AIで仕事を失ってから、毎日がだらだら過ぎて気持ちが沈む。米国の406人の調査では、失業中の人は働く人より一日のまとまりを感じにくく、余暇と落ち込みの少なさの関連は、このまとまりの感覚を通して表れていた

仕事を失うと、朝起きる理由も、出かける先も、一度になくなります。気づけばテレビやスマホの前で一日が終わり、そんな自分にまた気持ちが沈む。それは意志の弱さではなく、仕事が黙って与えてくれていた「一日のまとまり」が抜けたせいかもしれません。失業と時間の使い方を調べた研究から、わかっていることを整理しました。
3行でわかる
- 米国の406人の調査では、失業中の人は働く人より、時間を目的をもって使えている感覚(時間のまとまり)が低く、落ち込みの点数が高かった。
- 失業中の人では、余暇の活動が多い人ほど落ち込みが少ないという関連が、この時間のまとまりの感覚を通して表れていた。ただし一度だけの調査で、原因かどうかはわからない。
- まずは起きる時刻と、その日の用事を一つ決める。人と会う予定や、自分にとって意味のある用事を日課に入れるのが、研究から考えられる工夫。
01 結論から言うと仕事を失って毎日がだらだら過ぎるのは、なぜ?
仕事には、収入のほかに「一日のまとまり」を与える働きがあると考えられています。失業中の人はこのまとまりを感じにくく、まとまりの感覚の低さが気分の落ち込みと関連していました。
心理学者のヤホダは、仕事には収入のほかに、一日の時間に区切りを与えるといった目立たない働きがあり、失業でそれが失われることが心の負担につながると考えました。
ドイツで1年以上失業している21人に聞き取りをした研究でも、多くの人が一日の組み立てに困り、退屈や「何もしない」つらさを語っていました。だらだら過ぎる毎日は、本人の性格より、失業という状況から起きやすいものだと考えられます。
02 研究とデータでわかっていること一日のまとまりと気分の落ち込みは関係ある?
関連がありました。米国の調査では、失業中の人は時間のまとまりの点数が低く、落ち込みの点数が高めでした。余暇の多さと落ち込みの少なさの関連は、まとまりの感覚を通して表れていました。
Goodman ら(2017)[1]
米国の失業中の人155人、フルタイムで働く人140人、専業主婦111人を調べました。失業中の人は、時間を目的をもって使えている感覚(時間のまとまり)の点数が、ほかの2つのグループより低く、落ち込みの点数は高めでした。どのグループでも、人と過ごす余暇や自分のための余暇が多い人ほど、落ち込みが少ない関連がありました。失業中の人では、この関連の多くが「時間のまとまり」の感覚を通して表れていました。まとまりの中身のうち「決まった日課があること」が関わっていたのは、失業中の人だけでした。研究チームは、一日に区切りを与える人づきあいの活動は、お金のかからない支えになりうると述べています。
対象: 米国の18歳以上の406人(2012年にネットの仕事依頼サービスで募集。平均33.9歳) / 限界: 一度だけの調査で、日課があるから落ち込みが少ないのか、落ち込みが少ないから日課を保てるのかは区別できません。失業中の人では、運動と落ち込みの関連は、統計の補正をすると確かとは言えなくなりました。
Mayer・Hollederer(2021)[2]
ドイツで1年以上失業している21人に、失業中の負担と乗り切り方を聞き取りました。多くの人が一日を組み立てられず、「起きてコーヒーを飲み、テレビをつけて、夜になるのを待つ」ような毎日を語っていました。一方で、家事・料理・庭仕事・体を動かすこと、子育てや家族の世話で、ゆるやかな一日のリズムを保っている人もいました。そうした人は、自分の用事に強い意味を感じていました。自分から外へ出て予定を作る人は、一日のまとまりと人とのつながりの両方を得ていました。
対象: ドイツの2つの都市の、1年以上失業している21人(2020年6月に面接) / 限界: 人数の少ない聞き取りで、心の状態は測っていません。30歳以下の人には話を聞けていません。
Olesen ら(2013)[3]
オーストラリアの20〜55歳の7,176人を、2001年から毎年9回調べました。期間中に一度でも失業した人は14.2%でした。失業すると次の調査で心の調子が悪くなりやすく、心の調子が悪いと次の調査で失業しやすいという、両方向の関連がありました。失業中の人に心の不調が多いのは、失業の影響と、もともとの不調の両方によると考えられます。
対象: オーストラリアの全国調査に答えた20〜55歳の7,176人 / 限界: 一日の過ごし方は調べていません。男性では、心の調子が失業につながる関連のほうが、失業が心の調子に及ぼす関連より強めでした。
失業のあとの心の立て直しについては「AIで仕事を失ってから、心も体も重いまま」、人の役に立つ活動との関係は「AIで仕事を失ったあと、ボランティアで気持ちを立て直せる?」でも紹介しています。
03 まだわかっていないこと日課を作れば、落ち込みは軽くなる?
まだ確かめられていません。わかっているのは、まとまりのある毎日と落ち込みの少なさが一緒に見られる、という関連までです。日課づくりを勧めて気分が変わるかを、失業中の人で試した研究は今回見つかりませんでした。
- 米国の調査は一度だけの調査で、研究チーム自身も、どちらが原因かは決められず、両方向の関係もありうると書いています。
- 米国の調査の参加者は、全体に落ち込みの点数が高めで、ネットの仕事依頼サービスで集めた人でした。
- AIによる仕事の変化で職を失った人に限った研究はまだありません。
- どんな日課が、どのくらいあればよいのかは、わかっていません。
04 今日からできるセルフケア崩れた毎日に、まとまりを取り戻すには?
大きな計画はいりません。起きる時刻と最初の用事を決める、人と会う予定を週に一つ入れる、自分にとって意味のある用事を日課にする。この3つが、研究から考えられる小さな工夫です。
起きる時刻と、朝いちばんの用事を一つ決める
「7時半に起きて、15分散歩する」のように、毎朝の始まりだけを固定します。米国の調査では、決まった日課があることが時間のまとまりに関わっていたのは、失業中の人だけでした。
目安 毎朝15分
人と会う予定を、週に一つカレンダーに入れる
友人とのお茶、地域の集まり、図書館の講座など、お金のかからない人づきあいを一つ予定にします。研究チームは、一日に区切りを与える人づきあいの活動を、お金のかからない支えとして挙げています。
目安 週1回・1時間ほど
「自分にとって意味のある用事」を一つ日課にする
料理、ベランダの植物の世話、家族の送り迎えなど、続けていて「やってよかった」と思える用事を選びます。ドイツの聞き取りでは、こうした用事に意味を感じている人が、ゆるやかなリズムを保っていました。
目安 1日1つ・30分ほど
05よくある質問
失業中は、毎日予定を詰めたほうがいいですか?
詰め込む必要はありません。米国の調査で落ち込みとの関連がはっきりしていたのは、予定の多さそのものより「時間を目的をもって使えている」という感覚でした。起きる時刻と、その日の用事を一つ決めるくらいから始めれば十分です。
家事や子育てばかりの毎日でも、まとまりになりますか?
なりえます。ドイツの聞き取りでは、子育てや家族の世話が一日のリズムをつくり、「自分は失業者ではない」と感じられた人もいました。ただし、家族の世話が負担になっていると話す人もいて、負担が大きいときは一人で抱えないことも大切です。
気持ちが沈んでいて、仕事探しが進みません。私が怠けているのでしょうか?
怠けとは限りません。オーストラリアの7,176人の追跡では、失業すると心の調子が落ちやすく、心の調子が落ちていると、その後に失業しやすいという、両方向の関連がありました。心の負担も仕事探しを難しくする一因と考えられます。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Goodman, W. K., Geiger, A. M., & Wolf, J. M. (2017). Leisure activities are linked to mental health benefits by providing time structure: comparing employed, unemployed and homemakers. Journal of Epidemiology and Community Health, 71(1), 4-11. https://doi.org/10.1136/jech-2016-207260
- Mayer, D., & Hollederer, A. (2021). What helps the unemployed to stay healthy? A qualitative study of coping with the negative effects of job loss. Journal of Public Health Research, 11(1), 2492. https://doi.org/10.4081/jphr.2021.2492
- Olesen, S. C., Butterworth, P., Leach, L. S., Kelaher, M., & Pirkis, J. (2013). Mental health affects future employment as job loss affects mental health: findings from a longitudinal population study. BMC Psychiatry, 13, 144. https://doi.org/10.1186/1471-244X-13-144


