AIや仕事の先行きの不安が、ふとこみあげてくる。「不安になったら、自分の大事にしていることを思い出す」と決めて書いておくと?英国の小学校の先生42人の実験では書いた直後の不安が低かったが、別の222人の試験では差が出なかった

会議でAIの導入の話が出たとき。同僚がAIで仕事をあっという間に片づけたとき。「自分の仕事はこの先どうなるんだろう」という不安が、ふいにこみあげてくることがあります。その瞬間のために、あらかじめ「こうなったら、こうする」と決めておく方法が研究されています。中身は、不安になったら自分が大事にしていることを思い出す、というシンプルなものです。
3行でわかる
- 英国の小学校の先生42人の実験では、「仕事で不安になったら、自分について大事にしていることを考える」と書いた組で、書いた直後の不安が低く、2週間後は仕事への前向きな気持ちが高かった。
- 同じ形の計画を試した別の試験では、2週間後に不安や落ち込みが改善した結果(175人)と、比べる組と差が出なかった結果(222人)に分かれた。効果は1か月後には薄れていた。
- 費用も時間もかからないが、確かな効き目はまだ言えない。試すなら、きっかけと思い出すことを1文で書き、3回読んでおくのが研究のやり方に近い。
01 結論から言うと不安になったときの「合図」を決めておくと効く?
効いたという実験と、差が出なかった試験の両方があります。書いた直後の不安が下がり、2週間ほど前向きな気持ちが高かった結果がある一方、1か月後には差が薄れ、まったく差が出なかった試験もありました。
この方法は、2つの考え方を組み合わせたものです。1つは、自分が大事にしている価値や、うまくいった経験を思い出すと、脅かされた気持ちを落ち着いて受け止めやすくなるという「自己肯定化」の考え方。もう1つは、「もし〜になったら、〜する」と前もって決めておくと、その場面で行動に移しやすくなる「もし〜なら計画」です。
AIで仕事が変わる不安は、ニュースや会議の一言など、思いがけない場面でこみあげます。そのときに考えることを先に決めておく、という発想です。ただ、研究は少なく、対象もAIの不安を抱えた人ではありません。
02 研究とデータでわかっていること実験では、何がどう変わった?
英国の先生の実験では、書いた直後の不安が低く、2週間後に仕事への前向きな気持ちが高くなりました。一方、いやな気持ちの点数は変わりませんでした。別の2つの試験では、結果が分かれました。
Morgan・Atkin(2016年)[1]
先生たちをランダムに2組に分けた。片方は「教えることで脅かされたり不安になったりしたら、私は…」という書き出しに、「自分について大事にしていることを考える」「これまでにうまくいったことを思い出す」など4つから1つを選んで続け、3行に書き写した。もう片方は、同じ書き出しに「よく通る道の店や建物を思い浮かべる」など関係のない内容を続けた。
書いた直後の不安の点数は、大事なことを思い出す組が1.65、関係ない計画の組が2.22で、はっきりした差があった(書く前の点数をそろえて比べた)。2週間後には、仕事へのやる気や誇りなどの前向きな気持ちが高く、気持ちを押さえ込むより、とらえ方を変えて対処することが増えていた。ただ、不安やいら立ちなどのいやな気持ちの点数には差がなかった。
対象: 英国北部の公立小学校3校の先生42人(男性14人・女性28人、23〜52歳) / 限界: 小規模な予備的な研究で、追ったのは2週間だけ。英国の小学校の先生以外にどこまで当てはまるかはわからない。
Łakuta / ポーランドの大学(2023年)[2]
オンラインで募集した人を3組に分けた。「悲しい、脅かされている、不安だと感じたら、私は自分について大事にしていることを考える」のような計画を作る組、大事なことを思い出さない計画を作る組、目標を決めるだけの組。計画を作った人は、それを3回読み、心の中でくり返した。
2週間後には、大事なことを思い出す組で、心の健康、落ち込み、不安が、ほかの2組より改善していた。1か月後には組の間の差は薄れていたが、この組の中での改善は続いていた。
対象: 皮膚の病気(乾癬)がある大人175人(平均36.5歳) / 限界: 病気による悩みを抱えた人が対象で、仕事の不安を調べた研究ではない。
Łakuta / ポーランドの大学(2022年)[3]
同じ研究者が、より多くの人で同じ形の計画を試した。大事なことを思い出す計画(ふだん向けと、見た目や肌の悩み向けの2種類)と、目標を決めるだけの組を比べ、追加でもう一度計画を思い出す回を入れるかどうかも分けた。
時間とともにどの組も改善していたが、組の間には、2週間後にも1か月後にも、不安、落ち込み、心の健康に差が出なかった。年齢や自尊心によって効き方が違う可能性が、探索的な分析で示された。著者は、実際の場面で広く使う前に、逆効果にならないかも含めて、もっと調べる必要があるとしている。
対象: 皮膚の病気(乾癬)がある18〜71歳の大人222人 / 限界: 仕事の不安を調べた研究ではない。差が出なかった理由ははっきりしていない。
03 まだわかっていないことAIで仕事が変わる不安にも効く?
まだわかっていません。AIや仕事の先行きの不安を抱えた人で、この方法を試した研究は見つかりませんでした。結果も研究によって分かれていて、誰に効きやすいかもはっきりしていません。
- 働く人を対象にした研究は、英国の先生42人の小さな実験だけ。人員削減のあとに職場に残った人で試した研究もあると紹介されているが、追跡は3週間までだった。
- 不安が下がったのは書いた直後で、実際に不安がこみあげた場面で計画を使えたかは確かめていない。
- 効果は2週間ほどで、1か月後には比べる組との差が薄れていた。長く続けるとどうなるかはわからない。
- 差が出なかった試験もあり、年齢や自尊心によって効き方が違う可能性がある。
04 今日からできるセルフケア試すなら、どう書けばいい?
不安がこみあげやすい場面と、そのとき思い出すことを1文にして書き、3回読んでおきます。効き目は人によって違う可能性があるので、2週間ほど試して自分に合うか確かめます。
「仕事で不安になったら、私は…」の続きを書く
「自分が大事にしていることを考える」「これまでにうまくいったことを思い出す」など、研究で使われた4つの中から1つ選び、1文で紙やメモに書きます。
目安 2〜3分・1回
思い出すことを、具体的に1つ決めておく
仕事の出来に限らず、家族や友人を大事にしていること、人に親切にしていること、続けてきた趣味など、自分の大事なことを1つ書き添えます。
目安 2分
書いた文を3回読み、心の中でくり返す
ポーランドの試験では、作った計画を3回読み、心の中でくり返していました。その後2週間ほど、不安がこみあげた場面で思い出せたかを見て、合わなければやめてかまいません。
目安 1分・試すのは2週間ほど
人員削減の話で動揺したときの書き方は先に気持ちを書く記事に、「もし〜なら計画」の基本は前もって決める計画の記事にまとめています。
05よくある質問
「不安になったら、大事なことを思い出す」と書くだけで、本当に効く?
英国の小学校の先生42人の実験では、書いた直後の不安が、関係のない計画を書いた組より低く、2週間後は仕事への前向きな気持ちも高くなっていました。ただ、同じ形の計画を試した別の試験では差が出ておらず、誰にでも効くとはまだ言えません。
何を思い出せばいい?
実験では「自分について大事にしていること」「これまでにうまくいったこと」「自分が大切にしている考え」「自分にとって大事なこと」の4つから選んで書いていました。仕事の出来に限らず、家族や友人、趣味、人への接し方など、自分が大事にしていることでかまいません。
不安な気持ちを打ち消すための方法?
打ち消す方法ではありません。英国の実験では、2週間後に仕事への前向きな気持ちは高くなりましたが、いやな気持ちの点数は変わっていませんでした。著者らは、不安を消すというより、不安を受け止めながらほかの面にも目が向くようになった可能性を挙げています。
効果はどのくらい続く?
皮膚の病気(乾癬)がある大人175人の試験では、2週間後は不安や落ち込みが比べる組より改善していましたが、1か月後には差がなくなっていました。英国の先生の実験は2週間までしか追っていません。長く続くかはわかっていません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Morgan J, Atkin L (2016). Expelling Stress for Primary School Teachers: Self-Affirmation Increases Positive Emotions in Teaching and Emotion Reappraisal. International Journal of Environmental Research and Public Health, 13(5), 500. https://doi.org/10.3390/ijerph13050500
- Łakuta P (2023). Brief self-affirmation intervention for adults with psoriasis for reducing anxiety and depression and boosting well-being: Evidence from a randomized controlled trial. Psychological Medicine, 53(6), 2574–2584. https://doi.org/10.1017/S0033291721004499
- Łakuta P (2022). A Factorial Randomized Controlled Trial of Implementation-Intention-Based Self-Affirmation Interventions: Findings on Depression, Anxiety, and Well-being in Adults With Psoriasis. Frontiers in Psychiatry, 13, 795055. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2022.795055


