより創造的だと評価されていました。
- 大人39人が45分間自由に絵などを作った研究では、約75%でストレスの目安となるホルモンが下がっており、絵の経験の多さによる差はありませんでした。
01結論から言うと
AIの絵と比べて自信をなくすのは自然な反応ですが、実験では、人は同じ絵でも「人が描いた」と知ると高く評価していました。また、描くこと自体に気持ちを落ち着ける働きがある可能性も示されています。
AIの絵は、速さや仕上がりの細かさでは人をしのぐことがあります。そこだけで比べると、自分の絵が見劣りするように感じるのは無理もありません。
一方で研究では、見る人は作品の見た目に加えて、描いた人の手間や思い、作品に込められた物語も評価に入れていることがわかってきました。
比べる軸を変えることと、描くことそのものの価値に目を向けることが、自信を取り戻す手がかりになります。
02研究とデータでわかっていること
同じ絵でも「人が描いた」と表示されると評価が高く、その差には手間や物語の感じ取り方が関わっていました。並べて比べる場面では、人の絵を選ぶ傾向がよりはっきり出ていました。
Bellaicheら(2023年)[1]
AIが作った30枚の絵に、無作為に「人が描いた」か「AIが作った」と表示して、149人に評価してもらいました。「人が描いた」と表示された絵は、好ましさ・美しさ・深み・価値のすべてで高く評価されていました。続く実験では、作品に物語を感じるか、手間がかかっていると感じるかが、好ましさや美しさの差に関わっていました。
対象: オンラインで募った大人(1つ目の実験は149人) / 限界: 実際にはすべてAIの絵で、人が本当に描いた絵の評価を比べたものではありません。
Hortonら(2023年)[2]
6つの実験(計2,965人)で、同じ絵を「人が作った」「AIが作った」と表示を変えて評価してもらいました。見分けがつかないと感じていても、「AIが作った」と表示すると評価が下がりました。789人の実験では、AIの絵と表示された絵のあとに見た「人が描いた」絵は、より創造的だと評価されていました。最後の実験では、AIの表示で値段の見積もりが62%、制作時間の見積もりが77%低くなっていました。
対象: 米国の成人(一部は人口構成に合わせた代表的な集団) / 限界: 表示だけを変えた実験で、実際の作品の売れ方や評価を調べたものではありません。
Jacobsら(2025年)[3]
人が描いた絵に「人」か「AI」の表示を付けて評価してもらう実験を2つ行いました。1枚ずつ点数を付ける方法(250人)では差が見られませんでしたが、2枚から好きなほう・価値があるほうを選ぶ方法(102人)では、人が描いたと表示された絵を選ぶ傾向がはっきり出ていました。
対象: 実験参加者250人と102人 / 限界: 評価の方法によって結果が変わっており、どの場面でも同じ傾向が出るとは限りません。
Huangら(2025年)[4]
中国の1,302人に、生成AIと自分を比べる傾向を尋ねました。能力でAIと比べる傾向は、予想に反して自尊心の高さと関連していましたが、「人としての存在が脅かされる」という感覚も強めていました。人間ならではの価値を大切にする考え方が強い人ほど、その脅かされる感覚が自尊心を下げる影響は小さくなっていました。一方、意見や考え方でAIと比べる傾向は、脅かされる感覚を和らげる可能性が示されていました。
対象: 中国の成人1,302人 / 限界: 1回だけの調査で、比べることが自尊心を変えるのかどうかはわかりません。
Kaimalら(2016年)[5]
大学の学生・職員など18〜59歳の39人が、45分間、好きな画材で自由に作品を作りました。作る前と後で唾液中のストレスの目安となるホルモン(コルチゾール)を測ると、約75%の人で下がっていました。創作の経験が少ない人と多い人で、結果に差はありませんでした。
対象: 都市部の大学の学生・職員など18〜59歳39人 / 限界: 比べる組がない研究で、創作をしなくても同じように下がった可能性は否定できません。
03まだわかっていないこと
AIの絵が身近になったことで、描く人の自信や意欲が実際にどう変わるかを、時間を追って調べた研究はまだ見つかりませんでした。
- 絵を描く人自身が、AIの絵を見続けることで自信や描く意欲がどう変わるかを調べた研究は、ほとんどありません。
- 「人が描いた」ことを評価する傾向が、AIの絵がさらに広がった将来も続くかはわかりません。
- 日本の描き手や見る人を対象にした研究も、まだ見当たりません。
04今日からできるセルフケア
比べる軸を仕上がりから「描いた過程や思い」に移す、AIとは能力でなく考え方の参考として付き合う、上手い下手を気にせず描く時間をつくる、の3つです。お金はかかりません。
作品に、描いた理由や過程を一言添える
作品を見せるとき、何を描きたかったか、どこに時間をかけたかを一言添えます。研究では、作品に物語や手間を感じるかどうかが、評価の差に関わっていました。
目安 1作品・3分
AIとは「能力」より「考え方の参考」で付き合う
AIの絵を見て「自分は負けている」と能力で比べるより、構図や色の参考として見る使い方を選びます。能力でAIと比べる傾向は、自分の存在が脅かされる感覚を強め、考え方で比べる傾向はそれを和らげる可能性がありました。
目安 AIの絵を見るとき
上手い下手を気にせず、描くだけの時間をつくる
人に見せる予定のない絵を、好きな画材で描きます。創作の研究では、経験の多さに関係なく、約75%の人でストレスの目安が下がっていました。
目安 週1回・30〜45分
比べて落ち込んだら、一度アプリを閉じる
AIの絵と自分の絵を並べて落ち込んだと気づいたら、その場で閉じて別のことをします。比べ続ける場面から一度離れるための区切りです。
目安 気づいたとき・1分
05よくある質問
AIの絵が上手すぎて、絵を描く意味がわからなくなった。描くのは無駄?
無駄とは言えません。実験では、人は同じ絵でも「人が描いた」と知ると、好ましさや価値を高く評価していました。また、45分間の創作で約75%の人のストレスの目安が下がった研究もあり、描くこと自体にも意味がありそうです。
AIの絵と自分の絵を比べてしまうのをやめたい。
比べる軸を、仕上がりの速さや細かさから、描いた過程や込めた思いに移すのが一つの方法です。研究では、見る人も作品の物語や手間を評価に入れていました。
見る人は、AIの絵と人の絵を区別している?
見た目で見分けがつかなくても、「AIが作った」と知らされると評価が下がる結果が、6つの実験で一貫して出ていました。2枚から選ぶ場面では、人が描いたと表示された絵が選ばれやすくなっていました。
絵が下手でも、描くと気分は楽になる?
大学の学生・職員39人の研究では、45分間の創作のあと約75%の人でストレスの目安となるホルモンが下がっており、創作の経験が少ない人と多い人で差はありませんでした。ただし比べる組のない研究です。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
出典
- Bellaiche L, Shahi R, Turpin MH, Ragnhildstveit A, Sprockett S, Barr N, Christensen A, Seli P (2023). Humans versus AI: whether and why we prefer human-created compared to AI-created artwork. Cognitive Research: Principles and Implications, 8, 42. https://doi.org/10.1186/s41235-023-00499-6
- Horton CB Jr, White MW, Iyengar SS (2023). Bias against AI art can enhance perceptions of human creativity. Scientific Reports, 13, 19001. https://doi.org/10.1038/s41598-023-45202-3
- Jacobs O, Pazhoohi F, Mullen G, Kingstone A (2025). Comparative designs reveal preferences for human-generated rather than AI-generated art. Empirical Studies of the Arts, 44(2), 729-743. https://doi.org/10.1177/02762374251360129
- Huang Y, Gao Y, Cao X (2025). Does comparing with generative artificial intelligence harm self-esteem? Testing a model linking social comparison orientation to rejection-identification process. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 28(11), 749-755. https://doi.org/10.1177/21522715251393008
- Kaimal G, Ray K, Muniz J (2016). Reduction of cortisol levels and participants' responses following art making. Art Therapy, 33(2), 74-80. https://doi.org/10.1080/07421656.2016.1166832