AIで仕事を失い、急いで決めた次の仕事で気持ちが休まらない。英国の失業者の追跡では、条件の厳しい仕事に就いた人は、失業が続いた人よりストレスと関わる体の指標が高かった

AIの影響で仕事を失い、早く次を決めなければと急いで就いた仕事。働き始めたのに、気持ちも体も休まらない日が続くことがあります。「仕事が見つかったのだから、喜ぶべきなのに」と自分を責める人もいるかもしれません。研究では、再就職で心の負担は平均として軽くなっていましたが、その効果は仕事の中身によって違っていました。新しい仕事のどこがつらいのかを分けて見ることが、立て直しの手がかりになります。
3行でわかる
- 38件の追跡研究のまとめでは、失業中は心の不調の症状が多く、再就職すると減る傾向があった。ただし根拠の確かさは「低い」とされていた。
- 英国の失業者の追跡では、給料・安定・裁量・満足・仕事の不安のうち2つ以上に問題がある仕事に就いた人は、失業が続いた人より、ストレスと関わる体の指標の合計が高かった。
- 再就職のあとがつらいのは、甘えとは限らない。どこがつらいのかを書き出す、小さな裁量を取り戻す、見直す日を決める、から始められる。
01 結論から言うと再就職したのに気持ちが休まらないのは、なぜ?
再就職の効果は、仕事の中身によって違うためと考えられます。研究のまとめでは、再就職で心の不調は平均として減っていましたが、条件の厳しい仕事では、その恩恵が見られない研究もありました。
仕事は収入のほかに、毎日のリズムや人とのつながり、役割を感じる場にもなります。そのため、多くの研究で、仕事に就くことは心の健康とよい方向に結びついていました。
一方で、給料が低い、いつ失うかわからない、自分で決められることが少ない、といった条件が重なると、働いていても負担が続くことがあります。いまつらいのは、仕事が見つかったことを喜べない自分のせいではなく、仕事の条件と関わっている可能性があります。
02 研究とデータでわかっていること再就職の効果は、仕事の中身で変わる?
平均すると、再就職で心の不調の症状は減っていました。ただし、条件の厳しい仕事に就いた人では、ストレスと関わる体の指標が失業が続いた人より高いという英国の研究があります。どちらも観察研究です。
Sterudら(ノルウェー国立労働衛生研究所など、2025年)[1]
失業している人は、仕事を続けている人より、うつや不安などの症状がやや多い傾向がありました(効果の大きさ0.19)。再就職した人では症状が減り、失業が続いた人と比べると、その差は0.27でした。この論文が紹介している4件の研究のうち、オーストラリアの研究では質の高い仕事に移ると心の健康がよくなり、質の低い仕事に移ると失業が続くよりも悪化していました。ノルウェーと米国の研究でも、安定した仕事や質の高い仕事では不調が減り、不安定な仕事や質の低い仕事では恩恵が見られませんでした。一方、45歳以上のオランダの研究では、仕事の質による違いは見られませんでした。
対象: 働く世代の大人を追った38件の研究のまとめ / 限界: 研究者は根拠の確かさを「低い」と評価しています。仕事の質を調べた研究は4件だけです。
Chandola・Zhang(英国、2018年)[2]
失業中だった大人を1〜2年追いました。研究者は、給料が低い、職を失う心配がある、裁量が小さい、満足度が低い、仕事への不安が強い、の5つで仕事の質を見ました。このうち2つ以上が当てはまる仕事に就いた人は、失業が続いた人より、ストレスと関わる体の指標の合計が高く、推定で1.5倍以上でした。この指標は、血液や血圧などの値から計算したものです。質のよい仕事に就いた人では、この指標は低い傾向でしたが、はっきりした差ではありませんでした。自分で答えた心の健康の点数では、条件の厳しい仕事に就いた人と失業が続いた人の間に、はっきりした差は出ていませんでした。
対象: 英国の全国調査で、失業中で仕事を探していた大人(血液の指標を調べたのは244人) / 限界: 観察研究で因果関係は言えません。人数が少なく、仕事に就く前の体の指標は測られていません。
Pulfordら(英国グラスゴー大学など、2022年)[3]
職を失う心配や期限のある契約など、不安定な働き方が1年以上続いている人は、安定した働き方の人と比べて、心の不調の症状が出るオッズが1.44倍でした。研究者は、関連は小さく、因果関係はとても不確かだとしています。
対象: 高所得国の16〜64歳を調べた50件の研究のまとめ / 限界: 根拠の確かさは「とても低い」と評価され、偏りのおそれが高いと判定された研究も含まれていました。
03 まだわかっていないこと今の仕事はやめたほうがいい?
研究からは言えません。紹介した研究はどれも観察研究で、仕事を変えたり働き方を調整したりすると心の負担が軽くなるかを確かめた実験は見つかりませんでした。生活や家計の事情も人によって違います。
- 英国の研究は人数が少なく、体の指標は仕事に就く前に測られていません。もともとの違いが混ざっている可能性があります。
- 体の指標が高くても、自分で答えた心の健康には、はっきりした差が出ていませんでした。気持ちの面でどの程度つらさが続くのかは、この研究からはわかりません。
- 45歳以上のオランダの研究では、仕事の質による違いが見られず、年齢や国の制度で結果が変わる可能性があります。
- AIの影響で仕事を失った人に絞った研究は、まだ見つかっていません。日本の研究も見つかりませんでした。
04 今日からできるセルフケア新しい仕事で気持ちを立て直すには?
つらさの中身を5つの面で書き出すこと、仕事の中で小さく選べることを増やすこと、見直す日を決めて、それまでは自分を責めないことです。どれもお金をかけずに始められます。
つらさを5つの面に分けて書き出す
「給料」「続けられる安心感」「自分で決められること」「仕事への満足」「仕事中の不安」の5つについて、それぞれ「つらい・ふつう・よい」をつけます。英国の研究で仕事の質を見た面です。全部がつらいのか、1つだけなのかで、打てる手が変わります。
目安 10分、月に1回
自分で決められることを1つ増やす
作業の順番、休憩の取り方、問い合わせへの返し方など、自分で選べる部分を1つ探して、上司や同僚に相談します。英国の研究では、裁量の小ささも、体の指標の高さと関わる面の1つでした。
目安 週に1つ
「見直す日」をカレンダーに入れる
3か月後など見直す日を決め、それまでは1の記録をつけながら様子を見ます。急いで決めた仕事を、また急いで手放さないための区切りです。見直す日には、記録を見て、続けるか、働き方を相談するか、次を探し始めるかを考えます。
目安 1分で予定を入れる
「喜べない自分」を責める言葉を書き換える
「仕事があるだけましなのに」と思ったら、「条件が合わない部分があって、つらいのは自然なこと」と書き換えます。研究のまとめでも、再就職の効果は仕事の中身で違っていました。
目安 1回1分
失業した直後の心と体の立て直しは 失業後の健康づくりの記事、仕事が変わった後の気持ちの立て直しは 仕事が変わった後の記事 で紹介しています。
05よくある質問
再就職したのにつらいのは、甘えている?
そうとは限りません。38件の追跡研究のまとめでは、再就職で心の不調の症状は平均して減っていましたが、紹介されている研究の中には、条件の厳しい仕事ではその恩恵が見られなかったものもありました。つらさは仕事の条件と関わっている可能性があります。
条件の厳しい仕事なら、失業していたほうがよい?
研究からはそうは言えません。英国の研究では、条件の厳しい仕事に就いた人でストレスと関わる体の指標が高めでしたが、自分で答えた心の健康には、失業が続いた人とのはっきりした差は出ていませんでした。どちらも観察研究で、生活や家計の事情も人によって違います。
何から手をつければいい?
まず、給料、続けられる安心感、自分で決められること、仕事への満足、仕事中の不安の5つの面で、どこがつらいのかを書き出してみてください。つらい面がわかると、上司に相談する、働き方を調整する、見直す日を決めるなど、打つ手を選びやすくなります。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Sterud T, Lunde LK, Berg R, Proper KI, Aanesen F (2025). Mental health effects of unemployment and re-employment: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Occupational and Environmental Medicine, 82(7), 343-353. https://doi.org/10.1136/oemed-2025-110194
- Chandola T, Zhang N (2018). Re-employment, job quality, health and allostatic load biomarkers: prospective evidence from the UK Household Longitudinal Study. International Journal of Epidemiology, 47(1), 47-57. https://doi.org/10.1093/ije/dyx150
- Pulford A, Thapa A, Thomson RM, Guilding A, Green MJ, Leyland A, Popham F, Katikireddi SV (2022). Does persistent precarious employment affect health outcomes among working age adults? A systematic review and meta-analysis. Journal of Epidemiology and Community Health, 76(11), 909-917. https://doi.org/10.1136/jech-2022-219292


