人と比べると、やる気が出る日と下がる日があるのはなぜ?中国の66人を対象にした2つの実験では、人に勝ったと知らされたあと「次も勝てそう」という感覚が上がり、その感覚を通して次の回の作業がわずかに増えていた

同僚の仕事ぶりを見て「自分もがんばろう」と思える日もあれば、同じ相手を見て何もしたくなくなる日もある。AIの出来ばえや、SNSで見かける人と比べるときも同じです。比べることがやる気を上げるのか下げるのかは、心理学で長く議論されてきました。最近の研究からは、その分かれ目がいくつか見えてきています。
3行でわかる
- 中国の66人を対象にした2つの実験では、人に勝ったと知らされたあとに「次も勝てそう」という感覚が上がり、その感覚を通して次の回の作業がわずかに増えていた。
- 米国・英国・アイルランドの402人の実験では、健康を「よくしたい」人は上の人と比べるとやる気が上がり、「保ちたい」人では下がっていた。
- 上の人と比べたほうががんばれるという先行研究もあり、結果は分かれている。比べたあとの「できそう」という感覚と、目標の種類が分かれ目になりうる。
01 結論から言うと比べてやる気が出たり下がったりするのはなぜ?
まだはっきりした答えは出ていません。研究からは、比べた結果で「自分にもできそう」という感覚が上がるか下がるかと、目標が「伸ばしたい」のか「今を保ちたい」のかで、やる気の向きが変わる可能性が示されています。
人は、自分の力を確かめる物差しがないとき、まわりの人と比べて判断しやすいと考えられています。自分より上に見える人と比べることを「上方比較」、下に見える人と比べることを「下方比較」と呼びます。
上の人を見ると「差を縮めたい」と力がわくこともあれば、「どうせ無理だ」と力が抜けることもあります。同じ比較でも、そのとき自分の中で何が動くかによって、やる気の向きが変わると考えられています。やる気が下がる日があっても、意志が弱いからとは限りません。
02 研究とデータでわかっていること比べたあと、心の中で何が変わる?
比べた結果によって、「次もできそう」という感覚や、今の自分をありがたく思う気持ちが動いていました。その変化が、次の行動ややる気の向きと結びついていました。
Dongら(2026年)[1]
参加者は、色の名前を答える集中のいる課題を、1回8〜12秒ほどの時間内でできるだけこなした。毎回のあとに、別の参加者より「良かった」「悪かった」と知らされ、ときどき「次の回に勝てる見込み」を0〜100で答えた。
勝ったと知らされたあとは、勝てる見込みの平均が64.41で、負けたと知らされたあとの57.76より高かった。1回目の実験では、勝ったと知らされた次の回の正答の数も、1秒あたり0.971回と0.961回でわずかに多かった。研究者は、比べた結果が「できそう」という感覚を動かし、その感覚を通して次の努力が変わったと分析している。
ただし、脳波も測った2回目の実験(34人)では、勝ち負けの知らせが次の回の作業量を直接変える効果ははっきりしなかった。「できそう」という感覚を通した間接的な結びつきは、2回の実験の両方で見られた。
対象: 中国・北京で集めた平均22歳ごろの参加者66人(実験1が32人、実験2が34人) / 限界: 人数が少なく、短い課題の実験室での結果。勝ち負けの知らせの多くは前もって決められた順番で、実際の相手との勝負ではない。報酬は成績に関係なく同じだった。
Eckerら(2026年)[2]
参加者は、自分より健康なご近所の人と、あまり健康でない人の話を読み、それぞれのあとでやる気と気持ちを答えた。健康のある面を「よくしたい」と考える組では、上の人と比べたあとのほうがやる気が高かった。一方、今の健康を「保ちたい」と考える組では、上の人と比べたあとのほうがやる気が低かった。
上の人と比べたあとは、今の健康をありがたく思う気持ちが7段階で平均4.02と、下の人と比べたあとの5.47より低かった。この気持ちの下がり方が、保つためのやる気の下がり方を説明していた。同じ論文の別の研究では、他人ではなく「もっと良くなった自分」と比べると、保つためのやる気が上がっていた。
対象: 米国・英国・アイルランドに住む25〜75歳の402人(研究1、2021年1月に調査) / 限界: 短い話を読んだ直後の答えで、その後の行動までは測っていない。研究者自身も、英語圏の人だけを対象にしている点を限界に挙げている。
Carraturoら(2023年)[3]
SNSでの人との比較、ねたみ、気分の落ち込みの関係を調べた9本の研究をまとめた。9本すべてで、比較・ねたみ・落ち込みは互いに結びついていた。紹介されている研究の一つでは、自分はできるという感覚によって、比べることと落ち込みの結びつきの強さが変わっていた。
時間の前後を確かめられた研究は9本中2本だけで、その2本では、落ち込みが先にあって、その後の比較やねたみを強めていた可能性が示されていた。比べるから落ち込むだけでなく、落ち込んでいるときほど比べやすい、という逆向きの関係もありうるということだ。
対象: 2012〜2022年に発表された9本の研究(うち7本はFacebookが対象) / 限界: ほとんどが一時点の調査で、どちらが原因かは決められない。研究の数も少ない。
なお、Dongらの論文が紹介している先行研究では、日々の出来事を記録する方法で、上の人と比べたあとに「伸びたい」気持ちが強まり、下の人と比べたあとには気がゆるみやすいと報告されていました。Dongらの実験とは逆の結果で、研究者は、自分で答えたやる気と、実際の行動の違いが理由かもしれないと考えています。
03 まだわかっていないこと上と比べるのと下と比べるの、どちらがいい?
まだ決まった答えはありません。上の人と比べるとがんばれるという研究と、勝ったあとのほうががんばれるという研究があり、結果は分かれています。どんな人に、どんな場面でどちらが合うのかも、これから確かめられる段階です。
- 上と比べるほうがやる気が出るのか、下と比べて「できそう」と思えるほうが努力につながるのかは、研究によって結果が分かれている。
- 紹介した実験は、短い課題や短い話を読んだ直後のもので、仕事や勉強を何週間も続けるやる気に同じことが言えるかはわからない。
- AIの出来ばえと比べる場合に、人と比べる場合と同じことが起きるかは、今回の研究では調べられていない。
- 日本の人を対象にした同じような研究は、今回見つけられなかった。
04 今日からできるセルフケア比べてやる気をなくしたとき、何ができる?
まず、いまの目標が「伸ばしたい」のか「保ちたい」のかを分けます。そのうえで、比べたあとに「自分にもできそう」と思える材料を一つ探したり、比べる相手を前の自分に変えたりすると、やる気の向きを整えやすくなります。
目標が「伸ばす」か「保つ」かを書き分ける
いま気になっていることを一つ選び、「もっと伸ばしたい」のか「今の状態を続けたい」のかを書きます。研究では、保ちたい目標のときは、上の人と比べるとやる気が下がっていました。保ちたい目標なら、上の人を見る時間を減らす判断もできます。
目安 3分
比べたあとに「できそう」な一歩を一つ探す
上の人を見て落ち込んだら、その人と自分の差ではなく、今日の自分にできる小さな一歩を一つだけ書きます。研究では、「次もできそう」という感覚が、次の努力と結びついていました。届きそうな大きさに分けるのがこつです。
目安 1〜2分
比べる相手を「前の自分」にしてみる
他人ではなく、1か月前や1年前の自分と比べて、できるようになったことを一つ書きます。研究では、もっと良くなった自分の姿と比べると、今を保つためのやる気が上がっていました。週に一度でも十分です。
目安 週1回・5分
比べて落ち込むのを日頃から減らしたいときは前の自分と比べる習慣を、SNSで上の人を見て落ち込むしくみは上の人と比べて落ち込むしくみで、落ち込んだ日に「上を見て頑張る」がどう働くかは上と比べる工夫の研究で読めます。
05よくある質問
上の人と比べるのは、やる気のためにはいいこと?
場合によります。健康を「よくしたい」人では、上の人と比べたあとのやる気が高くなっていました。一方で、今の状態を「保ちたい」人ではやる気が下がり、今の自分をありがたく思う気持ちも下がっていました。目標の種類で向きが変わると考えられています。
人に勝つと、気がゆるんでサボってしまう?
研究で結果が分かれています。日々の出来事を記録した先行研究では、下の人と比べたあとに気がゆるみやすいと報告されています。一方、中国の66人を対象にした2つの実験では、人に勝ったと知らされたあとに「次も勝てそう」という感覚が上がり、1回目の実験では次の回の作業もわずかに増えていました。
落ち込んでいるときほど人と比べてしまうのはなぜ?
はっきりした理由はまだわかっていません。SNSでの比較を調べた9本の研究のまとめでは、時間の前後を確かめられた2本で、落ち込みが先にあり、その後の比較やねたみを強めていた可能性が示されていました。ただし研究の数は少なく、慎重に見る必要があります。
比べるのをやめれば、やる気は保てる?
比べるのをやめる方法を確かめた研究は、今回見つけられませんでした。研究からは、比べた後に「自分にもできそう」と思えるか、今の自分の良さに目が向くかが、やる気の向きと関わっていました。比べる相手を「前の自分」にする方法もあります。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Dong, J., Rong, Y., Ma, S., Xu, Y., & Wei, P. (2026). The neurocomputational mechanisms underlying the impact of social comparison on effort investment. Communications Biology, 9, 984. https://doi.org/10.1038/s42003-026-10229-5
- Ecker, Y., Diel, K., Hofmann, W., Unkelbach, C., & Imhoff, R. (2026). The role of comparison processes in maintenance goals: Evidence from the health and relationship domains. Applied Psychology: Health and Well-Being, 18(2), e70133. https://doi.org/10.1111/aphw.70133
- Carraturo, F., Di Perna, T., Giannicola, V., Nacchia, M. A., Pepe, M., Muzii, B., Bottone, M., Sperandeo, R., Bochicchio, V., Maldonato, N. M., & Scandurra, C. (2023). Envy, Social Comparison, and Depression on Social Networking Sites: A Systematic Review. European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education, 13(2), 364-376. https://doi.org/10.3390/ejihpe13020027


