画面と情報に追われて、気持ちが張りつめたまま。歌うとすっきりする?ウィーンの合唱団の71人の実験では、ひとりで20分歌ったあとも気分が少し上がり、みんなで歌うと最も上がっていた

一日中、画面の文字とチャットと通知を追いかけて、気持ちが張りつめたまま夜になる。そんな日に「思いきり歌うとすっきりする」と感じる人は少なくありません。研究では、歌ったあとに気分が上向く結果が出ている一方、調べられた人数は少なく、参加者の多くは歌が好きな合唱団員でした。
3行でわかる
- ウィーンの合唱団の71人の実験では、ひとりで20分歌ったあとも気分が少し上がり、みんなで歌った組でいちばん上がっていた。
- ただ歌うと心拍や血圧は上がり、5分歌ったあとの計算のストレスへの体の反応は、歌わなかった組と変わらなかった。
- 参加者は歌が好きな人ばかり。好きな曲を数分口ずさむ、ゆっくり息を吐く歌い方にする、といった無理のない形で試せる。
01 結論から言うと張りつめた気持ちは、歌うとほぐれる?
歌ったあとに気分が少し上向く結果は、複数の実験で出ています。ただし体の緊張をしずめる効果ははっきりせず、歌は「落ち着かせる」より「気分を上向かせる」方法と考えるのが研究に合っています。
歌うことは、声を出す、呼吸を整える、メロディに集中する、といった動きが重なった活動です。画面を見続けるのとはまったく違う使い方を体にさせるため、気分の切り替えになると考えられてきました。
一方で、研究に参加したのは合唱団や趣味の歌い手がほとんどです。歌うことがもともと好きな人の結果なので、誰にでも同じように効くとは言えません。
02 研究とデータでわかっていること歌うと、気分や体はどう変わる?
歌ったあとは、話しただけのときより気分が上がり、ひとりより一緒に歌うほうが上がり方が大きい結果でした。ただ歌うと心拍や血圧は上がり、ストレスホルモンの下がり方は時刻の影響と区別できていません。
Bowlingら(2022) [1]
ウィーンの若者の合唱団71人を、「歌う」「歌詞を読み上げる」と「みんなで」「ひとりで」を組み合わせた4つの条件に割り振り、20分取り組んでもらいました(参加した条件は人によって1〜2つ)。気分の点数(−40〜+40点)は、みんなで歌った組で平均9.0点、ひとりで歌った組で3.8点、ひとりで読み上げた組で1.2点上がり、みんなで読み上げた組では5.6点下がっていました。一緒に歌った組では、仲間とのつながりを感じる気持ちも、一緒に読み上げた組より高まっていました。
対象: オーストリア・ウィーンの合唱団員71人(17〜28歳) / 限界: 歌が好きな合唱団員の結果です。ストレスホルモン(コルチゾール)はどの組でも下がりましたが、夕方の時刻による自然な下がり方と区別できないと著者らは書いています。
Schladtら(2017) [2]
ドイツの大学の合唱団員38人が、別の日に、合唱とひとりでの歌をそれぞれ20分行いました。どちらのあとも、心配と悲しさが減り、うれしさが増えていました。うれしさは、ひとりで歌ったときより合唱のあとのほうが大きく上がっていました。
対象: ドイツ・レーゲンスブルク大学の合唱団員38人(18〜29歳) / 限界: 歌わずに過ごす時間と比べていないため、気分の変化がどこまで歌のおかげかはわかりません。著者ら自身も、静かに座っている比較の条件が必要だと書いています。
Tanzmeisterら(2022) [3]
趣味で歌う101人を4つの組に分け、5分間、「ゆっくりした呼吸(4秒吸って6秒吐く)」「同じリズムで歌う」「ふつうに歌う」「朗読を聞く」のどれかをしてもらい、そのあと暗算のストレス課題に取り組んでもらいました。歌った2つの組では前向きな気分が上がりましたが、心拍と血圧も上がっていました。ゆっくり息を吐くリズムで歌った組では、ゆっくりした呼吸と同じく、心拍のゆらぎのリズムが整う変化が見られました。ただ、暗算のストレスへの体の反応は、4つの組で違いがありませんでした。
対象: オーストリアの合唱団などで趣味として歌う101人(18〜44歳) / 限界: 歌った時間は5分だけで、参加者は歌い慣れた人でした。著者らは、歌い慣れていない人に歌わせると、それ自体がストレスになるおそれがあると書いています。
3つの実験を合わせると、歌うことは気分を上向かせ、特に人と一緒だと上がり方が大きい、という方向でそろっています。ただ、歌は体を活発にする活動でもあり、「これで緊張がしずまる」とまでは言えません。
03 まだわかっていないこと歌えば、誰でも気分が軽くなる?
まだわかっていません。参加者は歌が好きな合唱団員や趣味の歌い手で、歌い慣れていない人や、仕事や画面の疲れが強い人で確かめた実験は見つかりませんでした。
- 歌い慣れていない人、人前で歌うのが苦手な人でも、同じように気分が上がるか
- 画面や情報で疲れた状態から歌ったときに、疲れそのものが軽くなるか(3つの実験では疲れは測っていません)
- 気分の上向きがどれくらい長く続くか(測ったのは歌った直後だけ)
- 歌わずに静かに過ごす時間と比べて、どれくらい違うか
- 好きな曲を選んで歌う場合と、決められた曲を歌う場合で違うか
04 今日からできるセルフケア張りつめた日、どう歌えばいい?
好きな曲を数分口ずさむところから始め、落ち着きたいときはゆっくり息を吐く歌い方に、元気を出したいときは人と一緒に歌う形にするのが、研究の結果に合っています。お金はかかりません。
画面を閉じて、好きな曲を1〜2曲口ずさむ
作業の区切りに画面から目を離し、知っている曲を声に出して歌います。オーストリアの実験では、5分歌っただけで前向きな気分が上がっていました。
目安 1回・5分
落ち着きたいときは、ゆっくり息を吐くように歌う
4秒で吸い、6秒かけて伸ばすように歌うと、ゆっくりした呼吸と同じリズムになります。実験では、この歌い方で心拍のゆらぎが整い、前向きな気分も上がっていました。
目安 1回・5分
時間がある日は、誰かと一緒に歌う
家族や友人と歌う、合唱やカラオケの集まりに顔を出すなど、人と声を合わせる機会をつくります。2つの実験で、ひとりより一緒に歌ったほうが気分の上がり方が大きくなっていました。
目安 週1回・20分
歌が苦手なら、ひとりでハミングから
人前で歌うのが緊張する人は、無理に声を張らず、ひとりの場所で小さな声やハミングから始めます。歌い慣れない人に歌わせるとストレスになるおそれがある、と研究者も書いています。
目安 1回・2〜3分
気分を上げるより、まず体の緊張をしずめたい日は、ゆっくりした呼吸の研究も役に立ちます。歌わずに聴くだけの場合は、音楽を聴くこととストレスの研究のまとめで紹介しています。
05よくある質問
歌うとストレス解消になるの?
歌ったあとに気分がよくなる実験はいくつかあります。ドイツの大学の合唱団38人の実験では、20分歌ったあとに心配や悲しさが減り、うれしさが増えていました。ただ参加者は歌が好きな合唱団員で、歌わない時間と比べた実験ではありません。
ひとりで歌っても効果はある?
ウィーンの合唱団の71人の実験では、ひとりで20分歌ったあと、気分の点数が平均3.8点上がり、ひとりで歌詞を読み上げた組の1.2点より大きい上がり方でした。いちばん上がったのは、みんなで歌った組(9.0点)でした。
歌うと気持ちは落ち着くの?
オーストリアの101人の実験では、5分歌った組で前向きな気分は上がりましたが、心拍と血圧も上がっていました。落ち着くというより、気分が上向いて体が少し活発になる、と考えたほうが研究に合っています。
歌が苦手でも試していい?
研究の参加者は歌が好きな合唱団員や趣味で歌う人で、歌い慣れていない人で同じ結果になるかはわかっていません。人前で歌うのが緊張する人は、ひとりの場所で小さな声やハミングから試すと無理がありません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Bowling, D. L., Gahr, J., Ancochea, P. G., Hoeschele, M., Canoine, V., Fusani, L., & Fitch, W. T. (2022). Endogenous oxytocin, cortisol, and testosterone in response to group singing. Hormones and Behavior, 139, 105105. https://doi.org/10.1016/j.yhbeh.2021.105105
- Schladt, T. M., Nordmann, G. C., Emilius, R., Kudielka, B. M., de Jong, T. R., & Neumann, I. D. (2017). Choir versus Solo Singing: Effects on Mood, and Salivary Oxytocin and Cortisol Concentrations. Frontiers in Human Neuroscience, 11, 430. https://doi.org/10.3389/fnhum.2017.00430
- Tanzmeister, S., Rominger, C., Weber, B., Tatschl, J. M., & Schwerdtfeger, A. R. (2022). Singing at 0.1 Hz as a Resonance Frequency Intervention to Reduce Cardiovascular Stress Reactivity? Frontiers in Psychiatry, 13, 876344. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2022.876344


