AIで仕事を失う不安が、何か月も消えない。スペインの働く人1,008人の調査では、ひとりで閉じこもる対処をとる人ほど、仕事の不安と落ち込みの結びつきが強かった

自分の仕事もAIに置き換わるのでは、という不安が何か月も頭から離れない。誰かに話すほどのことでもない気がして、ひとりで考え込んでしまう。そんな人は少なくありません。AIに限らない雇用不安の研究では、不安が長引くほど心の負担は大きくなり、ひとりで閉じこもる対処をとる人ほど、仕事の不安と落ち込みの結びつきが強くなっていました。
3行でわかる
- 英国の公務員約3,400人の研究では、仕事を失う不安が続いた人で心身の不調の訴えが最も多く、不安がなくなった人にも心の面の悪影響が残っていた。
- スペインの働く人1,008人の調査では、人を避けてひとりで閉じこもる対処が、仕事の不安と重い落ち込みの症状の結びつきを強めていた。
- 立て直しは、閉じこもりに気づく、支えてくれる人に実際に話す、自分を責める言葉を減らす、から始められる。
01 結論から言うと長引く仕事の不安で、心がすり減るのはなぜ?
不安が長く続くこと自体が負担になるからです。英国の研究では、仕事を失う不安が続いた人で不調の訴えが最も多くなっていました。ひとりで閉じこもる人ほど、不安と落ち込みの結びつきが強いことも報告されています。
ここで紹介する研究は、AIによる不安を調べたものではありません。会社の再編や景気などによる「仕事を失うかもしれない」という不安(雇用不安)の研究です。AIへの不安も、先の見えない雇用の不安という点で共通しています。
雇用不安は、自分の力だけではどうにもならない部分が大きいストレスです。研究の著者らも、だからこそ個人の工夫だけでなく、人とのつながりが大事だと述べています。不安が消えないのは、あなたの気持ちが弱いからではありません。
02 研究とデータでわかっていることひとりで抱え込むと、何が起きる?
仕事の不安と落ち込みの結びつきが強くなっていました。スペインの働く人1,008人の調査では、人を避けて閉じこもる対処が、男女とも、仕事の不安と重い落ち込みの症状の関係を強めていました。
Menéndez-Espina ら(2019)[1]
雇用不安が強い人ほど、不安と不眠、落ち込みなどの心の不調の点数が高い関連がありました。8つの対処の仕方のうち、人を避けて閉じこもる対処は、男女とも、雇用不安と重い落ち込みの症状の結びつきを強めていました。女性では、自分を責める対処が4つの心の不調すべての点数の高さと関連していました。支えてくれる人がいると感じている人ほど、心の不調の点数は低めでした。
対象: スペインの働く人1,008人(女性588人・男性420人、平均36歳) / 限界: 1回の調査で、どちらが原因かはわかりません。著者らは、閉じこもりなどの「離れる」対処の悪影響のほうが、前向きな対処の守る働きより目立ったとまとめています。
Lindberg ら(2026)[2]
スウェーデンの働く人を10年間追った調査です。35歳以下の人は36歳以上より仕事を失う不安が強く、不安が2年後の落ち込みの症状と結びつく関連も中くらいの強さでした(女性0.106、男性0.111)。36歳以上では、落ち込みが2年後の仕事の不安と結びつく、逆向きの関連も見られました。
対象: 2010〜2020年の6回の調査のうち、続けて2回以上答えたスウェーデンの働く人14,827人 / 限界: 調査の時点で働いていた人が対象で、最も不安定な立場の人は少なめです。観察研究で、因果関係は確かめられていません。
Ferrie ら(2002)[3]
英国の公務員を1995〜96年と1997〜99年に調べた研究です。仕事の安定を失った人では、安定が続いた人より心身の不調の訴えが多くなっていました。仕事を失う不安が続いた人で、不調の訴えが最も多くなっていました。不安がなくなった人にも、とくに心の面で悪い影響が残っていました。
対象: 英国の事務系の公務員(女性931人・男性2,429人) / 限界: 20年以上前の英国の公務員の研究で、今の働き方やAIの不安にそのまま当てはまるかはわかりません。
職場の研修や助け合いが不安をためにくくする研究は「AIで仕事が変わる不安を、ひとりでためこみたくない」で整理しています。
03 まだわかっていないことAIへの不安でも、同じことが言える?
まだわかりません。紹介した研究は、会社の再編や景気などによる雇用不安を調べたもので、AIによる不安を長く追った研究は見当たりませんでした。人に頼ると不安が軽くなるかを試した実験もまだありません。
- スペインの調査は1回きりの調査で、閉じこもるから落ち込むのか、落ち込むから閉じこもるのかは区別できません。
- 人に頼る対処が雇用不安の悪影響をやわらげるかは、男女で結果が違い、はっきりしませんでした。
- 英国の研究は1990年代の公務員、スウェーデンの調査は北欧の働く人です。日本の働く人で同じ結果になるかは確かめられていません。
- 不安がなくなったあと、どれくらいの期間で心の調子が戻るかは、わかっていません。
04 今日からできるセルフケア長引く仕事の不安から、立て直すには?
ひとりで閉じこもる時間に気づき、支えてくれる人に実際に話すことです。研究で心の負担と関連していた対処を避ける形で、お金をかけずにできる工夫を3つ挙げます。
「閉じこもりサイン」を書き出す
誘いを断る、ひとりで検索ばかりする、誰にも言わずに考え込むなど、自分が閉じこもるときの行動を3つ書き出します。調査では、人を避ける対処が落ち込みとの結びつきを強めていました。
目安 5分
支えてくれる人に、実際に1回話す
同僚、昔の同期、家族など、話せそうな人を1人選び、「最近AIのことで少し不安で」と一言だけ伝えます。著者らは、支えがあることと実際に使うことは別だと指摘しています。
目安 週1回・10分ほど
自分を責める言葉を、事実の言葉に言い換える
「自分はもう必要ない」と浮かんだら、「会社でAIの導入が進んでいて、先が見えない」のように起きている事実だけに書き直します。調査では、女性で自分を責める対処が心の不調の高さと関連していました。
目安 浮かんだときに1分
不安を抱えたまま動く方法は「AIの不安が消えるのを待っていたら、何も手につかない」、立ち直る力を育てる練習は「AIで仕事を失う不安が続いて、心が折れそう」も参考になります。
05よくある質問
仕事の不安が消えたのに、気持ちがすぐ戻らないのはおかしいですか?
おかしくありません。英国の公務員を追った研究では、仕事の不安がなくなった人にも、とくに心の面で悪い影響が残っていました。著者らは、仕事を失う不安の悪影響は、脅威がなくなっても完全には元に戻らないとまとめています。
若い人のほうが、仕事の不安で落ち込みやすいのですか?
スウェーデンの調査ではそうでした。35歳以下の働く人は仕事を失う不安が強く、不安から2年後の落ち込みへの結びつきも、36歳以上より強めでした。36歳以上では、落ち込みのほうが後の仕事の不安と結びつく方向も見られました。
支えてくれる人がいれば、それで十分ですか?
支えがあると感じる人ほど心の不調は少なめでしたが、それだけでは十分とは言えません。スペインの調査の著者らは、支えがあることと、それを実際に使うことは別だと指摘し、雇用不安に向き合うには自分から頼ることが大事だと書いています。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Menéndez-Espina S, Llosa JA, Agulló-Tomás E, Rodríguez-Suárez J, Sáiz-Villar R, Lahseras-Díez HF (2019). Job Insecurity and Mental Health: The Moderating Role of Coping Strategies From a Gender Perspective. Frontiers in Psychology, 10, 286. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.00286
- Lindberg Y, Rajaleid K, Kecklund G, Peristera P, Nyberg A (2026). Reciprocal longitudinal associations between job insecurity and depressive symptoms in young working women: the SLOSH study 2010–2020. International Archives of Occupational and Environmental Health, 99, 41. https://doi.org/10.1007/s00420-026-02230-6
- Ferrie JE, Shipley MJ, Stansfeld SA, Marmot MG (2002). Effects of chronic job insecurity and change in job security on self reported health, minor psychiatric morbidity, physiological measures, and health related behaviours in British civil servants: the Whitehall II study. Journal of Epidemiology and Community Health, 56(6), 450–454. https://doi.org/10.1136/jech.56.6.450


