仕事とAIの不安

仕事で注意されたことが、帰り道も頭の中でぐるぐる回る。米国の38人の実験では、緑の多い道を90分歩いた組で、思い返しの点数が少し下がった

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わかっている度 ★★☆ 中研究4本・公的指針0件を整理
木々に囲まれた公園の小道
Photo: Dr Neil Clifton / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究と公的機関のデータ・指針をAIが調べて整理しました(商品の紹介や診断はしていません。出典は末尾)。

上司に注意されたひと言や、会議での自分のミスが、帰りの電車でも、家に着いてからも頭の中で何度も再生される。AIの導入で仕事のやり方が変わり、慣れない作業でつまずく場面が増えた人もいるかもしれません。同じ場面を思い返し続けることを、心理学では「反すう」と呼びます。止めようとしても止まらないときに、体を動かす場所を変えることが手がかりになるのかを、研究から見ていきます。結論から言うと、緑の多い道を歩くことは思い返しを弱める手がかりになりえますが、確かめた実験はまだ少人数です。

3行でわかる

  1. 同じ失敗やいやな場面を何度も思い返す「反すう」は、気分の落ち込みと関わりが深い考え方のくせで、研究では「夢中になれる気晴らし」で弱まるとされています。
  2. 米国の38人の実験では、緑の多い道を90分歩いた組で反すうの点数が下がり、交通量の多い大通りを歩いた組では変わりませんでした。ただし2組の差は、統計的にははっきりしませんでした。
  3. 50件の研究のまとめでは、自然の中で体を動かすなどの取り組みが落ち込んだ気分を和らげる方向でした。近くの公園や並木道を、少し回り道して歩くことから試せます。

01 結論から言うと注意されたことを引きずるとき、歩くと楽になる?

緑の多い場所を歩くことは、思い返しを弱める手がかりになりえます。ただし直接確かめた実験は少人数で、効果の大きさはまだはっきりしていません。

注意されたことを引きずるのは、気持ちが弱いからではありません。いやな出来事の原因や意味を、頭の中で何度もなぞってしまう「反すう」は、病気の有無にかかわらず誰にでも起きうる考え方のくせです。米国の実験を報告した論文では、反すうは落ち込みなどのこころの不調が始まる前ぶれになりやすいと紹介されています。[1]

同じ論文は、反すうを弱めるには、注意を別のものへ移し続けられる「夢中になれる気晴らし」が必要だという先行研究も紹介しています。[1]緑の多い道を歩くことは、その一つになりうると考えられて調べられてきました。焦りでその場の頭がいっぱいになっているときの対処は自分を名前で呼ぶ方法の記事にまとめています。

02 研究とデータでわかっていること自然の中を歩くと、反すうは減る?

緑の道を90分歩いた組では反すうの点数が下がり、大通りの組では変わりませんでした。50件の研究のまとめでも、自然の中での活動は気分を和らげる方向でした。

35.4→33.1緑の多い道を90分歩いた組の反すうの点数(歩く前→後、米国の都市に住む健康な成人、2015年)
30.1→30.2交通量の多い大通りを90分歩いた組の反すうの点数(同じ実験)
50件自然の中での活動と心の健康を調べた研究のまとめ(うち16件がランダム化比較試験、2021年)
20〜90分効果が見られやすかった1回あたりの時間の幅(同じまとめ)

Bratman ら / スタンフォード大学(2015年)[1]

都市部に住む38人を2組に分け、片方は大学近くの草地と木々のある道、もう片方は片側3〜4車線の大通りを、それぞれ90分(5.3km)歩いてもらいました。緑の道の組は反すうの点数が35.39から33.06に下がり、大通りの組は30.11から30.16でほぼ変わりませんでした。脳の画像でも、緑の道の組でだけ、反すうと関わる部分の血流が下がっていました。

対象: 米国サンフランシスコ湾岸地域の都市部に住み働く、こころや神経の病気の診断を受けたことがない38人(平均26.6歳) / 限界: 2組の変化の差(交互作用)は p=0.07 で、統計的にははっきりしなかった。人数が少なく、1回の散歩の直後しか測っていない。

Bratman ら(2021年)[2]

ふだん自然の中で過ごす時間が長い学生ほど、反すうが少なく、いやな気分も少ない関連がありました。自然の中で過ごす時間といやな気分との関連の一部は、反すうの少なさを通じたものでした。

対象: 米国サンフランシスコ湾岸地域の大学生617人の調査 / 限界: 1時点の調査のため、自然の中で過ごすから反すうが減るのか、ほかの理由で両方が起きているのかは区別できない。

Coventry ら / ヨーク大学(2021年)[3]

自然の中で体を動かす、庭仕事をするなどの取り組みを調べた50件の研究をまとめました。ランダム化比較試験のまとめでは、落ち込んだ気分(標準化平均差 −0.64)、不安(−0.94)、いやな気分(−0.52)がいずれも和らぐ方向でした。効果が大きかったのは8〜12週続く取り組みで、1回あたり20〜90分の幅でした。

対象: 地域で暮らす18歳以上の成人(こころや体の病気がある人を含む) / 限界: 研究ごとの結果のばらつきが大きく、多くは数週間続くプログラムの効果で、1回の散歩の効果ではない。

Bratman ら / 自然科学・社会科学・健康科学の研究者の合意(2019年)[4]

分野をまたいだ研究者の整理では、自然にふれることが短期的に気分を良くする方向に働くという実験の証拠は増えている一方、それが長い目で見たこころの健康につながるかは、まだ十分に確かめられていないとされました。

対象: 自然体験とこころの健康に関する研究全体 / 限界: 効果は暮らし向きや住む場所、職業、好みなどによって違う可能性がある。

03 まだわかっていないこと散歩すれば、注意されたことを忘れられる?

忘れられるとまでは言えません。仕事で注意された人を対象に、歩くことで引きずりが減るかを確かめた研究は見当たりませんでした。

  • 反すうを直接測った散歩の実験は38人と小さく、緑の道と大通りの差は統計的にはっきりしませんでした。[1]
  • 実験で歩いたのは90分です。10分や20分の短い散歩で同じことが起きるかは、この実験からはわかりません。[1]
  • 実験の参加者は、こころや神経の病気の診断を受けたことがない人でした。落ち込みが強いときにも同じように働くかは、まだわかっていません。[1]
  • 自然の中での活動のまとめで効果が見られたのは、主に数週間続くプログラムでした。1回の散歩の効果がどれくらい続くかは、はっきりしていません。[3][4]

04 今日からできるセルフケア帰り道に思い返しが止まらないとき、何をすればいい?

いつもの道を少し緑の多い道に変え、周りの景色に注意を向けて歩くことから試せます。仕事の振り返りは、時間を決めて机の上で行うほうが区切りやすくなります。

1

帰り道を、木や草の多い道に変えてみる

駅までの道や最寄りの公園、川沿いなど、車の多い大通りを避けられる道を選びます。実験で比べられたのは、緑の道と交通量の多い大通りでした。

目安 いつもの道に5〜20分足す

2

歩きながら、見えるものを3つ数える

葉の色、空の雲、聞こえる音など、目と耳に入るものを順に拾います。反すうを弱めるには注意を移し続けられる気晴らしが必要とされているため、景色に注意を向ける工夫です。

目安 歩いている間、思い返しに気づくたびに

3

振り返りは、翌日の決まった時間に回す

注意された内容で直したいことがあれば、帰る前に1行だけメモし、考えるのは翌朝の10分と決めておきます。帰り道は「考える時間ではない」と区切りやすくなります。休日まで仕事のことが頭を離れないときは仕事から心を離す研究も参考になります。

目安 メモ1行、翌朝10分

4

週末に1回、少し長めに緑の中を歩く

まとめの研究で効果が見られやすかったのは、1回20〜90分を何週間か続ける取り組みでした。近所の公園を一周するところから始めます。

目安 週1回20分から

05よくある質問

上司に注意されたことを引きずってしまうのは、自分が弱いから?

いいえ。いやな出来事を何度も思い返す「反すう」は、誰にでも起きうる考え方のくせとして研究されています。ただし、反すうは落ち込みが始まる前ぶれになりやすいとも報告されているため、続くときは弱める工夫をしておくと安心です。

散歩はどれくらいの時間すればいい?

反すうを直接調べた実験では90分歩いていました。自然の中での活動を調べた50件の研究のまとめでは、効果が見られやすかった1回の時間は20〜90分の幅でした。短い時間でも効くかはまだ確かめられていないので、無理のない範囲で、いつもの道に少し足すところから試すのが現実的です。

近くに公園がない。街の中を歩くだけでも意味はある?

実験では、交通量の多い大通りを90分歩いた組の反すうの点数はほとんど変わりませんでした。街なかでも、並木道や川沿い、植え込みの多い道など、少しでも緑のある道を選ぶ工夫が考えられます。

歩いても思い出してしまうときはどうすればいい?

思い出すこと自体は自然なことです。思い出したと気づいたら、景色や音に注意を戻すことをくり返します。それでも何日も頭から離れず眠れない、仕事に行くのがつらいといった状態が続くときは、ひとりで抱えずに相談できる場所があります。

つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。

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出典

  1. Bratman, G. N., Hamilton, J. P., Hahn, K. S., Daily, G. C., & Gross, J. J. (2015). Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(28), 8567–8572. https://doi.org/10.1073/pnas.1510459112
  2. Bratman, G. N., Young, G., Mehta, A., Lee Babineaux, I., Daily, G. C., & Gross, J. J. (2021). Affective benefits of nature contact: The role of rumination. Frontiers in Psychology, 12, 643866. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.643866
  3. Coventry, P. A., Brown, J. V. E., Pervin, J., et al. (2021). Nature-based outdoor activities for mental and physical health: Systematic review and meta-analysis. SSM - Population Health, 16, 100934. https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2021.100934
  4. Bratman, G. N., Anderson, C. B., Berman, M. G., et al. (2019). Nature and mental health: An ecosystem service perspective. Science Advances, 5(7), eaax0903. https://doi.org/10.1126/sciadv.aax0903