集中力が落ちたので、脳トレで取り戻したい。1万1千人が6週間続けた実験では、練習したゲームだけが上達していた

前より集中が続かない。AIに頼るうちに、頭の回転も鈍った気がする。そんなとき、脳トレのゲームで鍛え直そうと考える人は少なくありません。結論から言うと、脳トレで上達するのは主に練習したゲームそのものです。日常の集中力まで戻るという証拠は、今のところ乏しいとまとめられています。
3行でわかる
- 英国の科学番組の視聴者(18〜60歳)1万1,430人が6週間、脳トレを続けた実験では、練習した課題はすべて上達したが、練習していない検査には効果が広がらなかった。
- 健康な高齢者の研究52件のまとめでは、記憶や処理の速さに小さな効果があった一方、注意力と計画などの力には効果が見られなかった。
- 集中力を戻したいなら、取り戻したい作業そのものを短く練習し、集中を奪う原因を減らすほうが、研究の結果と合っている。
01 結論から言うと脳トレで、落ちた集中力は取り戻せる?
脳トレで日常の集中力が戻るという証拠は乏しいのが現状です。練習したゲームは上達しますが、その力がほかの作業に広がることは、質の高い研究ほど確かめられていません。
心理学では、練習した力がほかの場面にも広がることを「転移」と呼びます。似た作業に広がるのが「近い転移」、まったく違う作業に広がるのが「遠い転移」です。
脳トレに期待されるのは、遠い転移です。ゲームで鍛えた力が、仕事や読書の集中にまで広がってほしい、という期待です。研究が繰り返し示してきたのは、この遠い転移が起きにくいことでした。
一方で、集中しにくさには原因があることも多いものです。スマホが近くにあるだけで気が散る話はスマホが近くにあるだけで集中できないときの記事で、AIに頼って力が落ちた気がするときの話はAIに頼りきりで自分の力が落ちた気がするときの記事で整理しています。
02 研究とデータでわかっていること脳トレの効果について、研究では何がわかっている?
脳トレで上達するのは、練習した課題と、それによく似た課題が中心です。高齢者では記憶や処理の速さに小さな効果がありましたが、注意力への効果は複数の研究で見られませんでした。
Owenら(2010)[1]
参加者は、推理・記憶・計画・注意などを鍛える6種類の課題を、1日10分以上、週3回以上、6週間続けました。練習した課題は、どれも上達していました。しかし、練習していない別の検査の成績には、効果が広がりませんでした。課題どうしがよく似ていても同じでした。ネットで調べながら雑学クイズに答えただけのグループも、検査の成績は同じくらい上がっていました。
対象: 英国の放送局(BBC)の科学番組の視聴者で、サイトに登録した18〜60歳5万2,617人のうち、2回の検査と2回以上の訓練を終えた1万1,430人。訓練は平均24.47回 / 限界: 自宅でのオンライン実験で、続け方は人によって大きく違った。6週間より長い訓練の効果はこの実験ではわからない。
Simonsら(2016)[2]
脳トレ会社のサイトが根拠として挙げていた査読論文を、研究の進め方の基準に照らして調べ直したレビューです。練習した課題が上達する証拠は豊富でした。よく似た課題への効果の証拠はそれより少なく、離れた課題や日常の認知の働きがよくなる証拠はわずかでした。調べた研究のどれも、著者らが必要とした基準をすべては満たしていませんでした。
対象: 脳トレ会社が根拠に挙げた、公表済みの介入研究 / 限界: 会社が挙げた研究に絞って調べているため、すべての脳トレ研究を網羅したものではない。
Lampitら(2014)[3]
健康な高齢者がパソコンで4時間以上の認知訓練をした52件の試験をまとめると、全体の効果は小さいながらはっきりありました(効果の大きさ0.22)。処理の速さ(0.31)や、言葉でない記憶(0.24)などに効果があった一方、注意力と、計画や判断などの力(実行機能)には効果が見られませんでした。自宅で一人でする訓練は効果がなく、週4回以上の訓練も効果がはっきりしませんでした。
対象: 認知症などのない高齢者4,885人(52件のランダム化比較試験) / 限界: 高齢者に限った結果で、働く世代に当てはまるかはわからない。効果がどのくらい続くかは調べていない。
Nouchiら(2012、東北大学)[4]
市販の脳トレゲームと、比べるための落ち物パズルゲームに、高齢者を分けて調べたランダム化比較試験です。1日約15分、週5日以上、4週間遊んだあと、脳トレのグループでは、実行機能(考えを切り替えたり、計画したりする力)と処理の速さの検査が伸びていました。一方で、注意力の検査には効果が見られませんでした。
対象: 新聞広告で募集した日本の高齢者32人(平均年齢は約69歳)。最後まで続けたのは28人 / 限界: 人数が少なく、4週間の短期の結果。若い世代や、仕事の場面の集中にあてはまるかはわからない。
4つの研究を並べると、方向はそろっています。練習したことは上手になる。けれど、それが離れた作業や注意力にまで広がるかは、はっきりしない。脳トレで集中力を取り戻そうとするより、取り戻したい作業そのものに目を向けるほうが、研究の結果と合っています。
03 まだわかっていないこと脳トレが効く人や条件はある?
効く条件はまだはっきりしていません。研究の多くは高齢者が対象で、働く世代の「集中力が落ちた」という悩みに脳トレが役立つかを直接調べた研究は、ほとんど見当たりません。
- スマホやAIの使い方で集中しにくくなった人が、脳トレで回復するかを調べた研究は見当たらない。
- 高齢者の研究では効果が出た課題もあり、どんな内容・回数なら日常に役立つかは、研究者の間でも意見が分かれている。
- 何か月も続けた場合に効果が積み上がるのか、やめると元に戻るのかは、まだわかっていない。
04 今日からできるセルフケア集中力を立て直すには、何から始めればいい?
練習した作業が上達するという研究の結果を、そのまま使うのが近道です。取り戻したい作業を短く毎日練習し、集中を奪う原因を1つずつ減らします。
取り戻したい作業そのものを、短く練習する
本を読む力を戻したいなら本を、資料を書く力なら資料を、タイマーを使って短く続けます。研究で上達したのは、練習したことそのものでした。長い文章が読みにくくなった話は本が読めなくなったときの記事にまとめています。
目安 1日10分から。慣れたら5分ずつ延ばす
練習の間は、スマホを別の部屋に置く
通知が来なくても、手の届く所にあるだけで気になることがあります。練習の時間だけ、視界と手の届く範囲から外します。
目安 練習の時間だけ。1回10〜30分
眠気と疲れを先に減らす
寝不足や午後の眠気があると、どんな練習も続きにくくなります。昼に短く目を閉じる、夜の画面時間を減らすなど、体の側から整えます。午後の眠気は昼寝の記事を参考にしてください。
目安 昼寝なら10〜20分。夜は寝る30分前に画面を閉じる
脳トレは「楽しみ」として続ける
ゲームが好きなら、やめる必要はありません。ただ、集中力を戻す主な手段にはせず、気分転換として時間を決めて遊びます。
目安 1回15分まで。週3回程度
05よくある質問
脳トレは意味がない?
意味がないとは言えません。練習した課題は、どの研究でも上達していました。ただ、その効果が日常の集中力や仕事の考える力まで広がる証拠は、今のところ乏しいとまとめられています。楽しめるなら続けてよく、集中力を戻す手段としては別の工夫と組み合わせるのが現実的です。
脳トレは毎日やったほうが効く?
回数を増やせば効くとは限りません。健康な高齢者の研究52件のまとめでは、週4回以上の訓練は効果がはっきりせず、週3回以下のほうが効果が見られました。この結果は高齢者の研究によるもので、若い世代で同じかはわかっていません。
パズルゲームやクロスワードでも同じ?
研究の答えは同じ方向です。日本の高齢者の実験では、脳トレのグループでも、注意力の検査では、比べるために選ばれた落ち物パズルのグループとの差が見られませんでした。どのゲームでも、上達するのは主にそのゲームと似た作業だと考えられています。
集中力が落ちたのは年齢のせい?
年齢だけとは限りません。寝不足、スマホの通知、作業の中断など、集中を下げる原因は身近にいくつもあります。まず原因になりそうなものを1つ減らしてみると、変化がわかりやすくなります。
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出典
- Owen AM, Hampshire A, Grahn JA, et al. (2010). Putting brain training to the test. Nature, 465, 775–778. https://doi.org/10.1038/nature09042
- Simons DJ, Boot WR, Charness N, et al. (2016). Do "Brain-Training" Programs Work? Psychological Science in the Public Interest, 17(3), 103–186. https://doi.org/10.1177/1529100616661983
- Lampit A, Hallock H, Valenzuela M. (2014). Computerized cognitive training in cognitively healthy older adults: a systematic review and meta-analysis of effect modifiers. PLOS Medicine, 11(11), e1001756. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1001756
- Nouchi R, Taki Y, Takeuchi H, et al. (2012). Brain training game improves executive functions and processing speed in the elderly: a randomized controlled trial. PLOS ONE, 7(1), e29676. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0029676


