AIを使いこなす同僚と比べて焦る。2,109人の追跡調査で、疲れと関わっていたのは「比べるくせ」

隣の席の同僚は、AIで資料をあっという間に仕上げている。自分はまだ使い方もよくわからない。そんなふうに比べて、取り残された気がする人は少なくありません。フィンランドの働く人の調査では、仕事の疲れと関連していたのは、AIを使う頻度ではなく、人と比べがちな傾向の方でした。
3行でわかる
- フィンランドの働く人2,109人の調査で、AIを仕事で毎日使うかどうかは、仕事の疲れと関連していませんでした。
- 一方、人と比べがちな傾向が強い人ほど、仕事の疲れが強い関連がありました。
- 別の実験では、AIの答えを丸写しすると「自分でできる」感覚が下がり、先に自分で下書きする使い方では下がりませんでした。
01結論から言うと
AIを使いこなす同僚と比べて焦るのは、珍しいことではありません。研究では、疲れと関連していたのはAIを使う頻度ではなく、人と比べがちな傾向でした。比べ方は、少しずつ変えられます。
人は、自分の力を確かめるために、まわりの人と自分を比べます。これを心理学では「社会的比較」と呼びます。比べること自体は自然な心の働きです。
ただ、自分より上だと感じる相手とばかり比べると、落ち込みや焦りにつながりやすいと考えられています。AIは職場に新しく入ってきた道具なので、「使える人」と「使えない自分」という比べる材料が増えやすい状況です。
02研究とデータでわかっていること
フィンランドの追跡調査では、AIを使う頻度と疲れに関連はなく、比べがちな傾向と疲れに関連がありました。SNSの研究でも、上の人と比べることと心の不調に関連が見られています。
Savolainenら(2026)[1]
AIを仕事で毎日使うかどうかは、仕事の疲れ(気力が尽きた感覚)と関連していませんでした。一方、ふだんから人と比べがちな人ほど、疲れが強い関連がありました。同じ人の中でも、比べる傾向が強まった時期には疲れも強まっていました。また、AIを使いこなせると自分で感じている人ほど、疲れが少ない関連がありました。
対象: フィンランドの18〜65歳の働く人2,109人(2024年秋〜2025年秋に3回調査) / 限界: アンケートによる観察研究で、原因と結果の向きはわかりません。比べがちな傾向は職場の同僚との比較に限らず、ふだんの傾向として尋ねています。AIを使いこなせる感覚の質問は新しく作られたもので、さらに確かめる必要があります。
Leiら(2026)[2]
SNSで自分より上だと感じる人と比べることについて、54の調査をまとめた研究です。上の人と比べる人ほど、不安が強い、幸福感が低いなど、心の不調との関連がありました(相関係数0.33)。年齢や文化による違いは見られませんでした。
対象: 10代から大人まで、54の調査・36,583人 / 限界: SNSでの比較の研究で、職場やAIについて調べたものではありません。多くが1回だけの調査で、落ち込んでいる人ほど上と比べやすいという逆の向きもありえます。
Leeら(2026)[3]
AIの答えをそのまま写して課題をした人は、そのあとAIなしで課題をしたときに「自分でできる」という感覚(自己効力感)が、AIを使わなかった人より低くなっていました。先に自分で下書きしてからAIで整える使い方では、AIを使わなかった人との差は見られませんでした。
対象: コンサルタントや人事などの働く人269人の実験(オンライン、文章を書く課題) / 限界: 短い文章課題での実験で、途中で抜けた人も多く、長い期間の影響はわかりません。
まとめると、AIを使う頻度そのものより、「人と比べてどう感じるか」と「自分でできる感覚を保てているか」が、心の負担と関わっている可能性があります。なお、フィンランドの調査では、比べがちな人の中ではAIを使う機会が増えた時期に疲れも強まる関連が見られましたが、これは事前に計画していない追加の分析で、確かめ直しが必要だと著者たちは書いています。
03まだわかっていないこと
AIを使いこなす同僚と比べることそのものを調べた研究は、まだほとんどありません。比べ方を変えると疲れが減るかを確かめた研究も見つかりませんでした。
- 「AIを使える同僚」と比べることに絞った影響(フィンランドの調査は、ふだんの比べがちな傾向を調べています)
- 比べる習慣を変える工夫で、仕事の疲れが実際に減るか
- フィンランド以外の国、日本の職場で同じ結果になるか
- 比べることが疲れを生むのか、疲れているから比べやすいのか、という向き
04今日からできるセルフケア
比べる物差しを変えることと、自分でできる感覚を少しずつ育てることです。研究で関連が見られた点を手がかりに、お金をかけずにできることを選びました。
比べていることに気づき、物差しを「先月の自分」に変える
同僚と比べて焦ったら、「今、比べているな」と心の中で言葉にします。そのうえで、先月の自分と比べて、できるようになったことを1つ書き出します。
目安 焦りを感じたとき・1分
小さな作業1つで「先に自分で、あとでAI」を試す
メールの下書きなど小さな作業を1つ選び、先に自分で書いてからAIで整えます。実験では、この使い方で「自分でできる」感覚が下がりませんでした。
目安 週1回・10分
AIをどこまで使えばよいか、職場の期待を確かめる
「全員がすぐ使いこなす」ことが求められているとは限りません。上司や同僚に、どの仕事で使うと助かるかを聞いてみます。研究の著者たちも、期待をはっきり伝えることや、競うより助け合う働き方を勧めています。
目安 月1回・5分
05よくある質問
AIを使いこなせない自分はダメなの?
そうではありません。フィンランドの働く人2,109人の調査では、AIを仕事で毎日使うかどうかは、仕事の疲れと関連していませんでした。焦りの多くは、使う量の差より、比べることから生まれている可能性があります。
同僚に追いつくために、AIをたくさん使った方がいい?
量を増やすより、使い方が大切かもしれません。実験では、AIの答えを丸写しすると「自分でできる」感覚が下がり、先に自分で下書きしてからAIで整える使い方では下がりませんでした。
人と比べるのをやめるにはどうすればいい?
比べることを完全にやめるのは難しく、自然な心の働きでもあります。比べていると気づいたら、比べる相手を「過去の自分」に変える方法が、すぐに試せる工夫です。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
出典
- Savolainen, I., Osma, T., Grönroos, R., Heiskari, M., & Oksanen, A. (2026). Social comparison contributes to work exhaustion in the context of workplace AI use: A three-wave follow-up study of Finnish workers. SSM - Population Health, 35, 101945. https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2026.101945
- Lei, Y., Hu, S., Sun, Y., & Zheng, L. (2026). "Looking up" linked to feeling down: a meta-analysis of online upward social comparison and psychological maladjustment. Frontiers in Psychology, 17, 1825169. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1825169
- Lee, E. H., Yin, Y., Jia, N., & Wakslak, C. J. (2026). Relying on AI at work reduces self-efficacy, ownership, and meaning while active collaboration mitigates the effects. Scientific Reports, 16, 13583. https://doi.org/10.1038/s41598-026-42312-6