仕事とプライベートの境目がなくなって、眠れない日が続いている。ドイツの働く人128人の実験では、6回のオンライン回復トレーニングのあと、不眠の点数がほぼ半分になっていた

スマホやAIのおかげで、夜でも休日でも仕事ができるようになりました。そのぶん、寝る前まで仕事のことが頭を回り、眠れない日が何週間も続いている人もいます。ドイツの実験では、仕事とプライベートの境目があいまいな働く人が、仕事から心を離す練習と眠りの習慣を学ぶオンラインの回復トレーニングを受けると、不眠の点数がほぼ半分になっていました。
3行でわかる
- 91の調査のまとめでは、仕事から心を離せている人ほど、よく眠れて疲れも少ない関連があった。
- ドイツの128人の実験では、6回のオンライン回復トレーニングのあと、不眠の点数が18.5点から9.5点に下がり、待機した組(18.2点から15.6点)より大きく改善した。
- 立て直しは、終業の合図を決める、夜に仕事を見ない時間をつくる、寝床で考え込まない、から始められる。
01 結論から言うと境目のない働き方で眠れないとき、立て直せる?
立て直せる可能性は十分あります。ドイツの働く人128人の実験では、仕事の環境が変わらないままでも、仕事から心を離す練習と眠りの習慣を学んだ組で、不眠の点数がほぼ半分になっていました。
仕事が終わっても頭の中で仕事が続く状態を、研究では「仕事のことを考え込む(反すう)」と呼びます。考え込みが続くと頭と体が興奮したままになり、寝つきにくく、目が覚めやすくなると考えられています。
逆に、休みの時間に仕事から気持ちが離れている状態を「心理的な切り離し(デタッチメント)」と言います。紹介する研究は、AIの影響を直接調べたものではありません。ただ、いつでも仕事に触れられる働き方という点は、AI時代の悩みと重なります。
02 研究とデータでわかっていること仕事から心を離す練習で、眠りは戻る?
ドイツの実験では戻っていました。オンラインの回復トレーニングを受けた組は、不眠の点数が平均18.5点から9.5点に下がり、待機した組(15.6点)との差は8週間後も6か月後も大きいままでした。
Brückner ら(2024)[1]
仕事と私生活の境目があいまいな職場で働き、中程度以上の不眠がある人を2組に分けた実験です。片方は、1回45〜60分ほどの6つの単元からなるオンラインの回復トレーニングを受けました。中身は、ネットでの不眠の認知行動療法に、仕事から心を離す工夫や境目をつくる工夫を組み合わせたものです。8週間後の不眠の点数は、受けた組で平均18.5点から9.5点、待機した組で18.2点から15.6点でした。差は6か月後も大きく、落ち込み、心配、仕事から心を離す度合いもよくなっていました。
対象: ドイツの働く人128人(平均45.9歳、女性59%) / 限界: 比べた相手は待機した組で、同じ手間をかけた別の方法とは比べていません。6か月後の回答は44%が抜けていました。トレーニングの開発者の一部は、それを提供する会社の関係者です。改善後も、平均ではまだ軽い症状が残る範囲でした。
Wendsche・Lohmann-Haislah(2017)[2]
働く人の「仕事から心を離せているか」を調べた研究のまとめです。心を離せている人ほど、疲れきった感じが少なく、よく眠れて、生活の満足度が高い関連がありました(中くらいの強さ)。休みの時間に仕事をする人ほど心を離しにくく、まとめた研究はすべて同じ向きの結果でした。
対象: 86本の論文・91の調査、働く人38,124人 / 限界: 多くは観察研究で、どちらが原因かは決められません。研究ごとの結果のばらつきも大きめでした。
Seyffert ら(2016)[3]
大人の不眠に対する、ネットでの認知行動療法を調べた15件の試験のまとめです。待機などの組と比べて、寝床にいる時間のうち眠れている割合(睡眠効率)が7.2ポイント、睡眠時間が20分増え、寝つくまでの時間が11分短くなっていました。対面と比べた2件の試験では、統計的な差は見られませんでした。
対象: 15件の試験・2,392人 / 限界: 主に不眠のある大人が対象で、働き方の悩みに絞った研究ではありません。比べた相手は待機した組が中心でした。
休日に仕事のことを考えてしまうときの距離の取り方は「休日も仕事のことを考えてしまって休めない」、仕事の先行きの不安と眠りの関係は「AIで仕事を失うかもという不安で、眠りまで浅くなりそう」で整理しています。
03 まだわかっていないことどの工夫が効いたのかは、わかっている?
まだわかっていません。ドイツの実験は、眠りの習慣の練習と仕事から心を離す練習をまとめて試したもので、どちらがどれだけ効いたのかは区別できません。AIの使い方に絞った研究もまだ見当たりません。
- 仕事から心を離す工夫を足したことで、ふつうの不眠のプログラムより効果が上がるのかは、比べられていません。
- 参加者は保険会社の案内を見て自分から申し込んだ人たちで、会社の制度として配った場合は効果が小さくなるかもしれないと著者らは述べています。
- 日本の働く人や、AIを使う仕事に絞った研究は、まだ見当たりませんでした。
- 仕事から心を離すことと眠りの関連は、1回きりの調査で強く、毎日の記録の調査では弱めでした。
04 今日からできるセルフケア眠れない夜を減らすために、今日からできることは?
仕事の終わりをはっきりさせ、夜に仕事に触れない時間をつくり、寝床で考え込まないことです。研究で使われた工夫の考え方をもとに、お金をかけずにできることを3つ挙げます。
終業の合図を決める
仕事を終えるときに、明日最初にやることを1行メモしてから、仕事のアプリや画面を閉じます。研究のトレーニングにも、仕事と私生活の境目をつくる工夫が含まれていました。
目安 毎日・5分
夜に仕事を見ない時間をつくる
寝る前の1時間など、仕事の連絡を見ない時間を自分で決めて、通知を切ります。研究のまとめでは、休みの時間に仕事をする人ほど、仕事から心が離れにくい関連がありました。
目安 毎晩・寝る前の1時間
寝床で仕事の考えごとをしない
寝床で仕事のことが頭を回り続けたら、いったん起きて、明かりを落とした別の場所で気持ちが落ち着くのを待ってから戻ります。研究のトレーニングにも、寝床と眠りを結びつけ直す練習が含まれていました。
目安 眠れないと感じたとき
連休明けに仕事の考え込みを防ぐ工夫は「連休明け、仕事のことが頭から離れなくなるのを防ぎたい」も参考になります。
05よくある質問
スマホで仕事の連絡を見るのをやめれば、眠れるようになりますか?
それだけで眠れるとは言い切れません。17件の研究のまとめでは、休みの時間に仕事をする人ほど仕事から心が離れにくい関連がありましたが、因果関係までは確かめられていません。ドイツの実験では、仕事の環境が変わらないままでも、考え方と眠りの習慣の練習で不眠の点数が下がっていました。
ネットのプログラムは、対面の相談より効果が落ちますか?
比べた研究はまだ少ないものの、差は見られていません。15件の試験のまとめのうち、ネットと対面の不眠の認知行動療法を比べた2件では、睡眠の効率や睡眠時間、不眠の重さに統計的な差はありませんでした。
職場の環境が変わらないままでも、よくなりますか?
ドイツの実験では、仕事とプライベートを分けにくい環境は8週間でほとんど変わりませんでしたが、不眠の点数は下がっていました。ただし平均ではまだ軽い症状が残る範囲で、著者らは職場の側の取り組みも必要だと述べています。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Brückner H, Wallot S, Horvath H, Ebert DD, Lehr D (2024). Effectiveness of an online recovery training for employees exposed to blurred boundaries between work and non-work: Bayesian analysis of a randomised controlled trial. BMJ Mental Health, 27(1), e301016. https://doi.org/10.1136/bmjment-2024-301016
- Wendsche J, Lohmann-Haislah A (2017). A Meta-Analysis on Antecedents and Outcomes of Detachment from Work. Frontiers in Psychology, 7, 2072. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2016.02072
- Seyffert M, Lagisetty P, Landgraf J, Chopra V, Pfeiffer PN, Conte ML, Rogers MAM (2016). Internet-Delivered Cognitive Behavioral Therapy to Treat Insomnia: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLoS ONE, 11(2), e0149139. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0149139


