比べて落ち込む

同期や友達の年収を知って落ち込むのはなぜ?ドイツの働く人4,201人を5年追った研究では、気分の落ち込みと結びついていたのは収入の額より「似た人の中での順位」だった

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わかっている度 ★★☆ 中研究3本・公的指針0件を整理
硬貨の入った透明な容器
Photo: Billjones94 / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究と公的機関のデータ・指針をAIが調べて整理しました(商品の紹介や診断はしていません。出典は末尾)。

同期の転職先の年収や、友達の昇給の話を聞いたあと、なぜか一日じゅう気持ちが沈む。暮らしに困っているわけではないのに、と自分でも不思議になるかもしれません。研究では、気分の落ち込みと結びつきやすいのは、収入の額そのものより「自分と似た人の中で何番目か」という順位のほうだと考えられています。

3行でわかる

  1. ドイツの働く人4,201人を5年追った研究では、同じ性別・年代・職種の人の中で収入の順位が低い人ほど、収入の額を考えに入れても、5年後に気分や自己評価にかかわる落ち込みの症状が強い傾向がありました。
  2. 米国や日本の研究でも、収入の額より「似た人の中での順位」のほうが、落ち込みの症状とよく結びついていました。
  3. ただし、順位で説明できる部分は小さく、本人が実際に誰と比べていたかは調べられていません。順位は心の物差しの一つにすぎないと知っておくことが、落ち込みとの距離をとる手がかりになります。

01 結論から言うと年収を比べて落ち込むのは、よくあること?

研究からは、よくある心の動きだと考えられます。複数の国の研究で、収入の額より「似た人の中での順位」のほうが、気分の落ち込みと結びついていました。ただし関係の大きさは小さめです。

心理学では、人は自分と似た人と比べることで、自分の位置を確かめようとすると考えられてきました(社会的比較)。収入の研究では、この考えにもとづいて「同じ性別・年代・学歴や職種の人の中で、自分より収入が低い人が何割いるか」を計算し、それを「収入の順位」と呼んでいます。

同じ年収でも、周りが自分より多くもらっていれば順位は低くなります。同期や友達の年収を知ったときの落ち込みは、暮らし向きが変わったからではなく、この順位の感覚が下がったときの反応だと考えると、理解しやすくなります。SNSで見る同年代の活躍との比べ方はキャリアの焦りの記事でも整理しています。

02 研究とデータでわかっていること収入の額と順位、心に関わるのはどっち?

ドイツ・米国・日本の研究で、収入の額より順位のほうが落ち込みの症状とよく結びついていました。ドイツの研究では、順位から落ち込みへの向きの関係は見られ、落ち込みから順位への逆の向きは見られませんでした。

4,201人ドイツの働く人を2011/12年から5年後の2017年まで追った研究の対象者
約1.09倍日本の65歳以上8万3,100人の調査で、順位が1割下がるごとの落ち込みの傾向のオッズ(収入の額を考えに入れたあと、2010〜12年)
4〜12%米国と英国の中高年の研究で、落ち込みの症状のばらつきのうち順位で説明できた部分

Euteneuer ほか / ドイツ(2024年)[1]

ドイツの働く人を無作為に選んだ調査で、同じ性別・5歳ごとの年代・職種の技能レベルが同じ人を48のグループに分け、その中での世帯収入の順位を計算しました。順位が低い人ほど、5年後に「楽しめない」「気分が沈む」「自分に自信がない」などの気分や自己評価にかかわる落ち込みの症状が強い傾向があり、収入の額を一緒に分析しても、この関係は残りました。一方、だるさや睡眠などの体にかかわる症状と結びついていたのは、順位より収入の額のほうでした。落ち込みの症状が後の順位を下げるという逆の向きの関係は見られませんでした。

対象: ドイツの働く人4,201人(5年後に答えたのは2,481人) / 限界: 観察研究で、原因と結果を確かめたものではありません。ドイツは収入の格差が比較的小さく、ほかの国で同じ結果になるかはわからないと著者らは書いています。

Osafo Hounkpatin ほか / 英国マンチェスター大学ほか(2015年)[2]

1957年に米国ウィスコンシン州の高校を卒業した人から無作為に選んだ1万317人のデータで、収入の額、似た人の中での順位、平均との差のどれが落ち込みの症状をよく説明するかを比べました。現在と約10年後のどちらの落ち込みについても、順位だけを使った説明がいちばん当てはまりました。英国の50歳以上の人の資産でも、同じような結果でした。

対象: 米国の中高年(1992年と2003年ごろの調査)と英国の50歳以上 / 限界: 比べる相手は性別と学歴が同じ人と仮定したもので、同僚や友人など実際の相手は調べていません。順位で説明できたのは、落ち込みの症状のばらつきの4〜12%でした。

Gero ほか / 日本老年学的評価研究(2017年)[3]

日本の12の都道府県の31市町村に住む65歳以上の8万3,100人で、同じ性別・年齢層・市町村の人の中での収入の順位と、落ち込みの傾向(短い質問票で一定の点数以上)の関係を調べました。収入の額を考えに入れても、順位が1割下がるごとに、落ち込みの傾向がある人のオッズは男女とも約1.09倍でした。収入がいちばん多い4分の1のグループの中でも、順位との関係は見られました。

対象: 日本の65歳以上(2010〜2012年の調査) / 限界: 一度きりの調査で、因果の向きはわかりません。本人が実際に誰と比べているか、自分を恵まれていないと感じているかは調べていません。

03 まだわかっていないこと友達の年収を知ることは、心に悪い?

まだわかっていません。今回の研究は、本人が誰の収入を知っていたかを調べておらず、知ることで落ち込みが増えるかを確かめた研究ではありません。若い働く人や、SNSで年収を見る場面の研究も少ない段階です。

  • 3つの研究はどれも、比べる相手を「性別や年代が同じ人」と仮定して計算しています。同期や友達など、実際に比べている相手で同じ結果になるかはわかっていません。
  • ドイツの研究は1951〜1980年生まれの働く人、米国の研究は中高年、日本の研究は65歳以上が対象で、20〜30代の働く人での研究は今回見つかりませんでした。
  • SNSや転職サイトなどで他人の年収を目にする機会が増えたことが、心にどう関わるかを調べた研究は、今回見つかりませんでした。
  • 順位で説明できる落ち込みの部分は小さく、ほかにも多くの要因が関わっています。

04 今日からできるセルフケア年収を比べて落ち込んだら、どうする?

誰と比べたかに気づくこと、暮らしに必要な額と順位を分けて考えること、比べる物差しを前の自分に移すことが、研究から考えられる手がかりです。どれもお金をかけずにできます。

1

「誰と比べて落ち込んだか」を書き出す

研究では、人は性別・年代・仕事が似た人と比べやすいと考えられています。落ち込んだら、比べた相手と、何を比べたかを1行ずつメモします。相手を選んでいたことに気づくだけで、順位は一つの見方にすぎないと思い出しやすくなります。

目安 落ち込んだときに1〜2分

2

「暮らしに必要な額」と「順位」を分けて考える

ドイツの研究では、だるさや睡眠など体にかかわる症状と結びついていたのは額、気分の落ち込みと結びついていたのは順位でした。今の収入で困っていることがあるかを紙に書き、困りごとがなければ、沈んでいるのは順位の感覚だと区別します。

目安 1回5分

3

比べる相手を「1年前の自分」にしてみる

他人との順位は自分では動かしにくいものです。1年前と比べて増えた経験やできるようになったことを3つ書き出します(前の自分と比べる記事)。

目安 週1回5分

4

年収の話題を見る場所を少し減らす

年収のランキングや他人の年収の投稿をつい見てしまうなら、見る時間を決めるか、通知を切ります。SNSは、やめるより減らすほうが続けやすいと考えられています(SNSの比べ疲れの記事)。

目安 設定に5分

05よくある質問

年収が高ければ、比べて落ち込むことはない?

そうとは限りません。日本の65歳以上の8万人あまりの調査では、収入がいちばん多い4分の1のグループの中でも、似た人の中での順位が低いほど、落ち込みの傾向がある人が多い関係が見られました。額が多くても、比べる相手しだいで順位は低くなりえます。

友達の年収は聞かないほうがいい?

研究からは答えが出ていません。今回の研究はどれも、本人が実際に誰の年収を知っていたかは調べておらず、性別や年代が同じ人を比べる相手と仮定して計算しています。聞くかどうかより、聞いたあとに順位で自分を測りすぎていないかに気づくことが手がかりになります。

人と比べてしまうのは、心が弱いから?

そうではありません。研究者たちは、人は自分と似た人と比べて自分の位置を知ろうとするものだという考えを前提にしています。比べること自体は自然な心の働きで、問題になりやすいのは、順位だけで自分の価値を決めてしまうときです。

つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。

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出典

  1. Euteneuer, F., Salzmann, S., & Süssenbach, P. (2024). Income rank and depressive symptoms among employees in Germany − A 5-year cross-lagged panel analysis. International Journal of Clinical and Health Psychology, 24(3), 100485. https://doi.org/10.1016/j.ijchp.2024.100485
  2. Osafo Hounkpatin, H., Wood, A. M., Brown, G. D. A., & Dunn, G. (2015). Why does Income Relate to Depressive Symptoms? Testing the Income Rank Hypothesis Longitudinally. Social Indicators Research, 124(2), 637–655. https://doi.org/10.1007/s11205-014-0795-3
  3. Gero, K., Kondo, K., Kondo, N., Shirai, K., & Kawachi, I. (2017). Associations of relative deprivation and income rank with depressive symptoms among older adults in Japan. Social Science & Medicine, 189, 138–144. https://doi.org/10.1016/j.socscimed.2017.07.028