燃え尽きて休んだあと、物忘れや集中しにくさがなかなか戻らない。スウェーデンの217人の追跡では、7年後に96%が「当時よりよくなった」と答えた一方、42%に物忘れが残っていた

ストレスで消耗しきって休んだあと、気力は少し戻ってきた。それなのに、人の名前が出てこない、長い文章が頭に入らない、話しかけられると何をしていたか忘れる。スウェーデンで燃え尽きの治療を受けた217人を追った研究では、7年後にほとんどの人が当時よりよくなったと答えていました。一方で、物忘れが残っていると答えた人も4割いました。回復は年単位で進み、その間に役立った工夫も記録されています。
3行でわかる
- スウェーデンで燃え尽き(疲弊障害)の治療を受けた217人の追跡では、7年後に96%が「当時よりよくなった」と答えた。完全に回復したと答えたのは16%で、物忘れが残る人は42%、集中しにくさが残る人は36%だった。
- 6〜10年後に38人から話を聞いた研究では、ほとんどの人が「いちばんひどかった頃よりずっとよい」と話した。長く集中し続けることや、新しいことを覚えることの苦手さは残りやすかった。
- 役立っていたのは、覚えることをカレンダーやメモに任せる、1つずつ取り組む、休みを予定に入れる、できない自分を責めすぎない、といった工夫だった。物忘れへの心配が強いと、かえって頭が働きにくくなった可能性も指摘されていた。
01 結論から言うと燃え尽きのあとの物忘れは、元に戻る?
多くの人で、時間とともによくなります。ただし年単位でかかり、一部が残る人もいます。スウェーデンの追跡では、7年後に96%が当時よりよくなったと答えた一方、42%が物忘れが残っていると答えていました。
この記事で紹介する研究は、スウェーデンで「疲弊障害(exhaustion disorder)」と診断された人を追ったものです。長く続いたストレスで心と体が消耗しきった状態を指す診断名で、研究者は「医療の場で扱う燃え尽き」と同じものとして説明しています。記憶や集中の問題は、この診断の基準にも入っています。
この記事は、読者が燃え尽きかどうかを判断するものではありません。研究で、燃え尽きの治療を受けた人の頭の働きがその後どう変わったかを整理します。AIの導入や情報の多さで張りつめた働き方が続いたあと、「頭が前のように動かない」と感じている人の手がかりになればと思います。
02 研究とデータでわかっていること燃え尽きのあと、頭の働きはどう戻っていく?
研究では、頭の働きはゆっくりよくなる一方、長く集中し続けることや新しいことを覚えることの苦手さは残りやすい、という形でした。数年のあいだに、ぶり返しをくり返しながら、少しずつ短く軽くなっていく人が多くいました。
Gliseら(2020年)[1]
スウェーデン・ヨーテボリの専門の診療所で、2004〜2012年に疲弊障害の治療を受けた人を追いました。7年後の時点で、当時と比べて「完全に回復した」は16%、「かなりよくなった」は59%、「よくなった」は21%で、合わせて96%がよくなったと答えていました。変わらない・悪くなったは4%でした。
一方で、残っている症状をたずねると、ストレスに弱くなったが73%、ひどい疲れが46%、物忘れが42%、集中しにくさが36%でした。医師が診察した163人のうち31%は、まだ疲弊の状態にあると判断されました。男女で大きな差はありませんでした。
対象: スウェーデンで疲弊障害の治療を受けた217人(女性74%、受診時の平均44歳) / 限界: 症状は「ある・ない」の1問ずつでたずねたもので、物忘れの一部は年齢による変化と区別できていない。対象者の35%は追跡に答えていない。
Nelsonら(2025年)[2]
疲弊障害のリハビリを受けた38人に、6〜10年後に話を聞きました。ほとんどの人(研究の基準で30〜34人)が、いちばんひどかった頃と比べて頭の働きは「ずっとよくなった」と話していました。ただ、症状が少し残る人も多く、長い会議で集中し続ける、新しいことを覚える、途中で話しかけられたあとに元の作業を続ける、といった場面の苦手さが語られていました。
回復を助けていたのは、睡眠やストレスの減少など体調全体の回復、カレンダーの通知やメモなど記憶を外に任せる工夫、1つずつ取り組むこと、作業に時間を多めにとること、休みや中断の少ない環境でした。物忘れを「脳が変わってしまった」と心配する人もいて、研究者はその心配がストレスを高め、頭の働きをさらに難しくした可能性を指摘しています。受け入れて自分に優しく向き合えるようになった人は、頭の働きも楽になったと語っていました。
対象: スウェーデンで疲弊障害と診断された38人(平均52歳、女性32人) / 限界: 聞き取りによる研究で、思い出して語った内容にもとづく。割合や効果の大きさは測っていない。
Aronssonら(2026年)[3]
疲弊障害で24週間のリハビリを受けていた132人を、くじで3つの組に分けました。リハビリに加えて、パソコンで記憶や頭の切り替えを鍛える約20分の訓練を週3回、またはインドアのサイクリングを40分・週3回、それぞれ12週間行う組と、追加なしの組です。4.5年後に戻ってきた56人を調べると、訓練の組は、記憶などの検査をまとめた成績が追加なしの組より大きく上がっていました(効果の大きさ0.41)。
ただし、複数の検査をまとめて統計の補正をすると、この差ははっきりしたものとは言えなくなりました。サイクリングの組では、頭の働きへの効果は残っていませんでした。4.5年後に週2時間以上の運動を続けていたのは、この組の16人中2人だけでした。なお、追加なしの組も含めて、どの組でも検査の平均点は最初より上がっていました。
対象: スウェーデンで疲弊障害と診断された18〜60歳の132人(4.5年後の検査は56人) / 限界: 途中で参加をやめた人が多く、残った人が回復しやすい人に偏っている可能性がある。訓練は診療所が作った専用のもの。
Aronssonら(2024年)[4]
上の38人に、頭の働きに限らず、回復の道のり全体を聞いた研究です。回復は何年もかかる長いもので、ぶり返しはよくありましたが、多くの人でぶり返しはしだいに短く、軽くなっていました。
役立った休み方は時期で変わりました。最初は静かに休むことが欠かせず、回復が進むと、短くて体を動かすような活動に変わっていきました。半数以上が職場を変えており、働く環境や仕事の中身の調整が助けになったと語られていました。一方、休みの時間を日々の暮らしの中で優先し続けるのは難しいとも話していました。
対象: スウェーデンで疲弊障害と診断された38人(平均52歳、女性32人、治療から6〜10年後) / 限界: 聞き取りによる研究で、ほかの国や、受診していない人に当てはまるかはわからない。
ストレス続きで頭が回らない時期の研究はストレスが去ったあと注意が戻った実験の記事に、燃え尽きた感じが続くときの全体の回復は燃え尽きが続くときの記事にまとめています。
03 まだわかっていないこと燃え尽きのあと、どのくらいで頭は戻る?
はっきりした期間はわかっていません。回復の速さは人によって大きく違い、どんな人の物忘れが長引くのかも、まだ確かめられていません。
- 研究の多くは、スウェーデンで専門の治療やリハビリを受けた人が対象。日本の人や、受診せずに休んだ人に同じことが言えるかはわからない。
- 物忘れのうち、年齢による変化と燃え尽きの影響を分けて調べた研究は、今回の調査では見つからなかった。
- 記憶の訓練の長い効果は、参加者が大きく減ったうえ、統計の補正をすると確かとは言えなかった。市販の脳トレに同じ効果があるかは調べられていない。
- AIの導入や情報の多さが燃え尽きのきっかけになった人にしぼった研究は、今回の調査では見つからなかった。
04 今日からできるセルフケア物忘れや集中しにくさが続くとき、何をすればいい?
回復した人たちが使っていたのは、覚えることをメモやカレンダーに任せる、1つずつ取り組む、物忘れをストレスが増えたサインとして休みを入れる、できない自分を責めすぎない、という工夫でした。
覚えることを、その場で外に出す
予定は決めたその場でカレンダーに入れて通知を付け、頼まれたことはメモに書きます。聞き取りでは、多くの人が「覚えておく」役目をカレンダーやメモに任せていました。頭の負担を減らすための工夫で、怠けではありません。
目安 1件10秒、決めたその場で
作業は1つずつ、時間に余裕を持たせる
集中したい作業のあいだは通知を切り、ほかの作業と並べないようにします。途中で話しかけられると何をしていたかわからなくなる、と語る人もいました。1つずつ取り組み、作業の時間を多めにとることが助けになっていました。
目安 集中したい作業1つから
物忘れが増えたら、予定を1つ減らす
「手袋をなくしたら、抱えすぎのサイン」と話した参加者がいたように、物忘れはストレスが増えた合図として扱われていました。気づいた日は、予定を1つ減らすか、短い休憩を入れます。
目安 気づいた日に1回
「戻る途中」と受け止めて、責めすぎない
「脳が変わってしまった」という心配は、ストレスを高めて頭の働きをさらに難しくした可能性があると、研究者は述べています。できなかったことより、前と比べてできるようになったことを1つ書き留めます。
目安 1日1回・1分
集中力を取り戻す方法の研究は、1回の運動で注意の働きがよくなった実験の記事や脳トレで集中力を取り戻せるかの記事にもまとめています。
05よくある質問
燃え尽きのあと、頭はもう元に戻らない?
戻らないとは言えません。スウェーデンの217人の追跡では、7年後に96%が当時よりよくなったと答えていました。一方で42%は物忘れが残っていると答えており、「完全に元通り」になるかは人によって違います。
脳トレをすれば、早く戻る?
治療の場で行われた12週間のパソコンの訓練では、4.5年後も記憶などの成績が少し高い傾向がありましたが、統計の補正をすると確かとは言えませんでした。市販の脳トレについては、練習したゲームだけが上達していた実験もあります。
運動は、頭の働きの回復に役立つ?
12週間のサイクリングの効果は、4.5年後には残っていませんでした。運動を続けていた人は16人中2人だけで、研究者は、効果を保つには運動を続けることが必要だと考えています。
物忘れが心配で、仕事に戻るのが不安
聞き取りでは、仕事の量や中身の調整、働く時間を減らすこと、静かな環境で働けることが助けになったと語られていました。休むか戻るかの判断は、医師や職場の産業医と相談して決めることです。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Glise K, Wiegner L, Jonsdottir IH (2020). Long-term follow-up of residual symptoms in patients treated for stress-related exhaustion. BMC Psychology, 8, 26. https://doi.org/10.1186/s40359-020-0395-8
- Nelson A, Aronsson I, Tillfors M, Neely AS, Gavelin HM (2025). The experienced route to cognitive health: Cognitive recovery in persons with prior stress-related Exhaustion disorder. BMC Psychiatry, 25, 375. https://doi.org/10.1186/s12888-025-06713-7
- Aronsson I, Neely AS, Boraxbekk CJ, Eskilsson T, Gavelin HM (2026). Extended Long-Term Effects of Cognitive and Aerobic Training on Cognitive Function in Patients With Stress-Related Exhaustion Disorder: A 4.5-Year Follow-Up of a Randomized Controlled Trial. Stress and Health, 42(5), e70218. https://doi.org/10.1002/smi.70218
- Aronsson I, Neely AS, Boraxbekk CJ, Eskilsson T, Gavelin HM (2024). "Recovery activities are needed every step of the way" - exploring the process of long-term recovery in people previously diagnosed with exhaustion disorder. BMC Psychology, 12, 248. https://doi.org/10.1186/s40359-024-01756-z


