画面とチャットに追われて、疲れと緊張が抜けない。胸とお腹に手を当てる5分の練習は、14日間の実験でその場のストレスと疲れを下げ、短い瞑想と同じくらいだった

チャットの返信、AIへの指示、次々に届く通知。画面に向かう時間が長い日は、夕方には肩に力が入ったまま、ぐったり疲れていることがあります。道具も相手もいらない手の一つが、自分の胸とお腹に手を当てて呼吸することです。オーストリアの78人が14日間続けた実験では、5分の練習でその場のストレスと疲れが下がり、短い瞑想と同じくらいでした。
3行でわかる
- ストレスを感じている大学生78人が、14日間、毎朝5分、胸とお腹に手を当てる練習か短い瞑想をした。どちらでも、練習の直後にストレスと疲れが下がっていた。
- 下がり方は小さめで、2つの方法に差はなかった。続けるうちに練習前の疲れが下がったのは、手を当てる方法だった。
- 一方、「この1か月のストレス」を答える質問票は2週間後も変わらなかった。その場をゆるめる方法で、疲れやすさそのものを変えるとはまだ言えない。
01 結論から言うと疲れと緊張を、その場でゆるめる方法は?
胸とお腹に手を当てて数回深く呼吸する方法は、試す価値があります。14日間の実験では、5分の練習の直後にストレスと疲れが下がっていました。ただし効果は小さめで、短い瞑想と差はありませんでした。
この方法は、研究では「セルフ・スージング・タッチ(自分をなだめる触れ方)」と呼ばれています。人に触れられると気持ちが落ち着くことは、多くの研究で調べられてきました。自分で自分に触れることで、それに近い温かさや安心感を得られないか、という考えから試されている方法です。
道具も、相手も、場所もいりません。画面から目を離せる数分があれば、デスクでもできます。
02 研究とデータでわかっていること手を当てると、ストレスと疲れは下がる?
練習の直後に下がる結果が出ています。14日間の実験ではストレス・疲れ・寂しさがどれも練習の前後で下がり、緊張する課題の前に20秒手を当てた実験では、ストレスホルモンが低くなっていました。
効果の大きさの数字は、0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きいが目安です。
Maierら(2026年)[1]
ストレスを感じている大学生78人を2組に分け、14日間、毎朝起きてから5分の練習をしてもらった。1組は右手を胸に、左手をお腹に置き、目を閉じて深く呼吸しながら、手の重さと温かさに注意を向けた。もう1組は、目を閉じて深く呼吸するだけの短い瞑想をした。練習の前後に、今のストレス・疲れ・寂しさを0〜100で答えてもらった。
どちらの組でも、練習の直後に3つとも下がっていた。手を当てる組の効果の大きさは、ストレス0.30、疲れ0.27、寂しさ0.16で、どれも瞑想の組と差はなかった。14日間を通して練習前の疲れが下がっていったのは手を当てる組だった(ただし組どうしの差ははっきりしなかった)。寂しさが日ごとに下がっていったのは瞑想の組だった。
対象: ウィーン大学の研究参加制度で集めた、ストレスの質問票の点数が一定以上の78人(平均22.2歳、81%が女性) / 限界: 「この1か月のストレス」などをふり返って答える質問票は、どちらの組も2週間後・4週間後に変わらなかった。比べた瞑想も効果を持っていた可能性があり、手を当てること自体の効果は切り分けられていない。答えはすべて本人の申告で、4週間後の調査は試験期間と重なっていた。
Dreisoernerら(2021年)[2]
人前での面接と暗算という緊張する課題の前に、20秒のハグを受けた人、自分の体に20秒手を当てた人、紙飛行機を折った人を比べた。手を当てた人のほぼ全員が、右手を胸の上に、左手をお腹に置き、2〜3回深く呼吸した。課題のあと、ハグと手を当てた人はどちらも、紙飛行機の人よりストレスホルモン(コルチゾール)が低かった。
対象: ドイツの健康な18〜35歳159人(女性96人。多くが心理学の学生) / 限界: 心拍数と、本人が答えたストレスの強さには差がなかった。実験室での1回の結果。
Packheiserら(2024年)[3]
人から触れられる方法(多くはマッサージ)と触れない方法を比べた研究137件のまとめ。大人では、落ち込み(0.59)やその時の不安(0.64)が和らいでいた。回数を重ねるほど効果が大きい傾向があった。
対象: 子ども・大人・新生児の研究 / 限界: 自分で自分に触れる方法は対象外。健康な大人の心への効果は0.37と、病気のある人(0.63)より小さかった。
03 まだわかっていないこと続ければ、疲れにくい体質になる?
まだわかっていません。14日間の実験では、過去をふり返って答える質問票のストレスや疲れは変わりませんでした。画面の使いすぎで疲れた人を対象にした研究も、まだ見当たりません。
- 手を当てること自体が効いているのか、目を閉じて深く呼吸し、数分静かにすることが効いているのかは、切り分けられていない。
- 研究は2件とも、ドイツ語圏の若い大学生(多くが女性)が対象。働く人や年齢の高い人で同じ結果になるかはわからない。
- 2週間より長く続けたときの効果は調べられていない。研究者は、マインドフルネスや自分への思いやりの練習を4〜8週間続けるプログラムでは、長い期間の改善が報告されていると述べている。
- 「人と親密になるのを避けたい傾向が強い人ほど疲れが下がった」という結果は探索的な分析で、確かめ直す必要がある。
04 今日からできるセルフケア疲れたとき、その場で何をすればいい?
画面から目を離し、胸とお腹に手を当てて、手の重さと温かさを感じながら数回深く呼吸します。緊張する前なら20秒、時間があれば5分。前後の疲れを数字でつけて、自分に合うか確かめます。
胸とお腹に手を当てて、手の温かさを感じる
右手を胸に、左手をお腹に置き、目を閉じて深く息をします。考えがそれたら、手の重さと温かさに注意を戻します。実験ではこの形で、毎朝5分続けていました。
目安 1回5分、1日1回
会議や発表の前は、20秒だけ手を当てる
時間がないときは、手を当てて2〜3回深く呼吸するだけにします。緊張する課題の前にこれをした人は、課題のあとのストレスホルモンが低くなっていました。
目安 20秒、緊張する場面の前に
前と後で、疲れを10点満点でつける
実験では、練習の前後に今の状態を数字で答えていました。3日ほど記録して、下がらないようなら、目を閉じて深呼吸するだけの方法や別の方法に切り替えます。
目安 1回30秒、3日試す
人から触れられることの研究はハグやふれあいとストレスの記事に、目を閉じて行う方法はマインドフルネス瞑想の研究やゆっくりした呼吸の研究にまとめています。体の力が抜けないときは力を入れてから抜く筋弛緩法も試せます。
05よくある質問
胸に手を当てるだけで、本当に意味があるの?
オーストリアの大学生78人の実験では、胸とお腹に手を当てる5分の練習で、練習の直後にストレスと疲れが下がっていました。ただし効果の大きさは小さめで、目を閉じて深呼吸する短い瞑想と差はありませんでした。手を当てることだけの効果かどうかは、まだはっきりしません。
瞑想と、手を当てる方法はどちらがいい?
14日間の実験では、練習の直後に下がったストレス・疲れ・寂しさの大きさに、2つの方法で差はありませんでした。続けるうちに練習前の疲れが下がったのは手を当てる方法、日ごとに寂しさが下がったのは瞑想でした。続けやすいほうを選んでかまいません。
2週間続ければ、疲れやすさそのものが変わる?
この実験では、「この1か月のストレス」のように過去をふり返って答える質問票の点数は、2週間の練習のあとも、4週間後も変わっていませんでした。研究者は、14日間という短さが理由の一つと考えています。長く続けたときの効果はまだ調べられていません。
人に触れられるのが苦手でも、試していい?
実験では、人と親密になるのを避けたい傾向が強い人ほど、手を当てる方法で練習前の疲れが日ごとに下がりやすい結果でした。ただし日ごとの変化を見たこの分析は探索的なもので、確かな結論ではありません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Maier, F., Luttenberger, I., Dreisoerner, A., & Szaszkó, B. (2026). Self-Soothing Touch Reduces Momentary Stress, Fatigue, and Loneliness Comparable to Brief Meditation: A Randomised Controlled Trial. Stress and Health, 42(1), e70145. https://doi.org/10.1002/smi.70145
- Dreisoerner, A., Junker, N. M., Schlotz, W., Heimrich, J., Bloemeke, S., Ditzen, B., & van Dick, R. (2021). Self-soothing touch and being hugged reduce cortisol responses to stress: A randomized controlled trial on stress, physical touch, and social identity. Comprehensive Psychoneuroendocrinology, 8, 100091. https://doi.org/10.1016/j.cpnec.2021.100091
- Packheiser, J., Hartmann, H., Fredriksen, K., Gazzola, V., Keysers, C., & Michon, F. (2024). A systematic review and multivariate meta-analysis of the physical and mental health benefits of touch interventions. Nature Human Behaviour, 8, 1088–1107. https://doi.org/10.1038/s41562-024-01841-8


