仕事中に焦ってきたら、深呼吸は効く?ゆっくりした呼吸は12件の試験でストレスを下げていた

締め切りが迫る中で、チャットの通知が続き、AIの出力の確認も終わらない。胸が詰まるような焦りを感じたとき、「深呼吸」は気休めでしょうか。研究のまとめでは、呼吸法を練習した人たちは、しなかった人たちよりストレスと不安の点数が低くなっていました。効果は小〜中程度ですが、道具もお金もいらず、その場で始められる方法です。
3行でわかる
- 呼吸法のランダム化比較試験12件(大人785人)をまとめた研究では、呼吸法をしたグループのほうがストレスが低く、効果は小〜中程度でした。不安と抑うつの点数も同じ方向でした。
- 108人が毎日5分の呼吸法か瞑想を最長28日間続けた試験では、どれも不安を下げ、吸い足してから長く吐く「生理的ため息」で前向きな気分がいちばん上がっていました。
- 1分10回より遅い呼吸では、体を休ませる神経(副交感神経)の働きを示す心拍のゆらぎが、呼吸中から大きくなっていました。
01結論から言うと
ゆっくりした呼吸は、ストレスや不安を下げる方向の結果が複数のまとめでそろっています。効果は小〜中程度で、魔法ではありませんが、仕事中でもすぐできる確かめられた手段です。
焦りを感じると、呼吸は自然と浅く速くなります。呼吸は、自分の意思で変えられる数少ない体の働きのひとつです。
呼吸を1分に10回より遅くすると、心拍のゆらぎ(心拍変動)が大きくなることが、たくさんの実験で確かめられています。心拍変動は、体を休ませる神経がどれくらい働いているかの目安とされています。
ただし、どの呼吸の仕方が一番よいか、何週間続ければよいかは、まだはっきりしていません。「試して損の少ない方法」として使うのがちょうどよい距離感です。
02研究とデータでわかっていること
12件の試験のまとめでストレスが下がり、不安を調べた20件でも同じ方向でした。心拍を見ながら呼吸を整える練習のまとめでも、ストレスと不安の点数は下がっていました。
Finchamら(2023年)[1]
呼吸を意識的に整える方法(呼吸法)のランダム化比較試験12件をまとめました。呼吸法をしたグループは、しなかったグループよりストレスの点数が低く、効果の大きさは「小〜中程度」でした。不安(20件)と抑うつ症状(18件)でも、同じくらいの大きさで点数が低くなっていました。12件のうち10件は、ゆっくりした呼吸が中心の方法でした。
対象: 大人785人。半数は体の病気のある人、5件は病気のない人が対象。比べた相手は、積極的な取り組みをしないグループ(7件)と別の取り組みをするグループ(5件) / 限界: 多くの試験で偏りのリスクが中程度と評価され、終了後しばらくしてからの効果は試験が足りず分析できていません。
Balbanら(2023年)[2]
108人を、毎日5分の呼吸法3種類か、マインドフルネス瞑想に分け、最長28日間続けてもらいました。どのグループも、毎回の練習の前後で不安と嫌な気分が下がっていました。呼吸法のグループは瞑想より前向きな気分が大きく上がり、とくに「吸ってから、もうひと吸いして、長く吐く」生理的ため息(サイクリック・サイ)で差がはっきりしていました。この方法では、続けた日数が多いほど上がり幅も大きくなっていました。
対象: 18歳以上の108人。多くは米国スタンフォード大学の心理学の授業の受講生で、心臓病・けいれん・妊娠などの人は安全のため除外 / 限界: 不安の下がり方には呼吸法と瞑想で差がありませんでした。事前登録をしていない探索的な研究で、自宅での練習の仕方は確認しきれていません。
Zaccaroら(2018年)[3]
1分に10回より遅い呼吸の効果を、健康な人を対象にした15件の研究から整理しました。ゆっくりした呼吸では心拍のゆらぎが大きくなり、くつろぎやリラックス、活力が増え、不安や怒り、混乱などの症状が減っていました。
対象: 健康な人を対象にした15件の研究 / 限界: 呼吸の方法や参加者の条件がばらばらで、数字をまとめる分析はできず、研究どうしで食い違う結果もありました。
Labordeら(2022年)[4]
意識してゆっくり呼吸したときの心拍の変化を、223件の研究からまとめました。体を休ませる神経の働きを示す心拍のゆらぎは、ゆっくり呼吸している最中、1回の練習の直後、何回か練習を重ねた後のいずれでも大きくなっていました。著者らは、手軽で費用がかからず、副作用も少ないと予想される方法だとしています。
対象: 223件(呼吸中172件、1回の直後16件、練習を重ねた後49件) / 限界: 心拍の変化を調べたもので、気持ちが楽になるかを直接測ったまとめではありません。
Goesslら(2017年)[5]
心拍のゆらぎを画面で見ながら呼吸を整える練習(心拍変動バイオフィードバック)の24件の研究をまとめました。練習したグループは比べたグループより、本人が答えるストレスと不安が大きく下がっていました。
対象: 24件・484人 / 限界: 専用の機器を使う練習で、著者らも、条件をそろえた研究がもっと必要だとしています。
03まだわかっていないこと
どの呼吸法が一番よいか、効果がどれくらい続くかは、まだ結論が出ていません。仕事中に1回だけ行ったときの気持ちへの効果も、研究が十分ではありません。
- 12件のまとめは、何回も練習する取り組みが中心でした。焦った瞬間に1回だけ行ったとき、気持ちがどれだけ楽になるかは、今回調べた範囲でははっきりしませんでした。
- 生理的ため息が瞑想より前向きな気分を上げた結果は、大学生が多い1件の試験によるもので、ほかの研究での確認が待たれます。
- 練習をやめた後に効果が続くかは、試験の数が足りず分析できていません。
- 速いペースの呼吸法は12件中2件しかなく、効果も安全性も比べられる段階ではありません。
- AIやチャットに追われる働き方に特有の焦りを対象にした研究は、まだ見つかりませんでした。
04今日からできるセルフケア
焦りを感じたら、1分6回のゆっくり呼吸か、吸い足して長く吐く呼吸を数分。毎日5分の時間を決めて続けると、効果を確かめやすくなります。苦しくなったらすぐやめます。
5秒吸って5秒吐く、1分6回のゆっくり呼吸
座ったまま、5秒かけて吸い、5秒かけて吐きます。これで1分に6回です。研究で扱われた「1分10回より遅い呼吸」の範囲に入り、心拍のゆらぎは呼吸中から大きくなっていました。数えにくければ、時計の秒針を目で追います。
目安 焦りを感じたとき・2〜5分
吸って、もうひと吸い、口から長く吐く「生理的ため息」
鼻からゆっくり吸い、胸がふくらんだら、もう一度短く吸い足します。そのあと口からゆっくり、全部吐ききります。2回目の吸い足しが短くても問題ありません。研究では、これを5分繰り返していました。
目安 1回5分・自分の席やお手洗いで
毎日決まった時間に5分だけ練習する
始業前や昼休みなど、毎日同じタイミングで5分の呼吸法を行います。108人の試験では、生理的ため息を続けた日数が多いほど、前向きな気分の上がり幅が大きくなっていました。
目安 1日5分・まず2〜4週間
焦った返信の前に、呼吸を1分はさむ
急ぎのチャットやAIの出力に慌てて反応しそうになったら、送信の前に1分だけゆっくり呼吸します。呼吸を整えるあいだに、本当に今すぐ必要な返事かを見直せます。
目安 送信前に1分
めまい・息苦しさ・手のしびれなどを感じたら、すぐにやめて普通の呼吸に戻してください。速く深い呼吸をくり返す方法や、長く息を止める方法は、研究が少なく安全性が十分に調べられていないため、仕事中に行うのは避けましょう。紹介した試験では、心臓病やけいれんの経験がある人、妊娠中の人などは参加から外されていました。
即レスの焦りそのものについては仕事のチャットの即レス不安の研究、作業の合間の休み方は10分以内の短い休憩の研究も参考になります。体を動かす余裕がある日は、運動と不安の研究もどうぞ。
05よくある質問
深呼吸で本当に不安は減るの?
研究のまとめでは、減る方向の結果がそろっています。呼吸法のランダム化比較試験をまとめた研究では、不安を調べた20件でも、呼吸法をしなかったグループより不安の点数が低くなっていました。ただし効果の大きさは小〜中程度で、不安がゼロになるわけではありません。
呼吸法は何分やればいいの?
決まった正解はまだありません。108人の試験では、1日5分の呼吸法を最長28日間続けていました。12件の試験のまとめでは、練習の合計時間や回数と効果の大きさに、はっきりした関係は見られませんでした。まずは5分を目安にしてみてください。
鼻から吸う?口から吐く?
「生理的ため息」を試した研究では、吸うのは2回とも鼻から、吐くのは口からが望ましいとし、すべて鼻で行ってもよいと案内していました。苦しくない方法で続けることを優先してください。
速く深く呼吸する方法や、息を止める方法は?
速い呼吸を繰り返す方法は研究が少なく、安全性はまだ十分に調べられていません。うつ症状のある人を対象にした試験では、ほてり・息苦しさ・発汗が一部で報告されていました。仕事中のちょっとした焦りには、ゆっくり吐く方法から始めるのが無難です。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Fincham GW, Strauss C, Montero-Marin J, Cavanagh K (2023). Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials. Scientific Reports, 13, 432. https://doi.org/10.1038/s41598-022-27247-y
- Balban MY, Neri E, Kogon MM, Weed L, Nouriani B, Jo B, Holl G, Zeitzer JM, Spiegel D, Huberman AD (2023). Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal. Cell Reports Medicine, 4(1), 100895. https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2022.100895
- Zaccaro A, Piarulli A, Laurino M, Garbella E, Menicucci D, Neri B, Gemignani A (2018). How Breath-Control Can Change Your Life: A Systematic Review on Psycho-Physiological Correlates of Slow Breathing. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 353. https://doi.org/10.3389/fnhum.2018.00353
- Laborde S, Allen MS, Borges U, Dosseville F, Hosang TJ, Iskra M, Mosley E, Salvotti C, Spolverato L, Zammit N, Javelle F (2022). Effects of voluntary slow breathing on heart rate and heart rate variability: A systematic review and a meta-analysis. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 138, 104711. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2022.104711
- Goessl VC, Curtiss JE, Hofmann SG (2017). The effect of heart rate variability biofeedback training on stress and anxiety: a meta-analysis. Psychological Medicine, 47(15), 2578-2586. https://doi.org/10.1017/S0033291717001003


