ストレス続きで落ちた集中力を、呼吸の練習で立て直したい。北京のIT企業の社員39人の8週間の実験では、練習した組のほうが注意のテストの伸びが大きかったが、練習しない組も伸びていた

忙しい時期が続いたあと、画面に向かっても頭がまとまらない。そんな状態から立て直す方法として、ゆっくりした呼吸の練習がよく紹介されます。結論から言うと、呼吸の練習で集中力が戻るかは、研究がまだ少なく言い切れません。確かめられているのは、ストレスや気分を少し軽くする効果のほうです。
3行でわかる
- 北京のIT企業の社員39人の実験では、8週間で20回、腹式呼吸を練習した組のほうが、注意のテストの点数の伸びが大きかった。
- ただ、練習しない組も点数が上がっていた。人数が少なく、組の分け方も申し込み順だったため、確かな結論ではない。
- 呼吸法の試験12件のまとめでは、ストレスが小〜中程度下がっていた。集中そのものより、まずストレスを下げる手段として使うのが研究に合う。
01 結論から言うと呼吸の練習で、落ちた集中力は戻る?
呼吸の練習で集中力が戻るかは、まだ結論が出ていません。注意の力を測った実験は少なく、小さな研究で「練習した組のほうが伸びが大きかった」という結果がある程度です。
一方で、呼吸の練習がストレスや不安を少し下げることは、複数の試験のまとめで示されています。ストレスが続くと頭が回りにくくなることは、ストレスと集中力の記事で紹介しました。
そのため、呼吸の練習は「集中力を直接きたえる方法」ではなく、「ストレスを下げて、立て直しの土台をつくる方法」と考えるのが、今の研究に合っています。
02 研究とデータでわかっていること呼吸の練習を続けると、注意の力はどう変わった?
IT企業の社員の8週間の実験では、練習した組で注意のテストの点数が平均6.7点上がり、練習しない組の4.2点より伸びが大きかった。呼吸法の試験のまとめでは、ストレスが小〜中程度下がっていた。
Maら(2017、北京師範大学ほか)[1]
IT企業の社員が、コーチの指導と呼吸を映す機械の助けを借りて、腹式呼吸を8週間に20回練習しました。練習した組では、たくさんの数字の中から、決まった印のついた数字を探して線で消す注意のテストの点数が平均6.7点上がりました。練習しない組も4.2点上がっていましたが、伸びは練習した組のほうが大きくなっていました。
練習した組では、ここ1週間の嫌な気分の点数も下がり、だ液のストレスホルモン(コルチゾール)も下がっていました。ただ、嫌な気分の下がり方の違いは、組どうしで比べると統計的にはっきりしませんでした。前向きな気分は、どちらの組でも変わりませんでした。
対象: 中国・北京のIT企業の社員39人(平均年齢は約30歳)。腹式呼吸の練習中は、呼吸が平均で1分に約3〜4回まで遅くなっていた / 限界: 組の分け方は申し込み順の交互で、人数も少ない。練習しない組も最後の測定日に呼吸を行っており、著者らはその直後の効果も点数の伸びに含まれると考えている。
Finchamら(2023、英国サセックス大学ほか)[2]
呼吸法とストレスを調べたランダム化比較試験12件(大人785人)をまとめると、呼吸法を行った人は、行わなかった人よりストレスの点数が低くなっていました(効果の大きさ0.35、小〜中程度)。不安(20件)と気分の落ち込み(18件)でも、同じくらいの効果が見られました。
対象: 健康な大人のほか、体や心の病気がある人も含む / 限界: 多くの研究は偏りのリスクが中程度とされ、著者らは期待が先走らないよう慎重な解釈を求めている。集中力や注意の力は、このまとめでは調べていない。
Zaccaroら(2018、イタリア・ピサ大学ほか)[3]
1分に10回未満のゆっくりした呼吸を、健康な人で調べた研究15件を整理したレビューです。心拍のゆらぎが大きくなるなど、体が落ち着く方向の変化が見られました。気持ちの面では、くつろぎ・心地よさ・元気さ・頭のさえを感じる人が増え、不安や怒り、混乱が減っていました。
対象: 2,461件の要旨から条件に合った健康な人の研究15件 / 限界: 研究の数が少なく、気持ちの変化の多くは本人の感じ方で測っている。仕事の集中が何時間続くかなどは調べていない。
3つの研究を並べると、次のように整理できます。
- ストレス・不安: 12〜20件の試験のまとめで、呼吸法により小〜中程度下がっていた。
- 頭のさえ(感じ方): ゆっくりした呼吸のあと、「元気が出た」「頭がさえた」と感じる人が増えていた。
- 注意のテストの成績: 39人の実験で伸びが大きかった程度で、確かめる研究はまだ少ない。
03 まだわかっていないこと呼吸の練習が集中に効くと言えないのはなぜ?
注意の力を測った研究が少なく、あっても人数が少ないためです。練習しない組でも点数が上がっていたことから、テストへの慣れの影響も切り分けきれていません。
- 北京の実験は39人と小さく、組の分け方も申し込み順の交互だった。くじで分けた大きな研究での確認はまだない。
- コーチと機械の助けを借りた練習の結果で、ひとりで家で練習した場合も同じかはわからない。
- 注意のテストの点数の伸びが、資料作りや読書など実際の仕事の集中につながるかは調べられていない。
- AIやスマホを長く使う生活で落ちたと感じる集中が、呼吸の練習で戻るかを直接調べた研究は見当たらない。
04 今日からできるセルフケア呼吸の練習で集中を立て直すには、何から始める?
まず1日1回、5〜10分のゆっくりした呼吸を続け、ストレスを下げる土台にします。集中への効果は人によって違うため、メモで自分に合うかを確かめます。
5秒吸って5秒吐く呼吸を5分
いすに座って目を閉じ、おなかをふくらませながら鼻から吸い、おなかをへこませながらゆっくり吐きます。研究でいう「1分に10回未満」に収まるペースです。苦しければ回数を気にせず、ふつうの呼吸に戻します。
目安 1日1回5分から。慣れたら10分
頭を使う作業の前に、呼吸を入れる
大事な資料に取りかかる前や、会議の合間に呼吸の時間を入れ、それから一番頭を使う作業に入ります。北京の実験でも、1回は15分のふつうの呼吸と15分の腹式呼吸の組み合わせでした。
目安 作業の前に3〜5分
05よくある質問
呼吸の練習をすると、集中力は戻る?
研究はまだ少なく、はっきりとは言えません。北京のIT企業の社員を対象にした8週間の小さな実験では、練習した組のほうが注意のテストの点数の伸びが大きめでした。ただ練習しない組も点数が上がっており、人数も39人と少ない研究です。
1回の深呼吸でも、集中しやすくなる?
1回で集中力がどう変わるかを確かめた研究は、この記事で調べた範囲では少数です。ゆっくりした呼吸の研究をまとめたレビューでは、呼吸のあとに「すっきりした」「元気が出た」と感じる人が増えていましたが、これは本人の感じ方の結果です。
どのくらいゆっくり呼吸すればいい?
研究でいう「ゆっくりした呼吸」は1分に10回未満が目安です。北京の実験では、コーチと機械の助けを借りて、平均で1分に3〜4回まで下げていました。いきなりそこまで下げず、1分に6回前後(5秒吸って5秒吐く)から試すと無理がありません。
息苦しくなったり、気分が悪くなったりしたら?
すぐにやめて、ふつうの呼吸に戻してください。呼吸の練習は誰にでも合うわけではありません。持病がある人や体調に不安がある人は、医師に相談してから試すと安心です。
仕事中の焦りをその場で落ち着ける呼吸のやり方は、深呼吸とストレスの記事で整理しています。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Ma X, Yue ZQ, Gong ZQ, Zhang H, Duan NY, Shi YT, Wei GX, Li YF (2017). The Effect of Diaphragmatic Breathing on Attention, Negative Affect and Stress in Healthy Adults. Frontiers in Psychology, 8, 874. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00874
- Fincham GW, Strauss C, Montero-Marin J, Cavanagh K (2023). Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials. Scientific Reports, 13, 432. https://doi.org/10.1038/s41598-022-27247-y
- Zaccaro A, Piarulli A, Laurino M, Garbella E, Menicucci D, Neri B, Gemignani A (2018). How Breath-Control Can Change Your Life: A Systematic Review on Psycho-Physiological Correlates of Slow Breathing. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 353. https://doi.org/10.3389/fnhum.2018.00353


