頭を使いすぎて、気力が戻らない気がする。スイスの大学生157人の日記研究では、「頭を使うと気力は減る」と考える人ほど、大変だった日の翌日にはかどりにくかった

昨日は会議と資料づくりでくたくたになった。今朝もまだ頭が重く、「今日はもう無理だ」と感じる。そんな日が続くと、自分の集中力が落ちてしまったように思えます。スイスの大学生157人の日記研究では、「頭を使うと気力は減り、休まないと戻らない」と考える人ほど、大変だった日の翌日にはかどりにくい結果でした。
3行でわかる
- スイスの大学生157人の日記研究では、大変だった日の翌日、「頭を使うと気力は減る」と考える人は、そう考えない人より、その日の作業がはかどっていなかった。
- ドイツの大人1,385人の実験では、気をつかう課題をしたあとも、覚えて並べ替える力の成績は下がっていなかった。
- ただし研究の数は少なく、結果も分かれている。休みは大切にしつつ、「もう使い果たした」と決める前に小さく始めてみることが手がかりになる。
01 結論から言うと頭を使いすぎると、気力は本当に減る?
頭を使ったあとに気力が減るかどうかは、研究ではまだ結論が出ていません。一方で、「気力は使えば減る」と考えている人ほど、大変だった日の翌日にはかどりにくい傾向が、日記の研究で見られました。
「集中力や意志の力は、使うと減るガソリンのようなもの」という考え方は、よく知られています。ところが心理学では、この考え方そのものが、その後の行動に関係しているのではないかと調べられてきました。
研究者は、人の考え方を2つに分けています。1つは「頭を使うと気力は減り、休まないと戻らない」という考え方です。もう1つは「頭を使うと、かえって気力がわいてくることもある」という考え方です。どちらが正しいかではなく、どちらを信じているかで、疲れた翌日の過ごし方が違ってくる可能性があります。
02 研究とデータでわかっていること「気力は減る」と考えると、翌日どうなる?
スイスの日記研究では、大変だった日の翌日、「気力は減る」と考える人はそう考えない人よりはかどっていませんでした。米国の実験でも、考え方を傾けると20分の課題の後半の伸びに差が出ました。一方、ドイツの実験では差が見られませんでした。
Bernecker・Job(2015)[1]
大学生に、学期中の2回、月曜から金曜まで毎日、朝と夜にオンラインで答えてもらった研究です。夜には「今日はどのくらい大変だったか」、朝には「いやな作業がどのくらい進みそうか」を聞きました。いつもより大変だった日の翌日、「頭を使うと気力は減る」と考える人は、そう考えない人より、いやな作業が進まないと予想し、疲れそうだと予想していました。その日の夜に答えた「効率よく取り組めたか」も低めでした。そう考えない人は、大変だった日の翌日のほうが、かえってはかどっていました。
対象: スイスの公立大学の学生157人(うち女性132人、平均約23歳) / 限界: 考え方を変えた実験ではなく、記録から関連を見た研究です。参加者は全体に「気力は減らない」寄りの考え方の人が多く、ほかの集団で同じ結果になるかはわかりません。
Miller ら(2012)[2]
大学生をくじ引きで2組に分け、一方には「頭を使う作業のあとは休みが必要になる」といった文に、もう一方には「難しい作業に没頭すると元気が出ることもある」といった文に、賛成するよう傾けた8問の質問に答えてもらいました。そのあと、3つ前に出た場所を答え続ける20分の記憶の課題をしました。前半はどちらの組も上達しましたが、後半も上達し続けたのは「元気が出る」側の組だけでした。
対象: 米国の大学生56人 / 限界: 人数が少なく、実験室での1回だけの結果です。著者ら自身、身についた力がどのくらい残るのかは確かめていないと書いています。
Singh・Göritz(2018)[3]
オンラインで、気をつかう課題(決まった規則に逆らって答える課題など)か、楽な課題のどちらかをしてもらい、そのあと数字と文字を覚えて並べ替える課題をしました。気をつかう課題をした人でも、覚えて並べ替える力の成績は下がっていませんでした。「気力は減る」と考えているかどうかでも、結果は変わりませんでした。
対象: ドイツの研究用オンライン調査に参加した大人1,385人(完了した人の平均年齢は約50歳、約6割が働いている人) / 限界: 課題は短く、何時間も続く仕事や、何日も続く疲れを調べたものではありません。
ストレスが去ったあとに集中が戻るかは「ストレス続きで頭が回らず、能力が落ちた気がする」、燃え尽きのあとの物忘れや集中しにくさは「燃え尽きて休んだあと、物忘れや集中しにくさがなかなか戻らない」で整理しています。
03 まだわかっていないこと考え方を変えれば、集中力は戻る?
考え方を変えると集中力が戻るかは、まだわかっていません。考え方を短時間傾けた実験はありますが、日常の中で長く変えられるか、それで疲れが軽くなるかは確かめられていません。
- ドイツの1,385人の実験では、考え方による差は見られず、研究の結果は分かれています。
- スイスの研究の論文が紹介している先行研究では、「気力は減らない」と思わせた人は、軽い負荷のあとには成績がよかった一方、負荷が重いときには逆に成績が下がった実験もありました。
- 研究の多くは大学生が対象で、毎日長く働く人や、何週間も疲れが続いている人で同じことが言えるかはわかっていません。
- AIを使う仕事での頭の疲れと、考え方との関係を調べた研究は見当たりませんでした。日本の人を対象にした同じ研究も見当たりませんでした。
04 今日からできるセルフケア気力が戻らない朝、何から始める?
眠気や体の疲れがはっきりあるときは、まず休みます。そうでないときは、「昨日がんばったから今日は無理」と決める前に、小さく始めて様子を見ます。お金をかけずにできる工夫を3つ挙げます。
「今日は無理」と決める前に、10分だけ手をつける
いちばん軽い作業を1つ選び、10分だけ取り組みます。そのあとで続けるか休むかを決めます。スイスの研究では、大変だった翌日でも、はかどった人たちがいました。
目安 朝に10分
没頭して元気が出た経験を、1つ書き出す
「難しかったけれど、夢中になったら気分が上がった」という場面を1つ思い出して、短く書きます。米国の実験では、こうした見方に傾けた組が、課題の後半も上達し続けていました。
目安 3分・1回
体のサインと気分のサインを分けて、休み方を決める
強い眠気や頭痛などの体のサインがあるときは、早めに休みます。「なんとなく気が重い」だけのときは、短い作業と短い休みを交互にします。休むか続けるかを、気分だけで決めないためです。
目安 判断に1分
休むことに罪悪感があるときは「休むことに罪悪感がある」、取りかかれない日が続くときは「やるべきことに取りかかれない」も参考になります。
05よくある質問
頭を使ったあとは、休まなくてもいいということですか?
そうではありません。紹介した研究は、休むことの大切さを否定するものではありません。眠気や体の疲れがはっきりあるときは、休むのが先です。研究が示しているのは、「もう使い果たした」という思い込みだけで、その日をあきらめなくてよいかもしれない、ということです。
「気力は減る」という考え方は、変えられますか?
短い時間なら変わることがありました。米国の大学生56人の実験では、8問の質問に答えるだけで考え方を傾け、その後20分の課題の結果に差が出ました。ただし、長く続く変化になるかは確かめられていません。スイスの研究の著者らも、日常の中で長く考え方を変えることは今後の課題だと書いています。
難しい作業のあとは、本当に頭の働きが落ちますか?
落ちなかった実験があります。ドイツのオンライン調査に参加した大人1,385人の実験では、気をつかう課題をしたあとも、覚えて並べ替える力(作業記憶)の成績は下がっていませんでした。ただし、何時間も続く仕事や、何日も続く疲れを調べた実験ではありません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Bernecker, K., & Job, V. (2015). Beliefs about willpower moderate the effect of previous day demands on next day's expectations and effective goal striving. Frontiers in Psychology, 6, 1496. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.01496
- Miller, E. M., Walton, G. M., Dweck, C. S., Job, V., Trzesniewski, K. H., & McClure, S. M. (2012). Theories of willpower affect sustained learning. PLoS ONE, 7(6), e38680. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0038680
- Singh, R. K., & Göritz, A. S. (2018). Ego depletion does not interfere with working memory performance. Frontiers in Psychology, 9, 538. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.00538


