人と比べて落ち込んだことを、何日も思い返してしまう。少し離れた視点で振り返る方法は、25件の実験のまとめで小さな効果があった

同僚の活躍や、AIのほうが上手にできた場面を、寝る前に何度も思い出してしまう。比べて落ち込んだ気持ちが、何日たっても抜けない。そんなときに試しやすいのが、出来事を「少し離れた視点」から振り返る方法です。結論から言うと、25件の実験のまとめでは、離れた視点で振り返るほうが、自分の目線のまま振り返るより、小さいながら良い結果が出ていました。
3行でわかる
- つらい出来事を、外から眺めるように振り返る方法は、25件の実験(2,397人)のまとめで、当事者の目線のまま振り返る方法より小さな利点があった(効果量0.19)。
- 米国の実験では、つらい記憶を「私は」ではなく自分の名前で振り返ると、つらさの自己評価が下がっていた。
- スペインの約1,700人の調査では、SNSの利用時間と不安や落ち込みとの関連は、人と比べることや、くよくよ考え続けることが多い人ほど強かった。
01 結論から言うと比べて落ち込んだ気持ちを、引きずらない方法はある?
振り返り方を変える方法に、小さな効果が確かめられています。出来事を外から眺めるように振り返ると、自分の目線のまま振り返るより気持ちが整いやすい傾向がありました。ただし研究の質には不確かさが残ります。
比べて落ち込んだあと、その場面を何度も思い返すのは、多くの人に起きることです。思い返すこと自体が悪いわけではありません。研究で差が出たのは、どんな目線で振り返るかでした。
自分がその場にいるかのように、そのときの気持ちに入り込んで振り返る方法を「自分に没入した振り返り」と呼びます。これに対し、少し離れた場所から自分を眺めるように振り返る方法を「自分から距離をとった振り返り(セルフ・ディスタンシング)」と呼びます。
02 研究とデータでわかっていること距離をとった振り返りは、どのくらい効く?
25件の実験のまとめで、距離をとった振り返りには小〜中程度の利点がありました(効果量0.19)。名前で自分に問いかける実験でも、つらさの自己評価が下がっていました。
Murdochら(2023年)[1]
すでに経験したストレスやつらい出来事を振り返る実験を集め、25件(2,397人)をまとめました。距離をとった振り返りは、没入した振り返りに比べて小〜中程度の利点がありました(効果量0.19)。
対象: 18〜65歳の大人を対象にした25件の実験 / 限界: 著者らは、偏りの危険も含めた証拠の質から、この方法の利点にはまだ不確かさがあり、規模が大きく質の高い実験が必要だとしています。
Moserら(2017年)[2]
参加者は、前もって書き出しておいたつらい思い出を、「私」を主語にして気持ちを見つめる回と、自分の名前を主語にして見つめる回に分けて振り返りました。名前で振り返った回のほうが、直後のつらさの自己評価が低くなっていました(5段階で3.82と3.24)。
脳の働きを測ると、名前で振り返ったときは自分について考えるときに働く部位の活動が低く、気持ちを無理に抑えるときに働く部位の活動は増えていませんでした。著者らは、比較的少ない努力でできる気持ちの整え方かもしれないと述べています。
対象: 米国の若い成人50人(平均20歳、もう1つの実験は大学生29人) / 限界: 実験室での短い振り返りの結果で、日常生活で続けたときの効果は調べていません。
Castillo-Gualdaら(2026年)[3]
スペイン全国の16〜75歳の約1,700人を調べました。不安・落ち込み・怒りとSNSの利用時間との関連は、利用時間が長いことに加えて、人と比べることや、くよくよ考え続ける・最悪の事態ばかり考えるといった気持ちの扱い方が多い人ほど強くなっていました。
対象: スマートフォンを使うスペインの16〜75歳(2024年10月のオンライン調査) / 限界: 一時点の調査で、比べることやくよくよ考えることが落ち込みの原因だとは言えません。
まとめると、比べて落ち込むこと自体を止めるのは難しくても、そのあとの振り返り方は選べるということです。比べるきっかけになるSNSとの距離は「SNSで比べて落ち込むのを減らす」、自分を責めてしまうときは「自分への思いやり」の記事でも整理しています。
03 まだわかっていないこと日常で続けると、落ち込みは軽くなる?
まだわかっていません。研究の多くは実験室での短い振り返りを比べたもので、毎日続けたときや、比べて落ち込む場面に限った効果は確かめられていません。
- 人と比べて落ち込んだ出来事だけを対象に、距離をとった振り返りを試した研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。
- 25件のまとめでも、証拠の質には不確かさがあると評価されています。
- 名前で自分に問いかける方法は、主に米国の若い成人の短い実験の結果です。日本語や、ほかの年代でも同じかはわかっていません。
- 研究で比べたのは振り返り方の違いで、「思い出さないようにする」方法と比べたものではありません。
04 今日からできるセルフケア思い返してしまう夜に、何ができる?
振り返るときは自分の名前を主語にし、出来事を外から眺めるように見直します。比べるきっかけになる画面の時間も区切ります。どれも道具は要らず、数分で試せます。
「私は」ではなく、自分の名前で問いかける
「〇〇さんは、なぜ今こんなに落ち込んでいるんだろう」と、心の中で自分の名前を主語にして考えます。実験では、この言い方で振り返った回のほうが、つらさの自己評価が低くなっていました。
目安 1〜2分
その場面を、部屋の隅から眺めるように見直す
比べて落ち込んだ場面を、少し離れた場所にいる観察者として見直します。そのとき何が起きていたか、自分はなぜそう感じたかを、外から説明するつもりで考えます。同じ場面に入り込んで再生していると気づいたら、もう一度離れた位置に戻ります。
目安 5分
比べやすい画面を見る時間を、夜だけ区切る
寝る前の30分は、同僚や知人の近況が流れてくる画面を閉じます。調査では、利用時間が長く、比べることも多い人ほど、不安や落ち込みとの関連が強くなっていました。
目安 寝る前30分
イライラが収まらない場面で「第三者の目」を使う方法は、「AIの答えにイライラするとき」でも紹介しています。
05よくある質問
自分を名前で呼んで考えるのは、変じゃない?
声に出す必要はなく、心の中で使う方法です。米国の実験では、つらい記憶を自分の名前で振り返った回のほうが、つらさの自己評価が低くなっていました(5段階で3.82と3.24)。気持ちを無理に抑えるときに働く脳の部位の活動は増えておらず、少ない努力でできる方法かもしれないとされています。
比べて落ち込んだことは、思い出さないようにしたほうがいい?
研究で比べたのは、振り返り方の違いです。25件の実験のまとめでは、外から眺めるように振り返るほうが、当事者の目線で振り返るより小さな利点がありました。思い出さないようにする方法との比較は、今回の研究には含まれていません。
比べて落ち込むのは、SNSのせい?
SNSだけが原因とは言えません。スペインの約1,700人の調査では、SNSの利用時間と不安や落ち込みとの関連は、人と比べることや、くよくよ考え続けることが多い人ほど強くなっていました。一時点の調査なので、原因と結果の向きはわかっていません。
何日も気持ちが戻らないときは?
振り返り方の工夫で気持ちが軽くなる人もいますが、効果は小さく、誰にでも効くわけではありません。自信を取り戻す練習は「比べて落ち込む日が続いて、自信が戻らない」でも整理しています。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Murdoch EM, Chapman MT, Crane M, Gucciardi DF (2023). The effectiveness of self-distanced versus self-immersed reflections among adults: Systematic review and meta-analysis of experimental studies. Stress and Health, 39(2), 255-271. https://doi.org/10.1002/smi.3199
- Moser JS, Dougherty A, Mattson WI, Katz B, Moran TP, Guevarra D, Shablack H, Ayduk O, Jonides J, Berman MG, Kross E (2017). Third-person self-talk facilitates emotion regulation without engaging cognitive control: Converging evidence from ERP and fMRI. Scientific Reports, 7, 4519. https://doi.org/10.1038/s41598-017-04047-3
- Castillo-Gualda R, Rathje S, Ramos-Cejudo J (2026). Social comparison and maladaptive emotion regulation are associated with poorer mental health in social media users. Scientific Reports, 16, 9479. https://doi.org/10.1038/s41598-026-40371-3


