「自分は周りより下のほう」と感じると、気分まで沈むのはなぜ?スウェーデンの働く人12,925人の研究では、自分で感じる社会の中の位置が上がった時期に、落ち込みの症状がわずかに少なかった

同期の昇進、友達の転職、AIを使いこなす後輩。ふと「自分は周りより下のほうにいる」と感じた日から、なんとなく気分が晴れない。そんな経験はめずらしくありません。研究では、この「自分で感じる位置」が、収入や学歴とは別に、気分や睡眠と結びついていることがわかってきました。スウェーデン、ドイツ、英国の研究から整理します。
3行でわかる
- スウェーデンの働く人12,925人の研究では、自分で感じる社会の中の位置が上がった時期に、落ち込みの症状がわずかに少なくなっていました。収入・学歴・職業をそろえても残る関係でした。
- ドイツの2,156人の研究では、「国全体の中での位置」の感覚が低い人ほど2年後の睡眠が短くなりやすく、「身の回りの中での位置」では関係が見られませんでした。
- 英国では「はしごのどこにいるか」という質問そのものに答えたくない人が多く、位置を測られること自体が負担になりうると報告されています。
01 結論から言うと「自分は下のほう」という感覚は、心に影響する?
影響しうると考えられています。スウェーデンの研究では、自分で感じる位置が1段上がると、落ち込みの症状がわずかに減っていました。ただし変化は小さく、若い男性では関係が見られませんでした。
研究で使われているのは「主観的な社会的地位」という考え方です。10段のはしごの絵を見せ、「いちばん上はお金・学歴・仕事に最も恵まれた人、いちばん下は最も恵まれない人。あなたはどの段にいますか」とたずねます。答えは、実際の収入や肩書きそのものではありません。人と比べて自分をどう位置づけているかの感覚です。
同期や友達の年収の「順位」と落ち込みの関係は 年収を比べて落ち込む理由の記事 にまとめています。この記事は、収入に限らない「自分はどのへんにいるか」という感覚を扱います。
02 研究とデータでわかっていること自分で感じる位置と、気分や睡眠の関係は?
スウェーデンの研究では、位置の感覚が上がった時期に落ち込みや睡眠の問題の症状がわずかに少なくなりました。ドイツの研究では、国全体の中での位置の感覚が低い人ほど、2年後に睡眠が短くなりやすい関係がありました。
Lindbergら(2026年) [1]
スウェーデンの働く人を代表するように選んだ追跡調査のデータで、同じ人の中で位置の感覚が変わったときに、症状がどう変わるかを調べました。収入・学歴・職業をそろえても、位置が1段上がると落ち込みの症状が、36〜50歳の女性と男性でそれぞれ0.04(標準偏差の単位)減っていました。21〜35歳の女性では、この関係が36〜50歳の女性より強く、21〜35歳の男性では関係が見られませんでした。睡眠の問題の症状は、36〜50歳で0.05〜0.06減っていました。
対象: 21〜50歳の働く人12,925人。はしごの平均は6.2〜6.4段 / 限界: 気分や睡眠の悪化が先に位置の感覚を下げた可能性は否定しきれず、すべて自己申告です。途中で回答をやめた人の偏りもあります。
Lindbergら(2026年)・位置の感覚が変わるきっかけ [1]
同じ研究で、位置の感覚の変化と最もよく結びついていたのは、この2年間の昇進と、職業の変化でした。36〜50歳では昇進した時期に位置の感覚が上がり、21〜35歳の女性と36〜50歳の男性では、技能の水準が低い職業に変わった時期に下がっていました。
対象: 同上 / 限界: 職業が変わった事情(自分で選んだのか等)はわかっていません。
EuteneuerとSüssenbach(2021年) [2]
ドイツ全国から選ばれた人に、2016年と2018年の2回たずねました。「ドイツ全体の中で自分はどの段か」の感覚が低い人ほど、2年後に睡眠が6時間未満になりやすい関係がありました。収入や学歴を一緒に分析しても、この関係は残りました。一方、「身の回りの人の中で自分はどの段か」の感覚では、関係は見られませんでした。
対象: 2,156人(2016年に睡眠が6時間未満だった人は13.5%) / 限界: 調べたのは自己申告の睡眠時間だけで、2回の調査の間隔は2年です。
Mossら(2023年)・研究ノート [3]
英国のブラッドフォードで、若者と一緒に調査票を作る話し合いの場で、はしごの質問を見せたところ、否定的な意見が相次ぎました。「ふだんから十分比べられているのに、はしごにまでのせなくていい」という声もあり、この質問は調査から外されました。同じ地域の妊婦1,861人の調査では、国の中での位置の質問に16%、近所の中での位置の質問に13.3%が「答えたくない」と答えていました。
対象: 若者の話し合いと、妊婦1,861人の回答 / 限界: 1つの地域の報告で、答えなかった理由を直接たずねてはいません。
03 まだわかっていないこと位置の感覚が下がると、落ち込みが起きると言い切れる?
言い切れません。スウェーデンの研究は同じ人の変化を追う方法で偏りを減らしていますが、気分の落ち込みが先に位置の感覚を下げた可能性は残ります。変化の大きさも小さく、日本の働く人で確かめた研究は今回の範囲では見つかりませんでした。
- ドイツの研究では、睡眠が短い人ほど2年後の位置の感覚が低くなる関係も、一部の分析で見られました。どちらが先かは、はっきりしていません。
- SNSやAIで他人の成果が目に入りやすくなったことが、この位置の感覚を変えているかは、調べられていません。
- 位置の感覚そのものを、練習や考え方で変えられるかを確かめた研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。
04 今日からできるセルフケア「自分は下のほう」と感じた日にできることは?
どのはしごで自分を測っているかに気づき、順位で表せない物差しを書き出します。昇進や職場の変化の時期は、睡眠と気分をいつもより気にかけます。どれも研究から考えた工夫で、効果を直接確かめたものではありません。
「どのはしごで測ったか」を一言メモする
落ち込んだときに「業界全体」「同期」「SNSで見た人」など、誰と比べて下だと感じたかを書きます。ドイツの研究では、国全体のはしごと身の回りのはしごで、睡眠との関係が違っていました。測る範囲によって、感じ方が変わることがあります。
目安 1回1分
順位で表せない物差しを3つ書き出す
「人にていねいに説明できる」「家族との時間を守っている」など、はしごにのらない大切なことを書きます。英国の報告では、位置を測られること自体を負担に感じる人が多くいました。大切にしていることを書く練習の研究は 「大切にしていること」を書く練習の記事 にあります。
目安 5分・週1回
職場の変化の時期は、寝た時間を記録する
昇進や異動、仕事内容が変わったときは、寝た時間と気分を1行ずつ書きます。スウェーデンの研究では、職業の変化が位置の感覚の変化と結びつき、36〜50歳では位置の感覚が睡眠の問題とも関わっていました。
目安 1日1分・変化の前後2週間
周りがみんな楽しそうに見えるときは つらいのは自分だけに見える理由の記事、SNSで上の人を見て落ち込むしくみは SNSで上の人と比べる記事 も参考になります。
05よくある質問
収入が同じでも「自分は下のほう」と感じると、落ち込みやすい?
スウェーデンの働く人12,925人の研究では、収入・学歴・職業をそろえて分析しても、自分で感じる社会の中の位置が上がった時期に、落ち込みの症状がわずかに少ない関係がありました。21〜35歳の男性では、この関係は見られませんでした。変化は小さく、原因と結果を完全に区別できたわけではありません。
身近な人と比べるのと、世の中全体と比べるのでは違う?
ドイツの2,156人を2年追った研究では、「国全体の中で自分はどのへんか」の感覚が低い人ほど、2年後に睡眠が6時間未満になりやすい関係がありました。「身の回りの人の中でどのへんか」の感覚では、この関係は見られませんでした。調べたのは睡眠時間だけです。
自分で感じる位置づけを上げるには、昇進するしかない?
スウェーデンの研究では、昇進や職業の変化が、位置づけの変化と最もよく結びついていました。グループによっては、結婚・同居や収入の増加も関わっていました。ただし、感じ方そのものを変える練習を確かめた研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Lindberg Y, Grönqvist E, Andersén Å, Rajaleid K, Kecklund G, Nyberg A (2026). Subjective social status and common mental disorders in the Swedish working population: gender and age differences in longitudinal associations. Scandinavian Journal of Public Health, 54(7), 760-768. https://doi.org/10.1177/14034948251380490
- Euteneuer F, Süssenbach P (2021). Longitudinal Reciprocal Relationships Between Subjective Social Status and Short Sleep Duration in a German Population-Based Sample. Nature and Science of Sleep, 13, 803-810. https://doi.org/10.2147/NSS.S301293
- Moss RH, Kelly B, Bird PK, Nutting HZ, Pickett KE (2023). Turning their backs on the 'ladder of success'? Unexpected responses to the MacArthur Scale of Subjective Social Status. Wellcome Open Research, 8, 11. https://doi.org/10.12688/wellcomeopenres.18655.2


