人と話すとき、変に思われないよう気をつけすぎて、かえってぎこちなくなる。英国の大学生96人の実験では、口数を減らして自分の話を避けると本人の不安が高まり、相手からも好かれにくくなっていた

変なことを言わないように、口数を減らす。目立たないように、じっとしている。自分の話はしないでおく。人と話すとき、そうやって気をつけるほど、かえって会話がぎこちなくなることがあります。英国の大学生96人の実験では、こうした「失敗しないための工夫」をした会話で、本人の不安が高まり、相手からも好かれにくくなっていました。
3行でわかる
- 英国の大学生96人の実験では、口数を減らし、自分の話を避け、じっとしていた5分の会話で、本人の不安が高まり、相手からの好かれ方も下がっていた。
- 「どう見えているか」を気にし続けると本人の不安は高まったが、相手からの好かれ方は変わらなかった。英国の11〜14歳57人の実験でも、自分に注意を向けて同じような工夫をすると、不安が高まり会話の出来も下がっていた。
- 不安を減らすための工夫が、かえって不安を長引かせることがあると、研究のまとめは指摘している。次の会話で1つだけ工夫をやめ、注意を相手の話に向けてみるのが手になる。
01 結論から言うと気をつけるほど、会話がぎこちなくなるのはなぜ?
失敗しないための工夫そのものが、不安を高めてしまうことがあるためと考えられています。英国の実験では、口数を減らす・自分の話を避けるといった工夫をした会話で、本人の不安が高まり、相手からの印象も下がっていました。
心理学では、不安な場面で「最悪の事態を防ぐため」にとる行動を「安全確保行動」と呼びます。会話でいえば、話す量を減らす、自分のことを話さない、言う前に頭の中で何度も確かめる、自分がどう見えているかを気にし続ける、といった行動です。
本人は不安を減らすつもりでしています。ところが、研究のまとめでは、こうした行動をとると「やっぱり大丈夫だった」と確かめる機会がなくなり、不安が長く続きやすいと指摘されています。
02 研究とデータでわかっていること「失敗しない工夫」をすると、会話はどうなる?
英国の大学生の実験では、口数を減らし自分の話を避けた会話で、本人の不安が高まり、相手からの好かれ方が下がっていました。英国の11〜14歳の実験でも、自分に注意を向けて同じような工夫をすると、不安が高まり会話の出来も下がりました。
Gray・Beierl・Clark(2019)[1]
初対面の2人1組で、5分の会話を2回してもらいました。一方の人には、どちらかの会話で、こっそり指示を渡しました。指示は2種類で、1つは「自分の話を避ける・じっとしている・話す量を減らす」、もう1つは「自分がどう見えているか想像する・うまく伝わっているか確かめる・よく見せようとする」でした。前者の指示で話した会話では、本人の不安が高く(平均34対20、0〜100)、相手が感じた好感は低く(65対76)、本人も相手も「また話したい」と思う気持ちが下がっていました(本人は46対73)。後者の指示でも本人の不安は高まりましたが、相手からの好感や会話の楽しさには差がありませんでした。
対象: 英国オックスフォードの大学生96人(平均約21歳。心の不調で治療中でなく、人づきあいの不安の診断を受けたことがない人) / 限界: 指示どおりに演じてもらった短い会話で、ふだんの会話や、長いつきあいの相手との会話で同じになるかはわかりません。指示を受けた組は24人ずつと少人数です。
Leigh・Chiu・Clark(2021)[2]
学校で人づきあいの不安を測り、不安が特に高い生徒と特に低い生徒に、初対面の相手と2回会話してもらいました。1回は自分に注意を向けて、ふだんよく使われる安全確保行動をとり、もう1回は相手や周りに注意を向けて、そうした行動をとらずに話しました。不安が高い生徒でも低い生徒でも、前者の会話のほうが、本人が感じる不安と、不安そうに見える度合いが高く、会話の出来も下がっていました。ただ、ふだんからこうした行動をとっていると答えたのは、不安が高い生徒だけでした。
対象: 英国の中学校2校の11〜14歳の生徒57人 / 限界: 会話の相手は平均約20歳の心理学の学生で、生徒より8歳ほど年上でした。同年代どうしの会話で同じになるかは、今後の課題とされています。
Piccirillo・Taylor Dryman・Heimberg(2016)[3]
人づきあいの不安と安全確保行動について、それまでの研究をまとめたレビューです。安全確保行動は、怖い場面で不安を下げるためにとられるものの、「思ったほど悪いことは起きない」と確かめる機会を奪うため、結果として不安を長引かせると整理しています。1995年の研究では、こうした行動をとると、不安に慣れていく治療の効果が下がっていたことも紹介しています。
対象: 主に人づきあいの不安が強い大人を対象にした研究 / 限界: 研究を整理した論文で、新しい数値を示したものではありません。
人の目を見て話すのが苦手なときは「人の目を見て話せない」、話題が続かないときは「雑談が続かない、何を話せばいいかわからない」でも整理しています。
03 まだわかっていないこと工夫をやめれば、緊張しなくなる?
日常の会話で工夫を減らしたとき、緊張がどのくらい軽くなるかは、まだはっきりしていません。紹介した実験は、指示どおりに演じた短い会話の結果です。ふだんの会話で自分から工夫を減らしたときの変化は、確かめられていません。
- 実験の会話は5分ほどで、初対面の相手とのものでした。職場の同僚や友達など、続いていく関係で同じことが言えるかはわかりません。
- 研究の多くは英国の学生が対象で、日本の人で同じ結果になるかを調べた研究は見当たりませんでした。
- オンライン会議や文字のやりとりでの安全確保行動を調べた研究は、今回は見つかりませんでした。
- よく見せようと気をつけることは、相手からの印象を下げていませんでした。どんな気のつかい方なら負担にならないかは、まだわかっていません。
04 今日からできるセルフケアぎこちなくなりそうな会話で、何をする?
工夫をいっぺんにやめなくてかまいません。次の会話で1つだけやめてみて、注意を自分ではなく相手の話に向けます。終わったら、心配していたことが実際に起きたかを確かめます。お金をかけずにできる工夫を3つ挙げます。
次の会話で、工夫を1つだけやめる
「自分の話をしない」「話す量を減らす」など、ふだんしている工夫を1つ選び、次の短い会話でだけやめます。たとえば、自分の週末のことを1つ話してみます。英国の実験では、こうした工夫をした会話のほうが、相手からの好感が低めでした。
目安 5分の会話で1回
注意を、自分ではなく相手の話の中身に向ける
「どう見えているか」が気になったら、相手が何を話しているか、どんな言葉を使っているかに注意を戻します。英国の11〜14歳の実験では、自分に注意を向けた会話のほうが、不安が高く会話の出来も下がっていました。
目安 会話中、気づいたらその都度
会話の前に「心配」、後に「実際」を書いて比べる
会話の前に「沈黙が続いて気まずくなる」など心配していることを1行書き、終わったら実際どうだったかを1行書きます。研究のまとめでは、安全確保行動が「思ったほど悪いことは起きない」と確かめる機会を奪うと指摘されています。
目安 前後に1分ずつ
会話のあとに反省が止まらないときは「会議のあと「変なこと言ったかも」と一人反省会が止まらない」も参考になります。
05よくある質問
黙っていれば、変なことを言わずにすむのではないですか?
英国の大学生の実験では、口数を減らし、自分の話を避け、じっとしていた会話のほうが、相手から好かれにくく、相手も「また話したい」と思いにくくなっていました。黙ることで失敗は減るように思えても、相手には別の印象が伝わることがあります。
よく見せようと気をつけるのも、やめたほうがいいですか?
同じ実験では、「自分がどう見えているか想像する」「うまく見えているか確かめる」といった気のつかい方で、本人の不安は高まりましたが、相手からの好かれ方は変わりませんでした。すべてをやめる必要はなく、自分が疲れる気のつかい方から1つずつ減らしてみるのが手です。
人と話すのがいつも怖いのは、病気でしょうか?
この記事は診断をするものではありません。紹介した実験の多くは、治療を受けていない学生を対象にしています。緊張は多くの人が感じるものですが、人と会う場面を避け続けて仕事や生活に困っているときは、専門家に相談できます。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Gray, E., Beierl, E. T., & Clark, D. M. (2019). Sub-types of safety behaviours and their effects on social anxiety disorder. PLoS ONE, 14(10), e0223165. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0223165
- Leigh, E., Chiu, K., & Clark, D. M. (2021). Self-focused attention and safety behaviours maintain social anxiety in adolescents: An experimental study. PLoS ONE, 16(2), e0247703. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0247703
- Piccirillo, M. L., Taylor Dryman, M., & Heimberg, R. G. (2016). Safety behaviors in adults with social anxiety: Review and future directions. Behavior Therapy, 47(5), 675–687. https://doi.org/10.1016/j.beth.2015.11.005


