AIのほうが上手で、自分の力が小さく思えたときはどうする?フランスの大学生143人の実験では、上手な相手を競争相手と思うと自己評価が下がり、協力相手と思うと下がらなかった

AIに頼んだら、自分が半日かけた文章より読みやすいものが数秒で出てきた。そんなとき「自分の力って何だったんだろう」と感じるのは、ごく自然な反応です。研究からは、上手な相手を「負かす相手」と見るか「一緒にやる相手」と見るかで、落ち込み方が変わる可能性が見えてきます。ただし、AIそのものを相手にした研究はまだありません。
3行でわかる
- フランスの大学生143人の実験では、自分より成績のよい相手を「競争相手」と思った組で作業の自己評価が下がり、「協力相手」と思った組では下がらなかった。
- 囲碁のプロ棋士の580万以上の手を分析した研究では、AIが人を超えた2016年以降、人の手の質が上がり、新しい手も増えていた。
- フィンランドの働く人2,109人の追跡調査では、疲れと結びついていたのはAIを使う頻度ではなく、人と比べやすい傾向だった。どれもAIとの比較を直接調べた研究ではない。
01 結論から言うとAIのほうが上手で落ち込んだら、どう受け止める?
AIを「勝ち負けを争う相手」ではなく「同じ仕事を仕上げる相手」と見直すのが、試す価値のある受け止め方です。人どうしの実験では、上手な相手を協力相手と思うと自己評価が下がりませんでした。ただしAIで確かめた研究はなく、効果は小さめです。
自分より上手な相手と比べると、自信が下がりやすくなります。心理学では「上方比較」と呼ばれ、長く研究されてきました。
一方で、上手な相手と比べたあとに、かえって前向きになる場合もあります。どちらになるかを分ける条件の一つとして調べられてきたのが、相手との関係です。相手を「自分と張り合う人」と見るか、「自分と同じ側の人」と見るかで、比べたあとの自己評価が変わると考えられてきました。
02 研究とデータでわかっていること上手な相手を「協力相手」と見ると、何が変わる?
フランスの大学生143人の実験では、自分より成績のよい相手を競争相手と思った組でだけ、作業の自己評価が下がりました。協力相手と思った組では差がありませんでした。囲碁ではAIが人を超えたあと、人の手の質が上がっていました。
Colpaertら(2015年)[1]
大学生143人が、画面に出る文字の位置を答える注意の作業をした。半分は相手と「点数を比べる」競争、半分は「点数を合わせる」協力だと伝えられた。途中で、相手の点数が自分よりかなり上か下かが知らされた。相手が上だった場合、競争の組では作業についての自己評価が下がったが、協力の組では相手が上でも下でも自己評価に差がなかった。
同じ論文の別の198人の実験では、相手の人柄や成績の説明を読ませる方法を使った。こちらでは、競争か協力かによる違いは同じ向きだったものの、はっきりした差にはならなかった。2つの実験と元の研究を合わせた小さなまとめでは違いが確認されたが、その大きさは元の研究よりはっきり小さかった。
対象: フランスの大学生143人(平均20.3歳)と心理学専攻の198人 / 限界: 比べた相手は人で、AIではない。点数は実験用に作られたもので、測ったのは直後の自己評価だけ。元になった2005年の研究は、のちに別の論文で不正が見つかった研究者によるもので(この論文は不正と認定された論文には含まれていない)、そのため確かめ直された。
Shinら(2023年)[2]
1950〜2021年の71年間にプロ棋士が打った580万以上の手を、人より強い囲碁AIで評価した。AIの囲碁プログラムが世界王者に勝った2016年3月と、強いAIが広く使えるようになった2017年以降、人の手の質ははっきり上がっていた。それまでの66年間は、ほとんど伸びていなかった。同じ時期に、過去の対局にない新しい手を打つ時期が早まり、新しい手ほど質の上がり方が大きかった。
人の手のうちAIの最善手と同じだったのは約4割だった。残りの約6割の、AIと違う手だけを見ても、質の上がり方は同じように見られた。研究者は、AIの手をただ覚えて真似しただけでは説明しきれないとしている。
対象: プロ棋士の対局記録(1950〜2021年) / 限界: 記録を分析した研究で、AIが原因で上達したとは言い切れない。棋士の気持ちや自信は測っていない。勝ち負けがはっきりした囲碁での結果で、ほかの仕事に当てはまるかはわからない。
Savolainenら(2026年)[3]
フィンランドの働く人2,109人に、2024年秋から半年ごとに3回答えてもらった。仕事でAIを使う頻度は、仕事の疲れ(朝起きて仕事に向かうときの疲れなど)と結びついていなかった。疲れと結びついていたのは、ふだんから人と比べやすい傾向で、AIを使いこなせる感覚がある人ほど疲れは少なめだった。人と比べやすい人では、AIをよく使うほど疲れが強めという探索的な結果もあった。
対象: フィンランドの18〜65歳の働く人(はじめ2,109人、3回目は1,479人) / 限界: 調査なので因果はわからない。測ったのは人と比べる傾向で、AIと比べる気持ちそのものではない。
03 まだわかっていないことAIへの見方を変えれば、自信は保てる?
まだわかりません。協力相手と見ると自己評価が下がらなかったのは、人を相手にした短い実験の結果です。AIを相手にした実験や、日々の仕事で続けたときの効果を調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
- 相手が人でなくAIのときにも、「協力相手」と見ることで自己評価が保たれるか。
- 実験室での直後の自己評価ではなく、何週間も続く落ち込みや自信に効くか。
- 囲碁のプロ棋士で見られた上達が、文章や企画など正解が一つでない仕事でも起きるか。上達したとき、本人の気持ちがどう変わったか。
- 競争か協力かの違いがどのくらい大きいか。確かめ直した実験では、元の研究より小さかった。
04 今日からできるセルフケアAIと比べてしまった直後に、何をすればいい?
AIを「同じ仕事を仕上げる相手」と言い直し、AIの答えから自分になかったやり方を一つ拾います。AIの答えを見る前に、自分の案を先に一つ作っておくのも手です。どれもお金はかからず、数分でできます。
「このAIと何を仕上げる?」と言い直す
比べて落ち込んだら、「AIに負けた」ではなく「AIと一緒にこれを仕上げる」と、目の前の仕事の目的を1行で書きます。実験では、相手と点数を合わせる協力だと思った組で、自己評価が下がりませんでした。
目安 1分、1行
AIの答えから、自分になかった一手を一つ拾う
AIの答えを「点数」で見ずに、自分が思いつかなかった言い回しや順番を一つだけ探してメモします。囲碁ではAIが人を超えたあと、新しい手が増え、新しい手ほど質の上がり方が大きくなっていました。
目安 5分、1つ
AIに聞く前に、自分の案を一つ作っておく
先に自分の案を短く書いてから、AIの答えと見比べます。違うところは「どちらが上か」ではなく「なぜ違うか」を一言で書きます。囲碁の研究では、AIの最善手と違う人の手でも質が上がっていました。
目安 3分、箇条書き3行
AIと比べて落ち込む気持ちのしくみはAIの方が上手にできて落ち込む人の調査に、AIを使いこなす同僚と比べて焦るときは比べるくせと疲れの追跡調査にまとめています。比べて自分を責めてしまうときは自分への思いやりの研究も参考になります。
05よくある質問
AIのほうが上手だと、落ち込むのはおかしい?
おかしくありません。自分より上手な相手と比べたあとに自信が下がるのは、人どうしの比較でもよく調べられてきた反応です。フランスの大学生143人の実験でも、上手な相手を競争相手と思った組では、作業についての自己評価が下がっていました。
AIを「協力相手」と思えば、落ち込まずに済む?
そうなる可能性はありますが、確かではありません。人どうしの実験では、相手を協力相手と思った組で自己評価が下がらなかった一方、別の198人の実験ではこの違いがはっきり出ませんでした。AIを相手にした実験は、今回の調査では見つかりませんでした。
AIが人より上手になると、人の力は落ちていく?
少なくとも囲碁ではそうなっていませんでした。プロ棋士の580万以上の手を分析した研究では、AIが世界王者に勝った2016年以降、人の手の質が上がり、それまでにない新しい手も増えていました。ただし記録を分析した研究で、AIが原因とは言い切れません。
AIをよく使う人ほど疲れやすい?
フィンランドの働く人2,109人を1年追った調査では、仕事でAIを使う頻度そのものは、仕事の疲れと結びついていませんでした。疲れと結びついていたのは、人と比べやすい傾向でした。比べやすい人では、AIをよく使うほど疲れが強めという探索的な結果もありました。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Colpaert, L., Muller, D., Fayant, M.-P., & Butera, F. (2015). A mindset of competition versus cooperation moderates the impact of social comparison on self-evaluation. Frontiers in Psychology, 6, 1337. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.01337
- Shin, M., Kim, J., van Opheusden, B., & Griffiths, T. L. (2023). Superhuman artificial intelligence can improve human decision-making by increasing novelty. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(12), e2214840120. https://doi.org/10.1073/pnas.2214840120
- Savolainen, I., Osma, T., et al. (2026). Social comparison contributes to work exhaustion in the context of workplace AI use: A three-wave follow-up study of Finnish workers. SSM - Population Health. https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2026.101945


