人の失敗を知って、少しほっとしてしまう自分が嫌。なぜ?2〜3歳の子ども35人の実験では、不公平な場面が終わったときにこの気持ちが表れ、SNSの投稿361件では約5件に1件が、自分もいやな目にあったあとの「埋め合わせ」型だった

活躍していた同僚のミスを聞いたとき、SNSでいつも順調そうな人のつまずきを見たとき。心のどこかで少しほっとして、そんな自分にがっかりする。「他人の不幸は蜜の味」と言われるこの気持ちは、心理学では「シャーデンフロイデ」と呼ばれ、研究が続けられています。わかってきたのは、これが特別に性格の悪い人だけのものではなく、人と比べる心から生まれる、ありふれた感情だということです。
3行でわかる
- イスラエルの2〜3歳の子ども35人の実験では、母親がほかの子にだけ本を読んでいた不公平な場面が終わったとき、喜ぶようなしぐさが多く見られた。
- 人の失敗を喜ぶSNSの投稿361件を分けた研究では、約5件に1件が、自分もいやな目にあったあと、相手も同じ目にあって気持ちが埋め合わされる型だった。
- 一方、ねたみがあれば必ず強まるわけではなく、条件で結果は変わった。気持ちが浮かぶことと、相手を傷つける行動は分けて考えられる。
01 結論から言うと人の失敗にほっとするのは、性格が悪いから?
研究からは、そうとは言えません。この気持ちは2歳ごろの子どもにも見られ、人と比べたり、不公平を感じたりする心から生まれると考えられています。気持ちが浮かぶことと、相手を傷つける行動をとることは別のものです。
人は、自分の状態をまわりの人と比べながら暮らしています。自分より上に見える人がいると、劣っているような、取り残されたような気持ちになりやすくなります。その相手がつまずくと、差が縮まったように感じて、ほっとすることがあります。
研究者は、この気持ちを、人と比べて傷ついた自分の評価を立て直そうとする働きや、不公平に敏感な心の表れとして説明しています。ほっとした自分を責めすぎるより、「いま自分は何と比べていたのか」に目を向けるほうが、気持ちの整理につながります。
02 研究とデータでわかっていることどんなときに、人の失敗でほっとする?
相手が自分より得をしていた不公平な場面のあとや、自分もいやな目にあっていたときに表れやすいと考えられています。SNSの投稿では、相手が嫌いな場合や、相手がずるいことをしていた場合も多くありました。
Shamay-Tsooryら(2014年)[1]
子どもと、その母親、なじみのある同じくらいの年の子の3人で過ごす場面をつくった。母親がひとりで本を読む「公平な場面」と、ほかの子をひざに乗せて本を読み聞かせる「不公平な場面」を用意し、どちらも最後に母親がうっかり本に水をこぼして読み聞かせが終わるようにした。
不公平な場面のあとのほうが、飛びはねる、手をたたく、「よかった」と言うといった喜ぶしぐさが多く、表れ方もはっきりしていた。こうした様子は、いちばん幼い2歳ごろの子どもにも見られた。研究者は、この気持ちが不公平への反応として早くから備わっている可能性を示すと考えている。
対象: イスラエルの2〜3歳の子ども35人(平均約3歳)とその母親、なじみの子 / 限界: 人数が少なく、気持ちは表情やしぐさから読み取ったもの。大人の職場やSNSでの気持ちと同じ仕組みかは、この研究だけではわからない。
Cecconiら(2020年)[2]
Twitterで、人の失敗を喜ぶ投稿を集め、なぜ喜んでいるのかで4つの型に分けた。イタリア語と英語の361件では、嫌いな相手の失敗を喜ぶ「嫌悪」型が36.56%、ずるいことをした、または不当に得をした相手がつまずく「不公平」型が28.25%、自分がいやな目にあったあと相手も同じ目にあう「埋め合わせ」型が21.61%、張り合っている相手(応援するチームのライバルなど)の失敗を喜ぶ「ライバル」型が13.58%だった。
「埋め合わせ」型は、たとえば自分が試験に落ちて恥ずかしい思いをしていたとき、ほかの人も落ちたと知って、自分だけが劣っているわけではないと感じるような場面を指す。研究者は、これを自分の評価を立て直すための働きと説明している。
対象: Twitterに投稿されたイタリア語185件・英語176件の書き込み / 限界: 書き込みを分類した研究で、どの型がどれだけ多いかは集め方に左右される。気持ちの強さや、書いた人がどんな人かは測っていない。
LinとLiang(2021年)[3]
大学生が、ほかのプレーヤーとお金のゲームをした。相手が自分より多く得た(または損が少なかった)あとで、その相手がつまずく場面を見て、どのくらいうれしいかを答えた。損得の金額がはっきり見える条件では、相手への悪意のあるねたみが、損をする場面でだけこの気持ちを強めていた。
ところが、金額があいまいな条件では、ねたみはこの気持ちをむしろ弱めていた。研究者は、ねたみがあれば必ず人の失敗を喜ぶわけではない、と結論している。
対象: 中国の18〜22歳の大学生35人 / 限界: 実験室のゲームで、相手は知らない人。人数が少なく、身近な人やSNSの相手に同じことが起きるかはわからない。
03 まだわかっていないことこの気持ちは、心の健康に悪い?
まだわかっていません。人の失敗にほっとしやすいことが、その後の落ち込みや人間関係にどう関わるかを、同じ人を追って確かめた研究は見当たりません。気持ちを和らげる方法を試した研究も、まだ少ない状態です。
- この気持ちをよく感じる人が、その後に落ち込みやすいのか、それとも気持ちの立て直しに役立っているのかは、確かめられていない。
- 紹介した研究は、子どもの実験、SNSの書き込みの分類、大学生のゲームで、大人の職場や友人関係で同じことが起きるかはわからない。
- ねたみとの関係は、条件によって強まったり弱まったりしており、研究の結果はそろっていない。
- 日本の人を対象にした大きな研究は、今回見つけられなかった。
04 今日からできるセルフケアほっとしてしまったとき、どうすればいい?
気持ちを責めて打ち消すより、まず「比べていた」と気づき、その裏にある自分の負けた感じや疲れを確かめます。そのうえで、気持ちを相手への言葉や行動に出さないことを決めておくと、自己嫌悪が長引きにくくなります。
「いま比べていた」と心の中で言葉にする
ほっとした瞬間に、「あの人と自分を比べていた」と短く言葉にします。研究では、この気持ちは人と比べる場面や不公平を感じる場面で表れていました。性格の問題ではなく、比べる心の動きとして見ると、自分を責めすぎずに済みます。
目安 その場で10秒
自分の「負けた感じ」を一行書き出す
「最近、自分は何で負けた気がしていたか」を一行だけ書きます。研究では、自分がいやな目にあったあと、相手も同じ目にあうことで気持ちが埋め合わされる型がありました。ほっとした裏にある自分の疲れや焦りに目を向けるきっかけになります。
目安 2〜3分
気持ちと行動を分けると決めておく
ほっとしても、相手のつまずきを人に広めたり、SNSで反応したりしないと決めておきます。気持ちが浮かぶことは止めにくくても、行動は選べます。相手への声かけを一つ考えておくと、気まずさも減ります。
目安 決めるのは1分
同期や友達の成功を素直に喜べないときは成功を喜べないときの研究を、SNSで自分より上の人を見て落ち込むときは上の人と比べて落ち込むしくみを読めます。
05よくある質問
人の失敗にほっとするのは、性格が悪いから?
研究からは、そうとは言えません。この気持ちは2歳ごろの子どもにも見られ、人と比べる心から生まれる、ありふれた感情と考えられています。気持ちが浮かぶことと、相手を傷つける行動をとることは別のものです。
どんなときに、この気持ちは強くなる?
研究では、相手が自分より得をしていた不公平な場面のあとや、自分もいやな目にあっていたときに表れやすいと考えられています。SNSの投稿を分けた研究では、相手が嫌いな場合や、相手がずるいことをしていた場合も多くありました。
ねたみがあると、必ずこの気持ちは強くなる?
必ずではありません。中国の大学生35人の実験では、損得の差がはっきり見える場面の一部ではねたみが気持ちを強めましたが、差があいまいな場面ではむしろ弱めていました。条件によって変わるため、まだ研究が続いています。
この気持ちを消すことはできる?
消す方法を確かめた研究は、まだ見当たりません。気持ちそのものを責めるより、自分の負けた感じや疲れが背景にないかを確かめ、相手への言葉や行動に出さないようにするほうが現実的です。
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出典
- Shamay-Tsoory, S. G., Ahronberg-Kirschenbaum, D., & Bauminger-Zviely, N. (2014). There is no joy like malicious joy: schadenfreude in young children. PLoS ONE, 9(7), e100233. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0100233
- Cecconi, C., Poggi, I., & D'Errico, F. (2020). Schadenfreude: Malicious Joy in Social Media Interactions. Frontiers in Psychology, 11, 558282. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.558282
- Lin, H., & Liang, J. (2021). The Effect of Malicious Envy on Schadenfreude When Schadenfreude Is Elicited Through Social Comparisons. Frontiers in Psychology, 12, 769826. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.769826


