AIで仕事を失ったあと、ボランティアで気持ちを立て直せる?英国の2010〜2020年の調査では、失業中の人の心の不調をボランティアが和らげる結びつきは見られなかった

仕事を失ってから、毎日の張りがなくなった。「せめて誰かの役に立てば気持ちも戻るかも」と、ボランティアを考える人は少なくありません。結論から言うと、英国の2010〜2020年の大規模な調査では、失業中の人の心の不調を、ボランティアが和らげる結びつきは見られませんでした。中国の調査では、時間の使い方に「枠」と目的があるかどうかが、ストレスと不眠のつながりに関わっていました。
3行でわかる
- 英国の調査(のべ127,405件の回答)では、失業すると心の健康の点数が下がり、ボランティアをしていても、その下がり方は小さくなっていませんでした。回数や男女で分けても同じでした。
- デンマークで失業した437人の記録では、ボランティアをしていた人のほうが、失業の期間が平均で約2週間(31%)長い関連がありました。原因かどうかはわかっていません。
- 中国の失業中の若者511人の調査では、ストレスが強い人ほど時間の使い方の枠や目的が弱く、それが不眠の強さとつながっていました。立て直しは、まず1日の時間の枠を作ることから始められます。
01 結論から言うと失業中のボランティアで、気持ちは立て直せる?
英国の大規模な調査では、失業中の人の心の不調をボランティアが和らげる結びつきは見られませんでした。ただし研究は少なく、国や年齢で結果が分かれています。わかっている度は低めです。
仕事には、お金のほかにも働きがあると考えられています。毎日の時間の区切り、人との接点、何かの役に立っている感覚などです。研究者はこれを仕事の「隠れた働き」と呼び、失業でつらくなる理由の一つと考えてきました。ボランティアは、その代わりになるのではと期待されてきました。
ところが英国の10年分のデータでは、失業中の人に限ると、その期待どおりの結果は出ませんでした。一方で、家族の世話や長い病気で働いていない人では、月1回以上のボランティアと心の健康のよさが結びついていました。ボランティアがだめというより、「仕事を失ったつらさの代わり」にはなりにくいようです。
02 研究とデータでわかっていることボランティアと失業中の心の健康は、どう関係する?
英国では、失業中の人ではボランティアをしても心の健康の下がり方は変わりませんでした。デンマークではボランティアをした人ほど失業が長い関連があり、中国ではストレスと不眠の間を、時間の使い方の枠の弱さがつないでいました。
Wangら(2022年) [1]
英国の世帯調査で、同じ人が働いていた時期と、失業した時期を比べました。失業中や、家族の世話・病気などで働いていない時期は、心の健康の点数が下がっていました。失業中の人では、この1年にボランティアをしたかどうか、月1回以上したかどうかにかかわらず、その下がり方は小さくなっていませんでした。男女に分けても同じでした。
対象: 英国の世帯調査(約4万世帯)の回答のべ127,405件。心の健康は12問の質問票で測定 / 限界: 研究者自身が、原因と結果としては読めないと述べています。福祉の手厚さが違う国では結果が変わる可能性もあります。
Wangら(2022年) [1]
同じ調査で、全体として見ると、月1回以上ボランティアをしていた時期は、心の健康の点数がわずかに高めでした。月1回未満では差がありませんでした。家族の世話をしている時期や、長い病気の時期には、月1回以上のボランティアと心の健康のよさが結びついていました。
対象: 上と同じ調査 / 限界: 全体での差は0〜36点の尺度で0.22点と小さく、どんな活動をしたかは区別していません。
HolsteinとQvist(2025年) [2]
デンマークのボランティア調査(2017年)に答えた人のうち、2018年に失業した人を、国の記録で3年間追いました。学歴や働いた年数などをそろえて比べると、ボランティアをしていた人は、していない人より失業の期間が平均で約2週間、割合にして31%長い関連がありました。研究者は、ボランティアに時間や気持ちが向いて職探しから抜けにくくなる可能性を挙げつつ、仕組みはまだ調べられていないとしています。
対象: デンマークで失業した437人の、1,027回の失業期間(2018〜2020年) / 限界: 観察した関連で、原因とは言えません。失業の前からボランティアをしていたのか、失業してから始めたのかも区別できていません。
Huaら(2022年) [3]
中国の失業中の若者に、ストレス、不眠、気持ちの整えにくさ、時間の使い方を尋ねました。不眠の可能性がある人は53.0%でした。ストレスが強い人ほど不眠も強めで、そのつながりのうち31.8%を気持ちの整えにくさが、17.6%を時間の使い方の枠や目的の弱さが説明していました。
対象: 中国の失業中の若者511人(平均21.5歳、女性38.6%) / 限界: 1回だけの調査で、原因と結果は言えません。不眠のせいで生活が乱れた可能性もあります。
03 まだわかっていないことどんなボランティアなら、心の助けになる?
まだわかっていません。今回の研究は、ボランティアをしたかどうかと回数しか見ておらず、活動の中身や、自分で選んだかどうかは調べていません。日本の失業中の人を対象にした研究も見つかりませんでした。
- 英国の論文が紹介している先行研究では、年齢の高い人で、ボランティアが失業のつらさを和らげたという結果もありました。年齢や国によって結果が分かれている可能性があります。
- デンマークの研究は失業の長さを見たもので、心の健康は測っていません。ボランティアをした人が、より自分に合った仕事を探していた可能性もあります。
- デンマークの論文は、ボランティアが再就職後の仕事の質と関わるという別の研究も紹介しています。失業が長いことが損か得かは、この研究だけでは決められません。
- 時間の枠を作ると不眠が軽くなるかを、実験で確かめた研究は見つかりませんでした。
04 今日からできるセルフケア仕事を失ったあと、何から立て直せばいい?
まず1日の時間の枠を決め、その中に職探しと休む時間を入れます。ボランティアは「気持ちを戻す手段」と期待しすぎず、やってみたい活動として選びます。どれも研究の結果をもとにした、お金のかからない工夫です。
起きる時間と、1日の「3つの枠」を決める
中国の研究で使われた質問には「毎日の決まった流れがあるか」「その日の予定を立てるか」がありました。朝に、起きる時間・職探しの時間・休む時間の3つだけを紙に書きます。
目安 毎朝5分
職探しの時間を先に確保してから、ほかの予定を入れる
デンマークでは、ボランティアをしていた人ほど失業が長い関連がありました。週の予定を作るときは、先に応募や情報集めの時間を入れ、残りの時間でほかの活動を考えます。
目安 週1回・15分
ボランティアは「やってみたいか」で選ぶ
英国では、失業中の人の心の不調をボランティアが和らげる結びつきは見られませんでした。「気持ちを戻すため」と自分に課すより、興味がある活動を気軽に試すくらいの位置づけにします。
目安 試すなら月1回から
寝る前に、その日の気持ちを一言で書く
中国の研究では、気持ちの整えにくさが、ストレスと不眠のつながりの約3割を説明していました。「焦り」「悔しい」など、今の気持ちに名前をつけて1行だけ書きます。
目安 1日1分
失業した人の健康づくりの研究は 仕事を失って心も体も重いときの記事、ひとりで抱え込むことと不安の関係は 仕事の不安が何か月も消えないときの記事 にまとめています。誰かの役に立つこと自体の研究は 役に立てているか不安なときの記事 も参考になります。
05よくある質問
失業中にボランティアをすると、気持ちは楽になる?
英国の2010〜2020年の調査では、失業中の人の心の不調を、ボランティアが和らげる結びつきは見られませんでした。月1回以上していても同じでした。一方、家族の世話や長い病気で働いていない時期には、月1回以上のボランティアと心の健康のよさが結びついていました。
ボランティアをすると、再就職に有利になる?
はっきりしません。デンマークで失業した437人の記録では、ボランティアをしていた人のほうが、失業の期間が平均で約2週間(31%)長い関連がありました。観察した関連で、原因かどうかはわかっていません。仕事の質との関係を示した研究もあると、論文は紹介しています。
仕事を失ってから、夜に眠れないのはなぜ?
中国の失業中の若者511人の調査では、53.0%に不眠の可能性がありました。ストレスが強い人ほど不眠も強めで、その間を、気持ちの整えにくさと、時間の使い方の枠や目的の弱さがつないでいました。1回だけの調査で、原因は言えません。
ボランティアは、やめたほうがいい?
そうは言えません。研究は、失業のつらさの「代わり」にはなりにくいことを示しただけで、活動そのものが悪いという結果ではありません。職探しや休む時間を先に確保したうえで、やってみたい活動として選ぶのが、研究の結果と合う考え方です。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Wang S, Ling W, Lu Z, Wei Y, Li M, Gao L (2022). Can Volunteering Buffer the Negative Impacts of Unemployment and Economic Inactivity on Mental Health? Longitudinal Evidence from the United Kingdom. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(11), 6809. https://doi.org/10.3390/ijerph19116809
- Holstein EL, Qvist HPY (2025). Lagging behind by doing good: How volunteering prolongs unemployment. The British Journal of Sociology, 76(3), 483-498. https://doi.org/10.1111/1468-4446.13182
- Hua Z, Ma D, Xia X (2022). Emotional Dysregulation and Time Structure Mediate the Link between Perceived Stress and Insomnia among Unemployed Young People in China: A Cross-Sectional Study. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(19), 11883. https://doi.org/10.3390/ijerph191911883


