作業を中断されると、元に戻れない。研究の答えは「離れる前の一行メモ」と数秒の準備

集中していたところに、通知が鳴る。声をかけられる。用事を済ませて戻ると、どこまで考えていたのか思い出せない。そんな経験は、注意力が足りないせいではありません。中断の研究では、作業を離れる前の数秒の準備と、戻ってきたときの手がかりで、戻りやすさが変わることがわかってきています。
3行でわかる
- やりかけの作業は、離れているあいだに記憶の中で思い出しにくくなります。戻るときには、目に入る手がかりが助けになります。
- 米国の大学生の実験では、平均2.8秒の短い中断でも、中断直後の手順の誤り(順番を飛ばす・戻る)が約2倍になりました。
- 中断される前に「次はここから」と短く準備した人は、戻るのが速くなりました。中断への対策を調べた33件の実験のまとめでも、対策で再開が速くなっていました。
01結論から言うと
中断されたら、離れる前に「次にやること」を一行で書き、戻ったら直前の手順を確かめてから再開します。実験室の研究では、この種の準備と手がかりで再開が速くなっていました。
作業の途中で手を止めると、頭の中にあった「次はこれをやる」という予定が、別の用事に押し出されます。
戻ってきたときに思い出せないのは、記憶の自然な性質です。だから、記憶に頼らず、外に書いて残しておくのが近道になります。
ただし、こうした研究の多くは実験室での短い作業です。実際の職場でどこまで同じ効果があるかは、まだ十分に確かめられていません。
02研究とデータでわかっていること
数秒の中断でも、戻った直後に手順の誤りが増えます。中断の前に短く準備すると戻りが速く、中断への対策を調べた実験のまとめでも再開までの時間が短くなっていました。
AltmannとTrafton(2002年)[1]
「目標の記憶」のモデルを示した研究です。やりかけの目標は、時間がたつと記憶の中で思い出しにくくなり、古い目標の名残りにも邪魔されます。一方で、その目標と結びついた手がかり(目に入る画面やメモ)があると、思い出しやすくなると予測しています。
対象: パズル課題(ハノイの塔)のデータをもとにした理論モデル / 限界: 人を集めた新しい実験ではなく、既存のデータをシミュレーションで説明したものです。
Traftonら(2003年)[2]
作業中に別の課題へ切り替えられる実験で、切り替えの8秒前に予告が出るグループと、予告なしで切り替わるグループを比べました。予告ありの人は、その間に「戻ったら何をするか」を準備することが多く(本人が口に出した内容で測定)、元の作業に戻るのも速くなりました。
対象: 米国の研究機関による実験(参加者の詳細は論文本文を確認できず、要旨の範囲で記載) / 限界: 予告なしのグループも練習を重ねると戻るのが速くなっていきました。
Altmannら(2014年)[3]
順番どおりに手順を進める課題の途中で、短い文字を打ち込む中断を入れました。平均4.4秒の中断で、直後の「手順の順番の誤り」は普段の約3倍、平均2.8秒の中断でも約2倍になりました。一方、順番以外の誤りは増えませんでした。
対象: 米国の大学生300人(2つの実験) / 限界: 実験室の単純な手順課題で、実際の仕事での誤りを測ったものではありません。
Markら(2008年)[4]
メール対応の課題の途中に、電話やチャットで中断を入れました。中断があると、仕事は質を落とさずに速く終わっていました。そのかわり、ストレス、いらだち、時間に追われる感じ、努力感が高まっていました。速さで埋め合わせる分、心の負担が増えていたと著者らは考えています。
対象: ドイツの48人(81%が大学生、平均26歳) / 限界: 約20分の実験で、長く続いたときに慣れるのか、負担が積み重なるのかはわかっていません。
LeroyとGlomb(2018年)[5]
あとで時間に追われながら元の作業に戻ると思っていると、割り込んだ用事に集中しにくく、頭に元の作業が残る「注意の残りかす」が生じ、割り込んだ用事の出来も下がりました。元の作業に戻る段取りを短く考えて計画する「再開の準備(ready-to-resume plan)」をすると、残りかすが減り、出来も下がりませんでした。4つの研究のデータが、この予測を支持していました。
対象: 4つの研究(参加者の詳細は論文本文を確認できず、要旨の範囲で記載) / 限界: 主に測ったのは「割り込んだ用事」の出来で、元の作業に戻る速さではありません。
Guoら(2021年)[6]
中断の悪影響を減らす対策を試した実験室の実験33件(対策49種類、7タイプ)をまとめました。対策をすると、元の作業の正確さが上がり(標準化平均差1.03)、再開までの時間が短くなりました(同0.51)。効果は対策の種類や作業の種類によって違いました。
対象: 実験室での実験33件のシステマティックレビューとメタ分析 / 限界: すべて実験室の研究で、職場での効果を直接示したものではありません。
中断の直前に数秒で準備できるかどうかで、戻りやすさが変わる。これが、複数の研究に共通する手がかりです。
03まだわかっていないこと
中断の研究は実験室の短い作業が中心です。職場で一日中続く中断に、どの対策がどれだけ効くかは、まだはっきりしていません。生成AIとのやりとりによる中断の研究は、今回の調査では見つかりませんでした。
- 247本の文献を整理したレビューでは、研究ごとに「中断」の定義や調べ方が違い、結果が食い違う原因になっていると指摘されています[8]。
- どの対策が最も効くかは、作業の種類によって変わりました。自分の仕事にどれが合うかは、試して確かめる必要があります。
- 中断のあと元の集中に戻るまでの時間を、職場で一律に示した研究は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
04今日からできるセルフケア
離れる前に一行メモを書く、数秒だけ待ってもらう、戻ったら手がかりを見て直前の手順を確かめる。この3つが、研究に沿ったその場の戻り方です。
離れる前に「次にやること」を一行書く
「次は3段落目の結論を書く」のように、戻ったら最初にする行動を具体的に書きます。付箋でも、作業中のファイルの一番上でもかまいません。
目安 1回10〜30秒
話しかけられたら「数秒だけ待って」と伝える
急ぎでなければ、相手に一声かけて、手順1のメモを書く時間をもらいます。予告から8秒あった人は、その間に準備して戻るのが速くなっていました。
目安 数秒〜10秒
作業の画面を開いたまま、手がかりを残す
ファイルやタブを閉じず、止めた箇所にカーソルを置いたり、印を付けたりしておきます。戻ったときに目に入るものが、やりかけの予定を思い出す手がかりになります。
目安 数秒
戻ったら、直前の手順を確かめてから進める
数秒の中断でも、手順を飛ばしたり繰り返したりする誤りが増えていました。メモと最後に終えた手順を見直してから、次の一歩に進みます。
目安 戻ったときに30秒〜1分
中断が続いた日は、短い休憩をはさむ
中断が多いと、速く片付けられてもストレスは高まっていました。区切りのよいところで画面から目を離し、数分休みます。
目安 中断が続いたあとの区切りで数分
中断そのものを減らしたい人は、通知をオフにした実験やスマホの置き場所の研究が参考になります。2つの作業を同時に進めがちな人はながら作業の研究、休み方はパソコン作業の短い休憩の研究へ。「もし〜したら〜する」と前もって決めておく方法はif-thenプランの研究で詳しく紹介しています。
05よくある質問
話しかけられたあと、元の作業に戻れないのはなぜ?
やりかけの予定は、別の用事をしているあいだに記憶の中で思い出しにくくなるためです。目標の記憶のモデルでは、目に入る手がかりがあると思い出しやすくなると考えられています。離れる前の一行メモが、その手がかりになります。
中断のあと、集中が戻るまで23分かかるって本当?
よく引用される数字ですが、今回確認した論文(Markら2008年を含む)の中には見当たりませんでした。中断のあと集中が戻るまでの時間は、作業や中断の種類で変わり、一律の時間は示されていません。
やりかけの仕事が頭から離れないのはなぜ?
あとで時間に追われながら戻ると思っていると、割り込んだ用事に集中しにくく、元の作業が頭に残りやすいことが研究で示されています。戻る段取りを短く計画すると、この残りかすが減っていました。
中断された作業は、記憶に残りやすいって本当?
「未完了の作業はよく覚えている」という説(ツァイガルニク効果)は、2025年のメタ分析では確かめられませんでした。一方、やりかけの作業を再開しようとする傾向(オフシャンキナ効果)は全体として見られました。
通知は全部切ったほうがいい?
仕事の連絡を完全に切れない人も多いはずです。まずは集中したい時間だけ通知を減らす方法があります。通知を減らした実験の詳細は通知をオフにした1日の研究にまとめています。
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出典
- Altmann, E. M., & Trafton, J. G. (2002). Memory for goals: An activation-based model. Cognitive Science, 26(1), 39-83. https://doi.org/10.1207/s15516709cog2601_2
- Trafton, J. G., Altmann, E. M., Brock, D. P., & Mintz, F. E. (2003). Preparing to resume an interrupted task: Effects of prospective goal encoding and retrospective rehearsal. International Journal of Human-Computer Studies, 58(5), 583-603. https://doi.org/10.1016/S1071-5819(03)00023-5
- Altmann, E. M., Trafton, J. G., & Hambrick, D. Z. (2014). Momentary interruptions can derail the train of thought. Journal of Experimental Psychology: General, 143(1), 215-226. https://doi.org/10.1037/a0030986
- Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The cost of interrupted work: More speed and stress. Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI 2008), 107-110. https://doi.org/10.1145/1357054.1357072
- Leroy, S., & Glomb, T. M. (2018). Tasks interrupted: How anticipating time pressure on resumption of an interrupted task causes attention residue and low performance on interrupting tasks and how a "ready-to-resume" plan mitigates the effects. Organization Science, 29(3), 380-397. https://doi.org/10.1287/orsc.2017.1184
- Guo, J., Chen, T., Xie, Z., & Or, C. K. (2021). Effects of interventions to reduce the negative consequences of interruptions on task performance: A systematic review, meta-analysis, and narrative synthesis of laboratory studies. Applied Ergonomics, 97, 103506. https://doi.org/10.1016/j.apergo.2021.103506
- Ghibellini, R., & Meier, B. (2025). Interruption, recall and resumption: A meta-analysis of the Zeigarnik and Ovsiankina effects. Humanities and Social Sciences Communications, 12, 962. https://doi.org/10.1057/s41599-025-05000-w
- Puranik, H., Koopman, J., & Vough, H. C. (2020). Pardon the interruption: An integrative review and future research agenda for research on work interruptions. Journal of Management, 46(6), 806-842. https://doi.org/10.1177/0149206319887428


