人と比べて「自分には才能がない」と思い込んでしまう。能力は伸ばせると考える人ほど、心の負担はわずかに小さかった

同僚の仕事ぶりや、AIが一瞬で仕上げる文章を見るたびに「自分には才能がない」と感じてしまう。そう思う日が続くと、何かを始める気力までなくなりがちです。結論から言うと、能力は伸ばせると考える人ほど、心の負担はわずかに小さい関連がありました。その考え方を学ぶ短い練習にも、条件つきで効果が見られています。
3行でわかる
- 72のサンプル・1万7,692人分の研究のまとめでは、能力は伸ばせると考える人ほど、心の負担がわずかに小さく、問題に向き合う対処とも関連していた(関連の研究)。
- 能力は伸ばせると考えるよう促された人は、自己評価が下がる場面のあと、上手な人と比べて自分を伸ばす方を選び、決まっていると考えた人は、下の人と比べて自分を守る方を選んでいた(3つの実験)。
- 考え方を学ぶ練習は、対象と実施の質を絞った分析で心の健康に小〜中程度の効果があった。ただし学業成績への効果には強い疑問も出ている。
01 結論から言うと「才能がない」と思い込むのは、なぜつらい?
「才能は生まれつき決まっている」と考えると、比べて負けた結果が、変えられない自分の評価に見えてしまうからです。能力は伸ばせると考える人ほど、心の負担がわずかに小さい関連が研究で見られています。
心理学では、能力は努力や学び方で伸ばせるという考え方を「成長マインドセット」、生まれつき決まっているという考え方を「固定マインドセット」と呼びます。
固定の考え方だと、人と比べて負けることは「自分の限界がわかった」という意味になりやすくなります。成長の考え方だと、同じ場面が「まだやり方を知らない」という意味になります。比べた結果は同じでも、受け取り方が変わるわけです。
比べて自信が戻らない状態全般は比べて落ち込む日が続いて自信が戻らないときの記事で、AIの出来と比べて落ち込む仕組みはAIの方が上手にできて落ち込むときの記事で整理しています。
02 研究とデータでわかっていること能力は伸びると考えると、心は軽くなる?
能力は伸ばせると考える人ほど、心の負担は小さい傾向がありましたが、その差はわずかでした。考え方は、比べた後に「伸ばす」か「守る」かの選び方とも関わっていました。
Burnetteら(2020)[1]
72のサンプル・1万7,692人分の研究をまとめると、人の特性は伸ばせると考える人ほど、心理的な苦痛(心の負担)が小さい関連がありました(相関 −0.22)。問題に向き合って対処しようとする傾向とも関連していました(相関 0.21)。著者らは、これらの関連は「わずか」だとしています。
対象: 1988〜2019年に英語で発表された研究の参加者。年齢層などの違いで結果に差はなかった / 限界: 多くは関連を見た研究で、考え方が心の負担を減らしたのか、その逆なのかは区別できない。
Nussbaum・Dweck(2008)[2]
3つの実験で、参加者に「知能は決まっている」または「知能は伸ばせる」という考え方を促してから、自己評価が下がるような場面の後の行動を見ました。「決まっている」側の人は、自分より成績の悪い人と比べて自分を守る方を選びました。「伸ばせる」側の人は、自分より上手な人と比べて、自分を伸ばす方を選びました。3つ目の実験では、「伸ばせる」側の人にとっては、自分を伸ばす方法のほうが下がった自己評価を取り戻すのに役立っていました。
対象: 3つの実験の参加者 / 限界: 実験室での短い場面の結果で、長く続く落ち込みに同じことが言えるかはわからない。
Burnetteら(2023)[3]
考え方を学ぶ練習(成長マインドセット介入)を調べた53のランダム化研究のサンプルをまとめました。効果が見込まれる人に絞り、練習が予定どおり行われた研究に限ると、心の健康への効果の大きさは0.32でした。同じ条件での学業成績への効果は0.14でした。
対象: 2002〜2020年に発表されたランダム化研究 / 限界: 研究ごとの効果のばらつきが大きく、今後の研究で予想される効果の幅は、心の健康で0.07〜0.57とされた。
Macnamara・Burgoyne(2023)[4]
同じ練習の学業成績への効果を、63の研究・9万7,672人分でまとめ直した研究です。全体の効果は0.05と小さく、出版の偏りを補正すると、はっきりした効果とは言えなくなりました。質の高い6つの研究に絞っても、はっきりした効果はありませんでした。金銭的な利害がある著者の研究ほど、大きな効果を報告していました。
対象: 生徒・学生を対象にした研究 / 限界: 調べたのは学業成績で、心の健康への効果は調べていない。
4つの研究を並べると、能力は伸ばせるという考え方は、心の負担の小ささや、比べた後に学ぶ行動と結びついている。ただし効果は小さく、万能ではない。というのが現時点の答えです。
03 まだわかっていないこと考え方を変えれば、自信は戻る?
考え方を変えるだけで自信が戻るかは、まだはっきりしていません。働く大人が、比べて落ち込んだ状態から立て直すのに役立つかを直接調べた研究は少ないのが現状です。
- 考え方を学ぶ練習の研究は、生徒・学生が中心で、働く大人を対象にしたものは少ない。
- AIと比べて「才能がない」と感じる場面で、同じ効果があるかを調べた研究は見当たらない。
- 心の健康への効果は、対象や実施の質によって大きく変わり、誰に効きやすいかはまだ絞り込めていない。
04 今日からできるセルフケア「才能がない」から抜け出すには、何をすればいい?
比べた後の受け取り方を、「限界」から「やり方の差」に置き換える小さな練習が試しやすい方法です。どれもお金をかけず、数分でできます。
「できない」に「まだ」を付けて言い直す
「自分には才能がない」と浮かんだら、「このやり方は、まだできていない」と言い直して、紙に書きます。能力の話を、やり方の話に置き換える練習です。
目安 浮かんだときに1行。1日1回
上手な人の「やり方」を1つ書き出す
比べて落ち込んだ相手について、「何を、どんな順番でやっているか」を1つだけ書きます。実験で、伸ばせると考えるよう促された人が選んだのは、上手な人と比べて自分を伸ばす比べ方でした。
目安 5分。週に2〜3回
1か月前の自分と比べて、伸びたことを書く
他人ではなく、過去の自分と比べます。小さなことで構いません。伸びた事実を並べると、「伸ばせる」という感覚の手がかりになります。
目安 月末に10分
落ち込んだ日は、自分を責める言葉を止める
考え方を変える前に、まず気持ちを落ち着かせます。自分を責めてしまうときは、人と比べて自分を責めてしまうときの記事で紹介した「自分への思いやり」も役立ちます。
目安 3分。つらいときに
05よくある質問
才能がないと感じるのは、本当に才能がないから?
そうとは限りません。「才能がない」は、能力が生まれつき決まっているという考え方から出てきやすい言葉です。研究では、自己評価が下がる場面のあとでも、能力は伸ばせると考えるよう促された人は、上手な人と比べて自分を伸ばす方を選んでいました。感じ方は、出来そのものより考え方に左右される部分があります。
成長マインドセットを持てば、落ち込まなくなる?
落ち込まなくなるとまでは言えません。72件の研究のまとめでは、能力は伸ばせると考える人ほど心の負担が小さい関連がありましたが、その差は「わずか」とされています。気持ちを軽くする手がかりの1つとして考えるのが現実的です。
成長マインドセットは科学的に否定された?
否定されたとまでは言えませんが、効果の大きさには議論があります。学業成績への効果を調べた63件のまとめでは、偏りを補正すると効果ははっきりしませんでした。一方、心の健康への効果は、対象と実施の質を絞った分析で小〜中程度の効果が見られています。
上手な人を見ると、どうしても落ち込んでしまう。
落ち込むのは自然なことで、無理に打ち消さなくて大丈夫です。少し落ち着いてから「あの人は何をしているか」を1つだけ書き出すと、比べる相手が、学ぶ相手に変わりやすくなります。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
無料ツール
セルフチェックで「今日やること」をまとめる
当てはまる悩みを選ぶだけ。診断はせず、記事の対策を一覧にします。
研究早見表でほかの悩み83件も見る
出典
- Burnette JL, Knouse LE, Vavra DT, O'Boyle E, Brooks MA. (2020). Growth mindsets and psychological distress: A meta-analysis. Clinical Psychology Review, 77, 101816. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2020.101816
- Nussbaum AD, Dweck CS. (2008). Defensiveness versus remediation: self-theories and modes of self-esteem maintenance. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(5), 599–612. https://doi.org/10.1177/0146167207312960
- Burnette JL, Billingsley J, Banks GC, et al. (2023). A systematic review and meta-analysis of growth mindset interventions: For whom, how, and why might such interventions work? Psychological Bulletin, 149(3-4), 174–205. https://doi.org/10.1037/bul0000368
- Macnamara BN, Burgoyne AP. (2023). Do growth mindset interventions impact students' academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychological Bulletin, 149(3-4), 133–173. https://doi.org/10.1037/bul0000352


