仕事とネット以外に居場所がない。中高年の追跡研究では、属するグループが多い人ほど、その後うつになりにくい傾向があった

平日は職場、帰ればスマホとネット。それ以外に「自分が属している場所」が思い浮かばない人は少なくありません。困っているわけではないけれど、このままでいいのか少し気になる。研究では、趣味・地域・学びなどのグループに属していることと、その後の心の健康との関係が調べられてきました。
3行でわかる
- 中高年を2年・4年追った研究では、属するグループが少ない人ほど、その後うつになりやすい傾向がありました。
- 大事なのは数だけでなく「自分の居場所だ」と感じられるかで、そう感じるグループが多い人ほど、うつ症状が少ない傾向がありました。
- どれも関連を見た研究で、グループに入れば予防できると確かめたものではありません。生活が変わる時期に、今ある場を手放さない工夫から始められます。
01 結論から言うと仕事とネット以外に居場所がないのは、心の健康によくない?
それだけで心が不調になるとは言えません。ただ、複数の研究で、趣味や地域などのグループに属している人ほど、その後のうつが少ない傾向がありました。つながりは、つらくなる前に日頃から持っておく価値があります。
ここでいう「グループ」は、親しい一人の友人ではなく、趣味のサークル、地域の集まり、習いごと、ボランティアのような「集団」のことです。
特定の一人と深い関係を作るのは時間がかかります。一方で、集団には「メンバーの一人」として加わることができます。研究者は、この点に注目してきました。
仕事の人間関係は、転職や退職でまとめてなくなることがあります。仕事以外にも属する場があると、生活が変わっても、つながりが一度にゼロになりにくくなります。つながりと健康の全体像はつながりが健康に関わる研究のまとめで紹介しています。
02 研究とデータでわかっていることグループに属している人は、うつになりにくい?
中高年を追跡した研究では、属するグループが多い人ほど、2年後・4年後のうつが少ない傾向がありました。もともとうつがあった人では、その関係がより強く見られました。
Cruwysら(2013年)[1]
中高年の大規模な住民調査のデータを使い、属しているグループの数とその後のうつの関係を調べました。最初のグループ数・うつの状態・年齢・性別・収入などの条件をそろえても、グループが少ない人ほど、その後うつになりやすい傾向がありました。この関係は、もともとうつがあった人でより強く見られました。うつがありグループに属していなかった人では、1つのグループに加わると再発のリスクが24%、3つで63%低いと推計されました。
対象: 2年間の分析で5,055人、4年間の分析で4,087人 / 限界: 調査データの分析で、グループに入ったことがうつを防いだという因果関係を確かめた実験ではありません。
Saniら(2015年)[2]
スコットランドの診療所を通じて集めた1,824人に、家族・地域・自分で選んだグループの3つについて「自分はこのグループの一員だ」と感じる度合いを聞きました。そう感じるグループが多い人ほど、本人が答えたうつ症状が少なく、過去6か月に抗うつ薬を処方されていた割合も低い傾向でした。会う頻度の多いグループの数をそろえても、この関係は残っていました。
対象: スコットランドの1,824人 / 限界: 1回の調査で、どちらが原因かはわかりません。
Steffensら(2016年)[3]
イングランドの50歳以上を追う全国調査から、退職を迎えた424人を調べました。退職前に2つの団体に属していた人の6年間の死亡リスクは、2つとも続けた場合2%、1つやめた場合5%、2つともやめた場合12%でした。退職後に団体を1つ失うごとに、6年後の生活の質は約10%低くなっていました。
対象: イングランドの退職者424人と、退職していない比較群424人 / 限界: 団体の種類は8つの選択肢で数えただけで、すべての所属を測れてはいません。観察した研究で、原因は確かめていません。
Haslamら(2016年)[4]
孤立と気分の不調を抱えた若い成人に、グループとのつながりを作り直す5回構成のプログラムを試しました。終了時と6か月後に、うつ・不安・孤独感などの指標がよくなっていました。改善は、参加者が複数のグループに「属している」と感じるようになったことと関わっていました。
対象: 孤立と気分の不調を抱えた若い成人 / 限界: くじ引きで分けない比較による予備的な研究で、著者自身も、ほかの集団や無作為化比較試験での確認が必要としています。
日本では、総務省の2021年の調査で、過去1年に「学習・自己啓発・訓練」をした10歳以上の人は39.6%、「ボランティア活動」は17.8%でした[5]。ボランティア活動は5年前より8.2ポイント下がっています。この調査期間には緊急事態宣言が2回含まれていました。これらは「その活動を一度でもした人」の割合で、グループに属している人の割合ではありません。
03 まだわかっていないことどんなグループに入れば、心の不調を防げる?
まだ結論は出ていません。紹介した研究の多くは関連を見たもので、グループに入ることが予防になると確かめた実験は少なく、日本やネットのコミュニティを調べた研究も見つかりませんでした。
- グループに入るとうつが減るのか、元気な人がグループに入りやすいのかは、観察研究では区別しきれていません。
- 研究の対象は主にイギリスの中高年や退職者で、日本の働く世代に同じ傾向があるかはわかりません。
- オンラインのコミュニティやSNSのグループが、対面の集まりと同じ働きをするかは、今回の研究では調べられていません。
- 何個のグループが「ちょうどよい」かや、合わないグループに無理に属したときの影響もわかっていません。
04 今日からできるセルフケア仕事以外の居場所は、どう作ればいい?
今の所属を書き出す、気になる集まりに1回だけ顔を出す、転職や引っ越しなど生活が変わる時期にも今ある場を続ける、の3つから始められます。どれもお金をかけずにできます。
仕事以外の「所属」を書き出して数える
家族、地域、趣味、学び、昔の仲間など、仕事以外で「自分はここの一員だ」と思える場を紙に書きます。研究では、数だけでなく「一員だと感じる」かどうかが関わっていました。0個でも責める必要はありません。現状を知るためのメモです。
目安 1回・10分
気になる集まりに「1回だけ」顔を出す
公民館の講座、図書館の読書会、地域の清掃、趣味の体験会など、無料か少額の場を1つ選び、まずは1回だけ参加します。続けるかどうかは、行ってから決めて構いません。
目安 月1回・1〜2時間
生活が変わる時期こそ、今ある場を手放さない
転職・退職・引っ越し・在宅勤務への切り替えの前後は、つながりがまとめて減りやすい時期です。退職者の研究では、属していた団体を続けた人ほど、その後の生活の質が保たれていました。変化の前に、続けたい場を1つ決めておきます。
目安 生活が変わる前に1回・5分
参加した日は、ひとこと話して帰る
「一員だと感じる」気持ちは、いきなり生まれるものではありません。あいさつや「また来ます」のひとことから始めます。短い会話の効用はゆるいつながりと気分の研究でも紹介しています。
目安 参加のたびに・1分
在宅勤務で職場の雑談が減った人は、在宅勤務の孤独と「支え」の調査もあわせて読むと、仕事の中でできる工夫が見えてきます。
05よくある質問
趣味のサークルや地域の集まりに入ると、うつの予防になる?
予防になると確かめられたわけではありません。中高年を追った研究では、属するグループが多い人ほど、その後うつになりにくい傾向がありました。ただし関連を見た研究で、元気な人ほどグループに入りやすいという可能性も残っています。
ネットのコミュニティやSNSのグループでも同じ効果がある?
まだわかっていません。今回紹介した研究は、クラブや団体、家族や地域など、主に対面の集団を対象にしたものです。オンラインのつながりが同じ働きをするかは、別に調べる必要があります。
人付き合いが苦手でも、グループに入ったほうがいい?
無理に数を増やす必要はありません。スコットランドの1,824人の研究で関わっていたのは、会う回数より「自分はこのグループの一員だ」と感じられるかどうかでした。1つでも、居心地のよい場を見つけることが手がかりになります。
退職や転職で仕事仲間とのつながりがなくなるのが心配です
その心配には研究の裏づけがあります。イングランドの退職者424人の研究では、退職前の団体を続けた人ほど、6年後の生活の質や生存の見込みがよい傾向でした。生活が変わる前に、仕事以外の場を1つ持っておくと備えになります。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Cruwys T, Dingle GA, Haslam C, Haslam SA, Jetten J, Morton TA (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186. https://doi.org/10.1016/j.socscimed.2013.09.013
- Sani F, Madhok V, Norbury M, Dugard P, Wakefield JR (2015). Greater number of group identifications is associated with lower odds of being depressed: evidence from a Scottish community sample. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology, 50, 1389-1397. https://doi.org/10.1007/s00127-015-1076-4
- Steffens NK, Cruwys T, Haslam C, Jetten J, Haslam SA (2016). Social group memberships in retirement are associated with reduced risk of premature death: evidence from a longitudinal cohort study. BMJ Open, 6, e010164. https://doi.org/10.1136/bmjopen-2015-010164
- Haslam C, Cruwys T, Haslam SA, Dingle G, Chang MX (2016). Groups 4 Health: Evidence that a social-identity intervention that builds and strengthens social group membership improves mental health. Journal of Affective Disorders, 194, 188-195. https://doi.org/10.1016/j.jad.2016.01.010
- 総務省統計局 (2022). 令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の要約. https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/youyakua.pdf


