職場で理不尽なことを言われて、怒りが収まらない。154件の研究のまとめでは、発散するより体を落ち着かせる方法のほうが怒りを下げていた

上司に理不尽なことを言われた、同僚に手柄を取られた。席に戻っても、怒りで手が震えて仕事が手につかない。AIの導入で仕事の進め方が急に変わり、ぶつかる場面が増えた職場もあるかもしれません。結論から言うと、怒りを下げやすいのは、物に当たったり走ったりして発散することより、呼吸をゆっくりにするなど体の高ぶりを落ち着かせる方法でした。
3行でわかる
- 154件の研究(参加者1万人超)のまとめでは、深呼吸やリラックスなど体の高ぶりを下げる方法は怒りと攻撃性を下げ、体を高ぶらせる方法は全体として効果がありませんでした。
- 日本の実験では、怒りの原因と考えを紙に書き、その紙を捨てたりシュレッダーにかけたりした人は、怒りが実験前と同じくらいまで下がりました。
- ドイツの研究チームが働く人214人を2週間追った調査では、怒ったことを頭の中で考え続けた日ほど、午後に消耗した感じが強い関連がありました。
01 結論から言うと職場で怒りが収まらないとき、どうすれば落ち着く?
体の高ぶりを下げる方法が手がかりになります。ゆっくり呼吸する、体の力を抜くといった方法は、研究のまとめで怒りを下げる方向に働いていました。
怒りがわくのは、気持ちが弱いからでも、性格が悪いからでもありません。不当に扱われたと感じたときに起きる、自然な反応です。問題になりやすいのは、その怒りが長く続いて、仕事や人間関係に響くときです。
「怒りはためこまずに吐き出したほうがいい」とよく言われます。けれども研究のまとめは、物を叩く、走るといった「体を高ぶらせる発散」に、怒りを下げる効果を見つけられませんでした。[1]逆に効果が見られたのは、心拍や呼吸を落ち着かせる方向の方法でした。
02 研究とデータでわかっていること怒りは、発散するより落ち着かせたほうが下がる?
下がりやすいのは落ち着かせる方法でした。また、怒りを書いた紙を捨てると怒りが下がった実験があり、怒りを考え続けた日は消耗感が強い関連がありました。
Kjærvik・Bushman(2024年)[1]
怒りへの対処法を調べた154件の研究(184の集団、参加者10,189人)をまとめました。深呼吸、マインドフルネス、瞑想など体の高ぶりを下げる方法は、怒りと攻撃性を下げていました(効果量 g = −0.63)。一方、袋を叩く、ジョギング、自転車こぎなど高ぶりを上げる方法は、全体として効果がありませんでした(g = −0.02)。
対象: 学生と学生以外、さまざまな性別・年齢・文化の参加者を含む研究 / 限界: 高ぶりを上げる方法の結果は研究ごとのばらつきが大きく、方法によって違う可能性がある。著者らは「怒りを吐き出す」「走りに行く」が効果的だという考えは支持されないとまとめている。
金谷・川合 / 名古屋大学(2024年)[2]
短い作文に「教養のある人がこんな考え方をするとは信じられない」という侮辱的な評価を受けて怒った参加者に、怒りの原因と考えを3分間紙に書いてもらいました。紙を丸めてゴミ箱に捨てた組は、怒りの点数が実験前と統計的に差がない程度まで下がりました(1.59→3.34→1.87)。紙をファイルにしまった組は、下がったものの実験前より高いままでした(1.78→3.45→2.64)。
対象: 実験1は日本の大学生50人。実験2は人材派遣会社と大学から集めた46人(平均26.4歳)で、紙をシュレッダーにかけた組で同じ結果が出た / 限界: 人数が少ない。紙以外(スマホのメモなど)では試しておらず、ほかの方法との比較もしていない。
Umbra・Fasbender / ホーエンハイム大学(2025年)[3]
フルタイムで働く214人に、朝・昼・午後の1日3回、2週間にわたって答えてもらいました(のべ1,611日分)。朝に怒りを感じた日ほど、昼までに「怒ったことが頭から離れない」と答えやすく、そうした日ほど、午後に集中力や自制心がすり減った感じが強い関連がありました。
対象: ドイツの研究チームが調べた、さまざまな業種で働く214人(平均34.8歳) / 限界: すべて本人の回答で、関連を見た調査のため、考え続けることが消耗の原因とまでは言えない。関連の大きさは小さかった。
03 まだわかっていないこと怒りを書いて捨てる方法は、職場でも効く?
職場で試した研究はまだありません。紙を捨てる実験は少人数の実験室での結果で、職場の怒りやスマホでのメモで同じことが起きるかはわかっていません。
- 紙を捨てる実験は、2つあわせても約100人です。実験室で作った短い怒りで試しており、何日も続く職場の怒りで同じように働くかは確かめられていません。[2]
- 著者らは、スマホやパソコンで書いて消す方法は試していないと述べています。[2]
- 研究のまとめは、高ぶりを上げる方法の結果がばらばらだったと報告しています。運動そのものが怒りに悪いという意味ではありません。[1]
- 働く人の調査は関連を見たもので、考え続けるのをやめれば消耗が減るかは、実験ではまだ確かめられていません。[3]
04 今日からできるセルフケア怒りで手が震えるとき、その場で何をすればいい?
まず呼吸をゆっくりにして体の高ぶりを下げ、それから怒りを紙に書いて捨てます。返信や言い返しは、落ち着いてからに回すのが安全です。
その場を離れて、息を長く吐く
席を立ってトイレや廊下に移り、吸うより吐くほうを長めにして、ゆっくり呼吸します。体の高ぶりを下げる方法は、研究のまとめで怒りを下げる方向でした。やり方はゆっくり呼吸の記事にまとめています。
目安 1〜3分
怒りの原因と考えを紙に書いて、捨てる
「何に腹が立ったか」「なぜそう感じたか」をメモ用紙に書き、読み返してから丸めてゴミ箱に入れます。実験では、書いた紙を手元に残した組より、捨てた組のほうが怒りが下がりました。
目安 書くのは3分、読み返し30秒
反論のメールやチャットは、すぐ送らない
言い返したい内容は下書きにとどめ、呼吸が落ち着いてから読み直します。言い方を選び直す余地が生まれます。
目安 送信は30分以上あとに
頭の中で何度も再生していると気づいたら、場面を外から眺める
その場にいなかった第三者なら、この出来事をどう見るかを1分だけ考えます。考え続けるのを切り替える工夫はAIにイライラしたときの記事や注意されたことを引きずるときの記事でも紹介しています。
目安 気づくたびに1分
05よくある質問
怒りはためこまずに発散したほうがいいのでは?
研究のまとめでは、物を叩く、走るといった体を高ぶらせる方法には、全体として怒りを下げる効果が見られませんでした。怒りを下げる方向に働いていたのは、ゆっくりした呼吸やリラックスなど、体の高ぶりを下げる方法でした。
紙に書いて捨てるのは、スマホのメモでも同じ効果がある?
まだわかっていません。実験は紙で行われ、著者らもスマホやパソコンでは試していないと述べています。手元に紙があれば紙で、なければメモを書いて削除する形で試すことはできますが、同じ効果があるとは言えません。
職場で怒りを感じる自分は、心が狭いの?
いいえ。不当に扱われたと感じたときに怒りがわくのは自然な反応です。働く人の調査でも、怒りそのものより、怒ったことを考え続けた日に消耗感が強い関連がありました。怒りを感じたあとの扱い方に目を向けるほうが役に立ちます。
理不尽な言動が毎日のように続くときは?
ひとりの工夫で抱えきれないときは、信頼できる上司や同僚、社内の相談窓口に話すことができます。暴言などのハラスメントにあたるかどうかの相談先もあります。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Kjærvik, S. L., & Bushman, B. J. (2024). A meta-analytic review of anger management activities that increase or decrease arousal: What fuels or douses rage? Clinical Psychology Review, 109, 102414. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2024.102414
- Kanaya, Y., & Kawai, N. (2024). Anger is eliminated with the disposal of a paper written because of provocation. Scientific Reports, 14, 7490. https://doi.org/10.1038/s41598-024-57916-z
- Umbra, R., & Fasbender, U. (2025). The daily relations between workplace anger, coping strategies, work outcomes, and workplace affiliation. Frontiers in Psychology, 16, 1538914. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1538914


