子どもが家を出て、寂しさが抜けない。タイの45歳以上を追った調査では、子どもが巣立ったあと前向きな気分はむしろ少し上がり、いやな気分は増えていなかった

進学や就職で子どもが家を出て、急に家が静かになった。食卓の準備も、帰りを待つ時間もなくなり、何をしていいかわからない。数か月たっても寂しさが抜けず、「子離れできない自分が情けない」と感じる人もいます。研究では、巣立ちのあとに気分が沈む人がいる一方、かえって気分がよくなる人もいることがわかってきました。違いを分けるものと、今日からできることをまとめます。
3行でわかる
- タイの45歳以上を2015〜2022年に追った調査では、子どもが家を出たあと、父親・母親とも前向きな気分が少し上がり、いやな気分は増えていなかった。
- 研究のまとめでは、巣立ちのあとに気分が沈む研究、よくなる研究、変わらない研究があり、結果は分かれている。「親の役割を失う」面と「子育ての負担が減る」面の両方があるため、と考えられている。
- 中国の65歳以上3,117人の調査では、子どもが会いに来る回数が多い人ほど、落ち込みの症状が少ない関連があった。新しい人間関係や活動も、つながりを支えるとされている。
01 結論から言うと子どもが巣立つと、親の心は沈むもの?
必ず沈むわけではありません。研究の結果は分かれていて、気分が沈む人もいれば、よくなる人もいます。タイの追跡調査では、平均すると前向きな気分は少し上がっていました。寂しさを感じるのは自然なことで、そこから立て直していく人も多くいます。
子どもが家を出たあとの時期は、研究では「空の巣(エンプティネスト)期」と呼ばれます。研究のまとめによると、この時期の心の変化には、2つの面があると考えられています。1つは、長く続けてきた親の役割がなくなり、自分らしさや毎日のリズムが揺らぐ面です。もう1つは、仕事と子育てを同時にこなす重い負担から解放され、自分の時間や人づきあいに力を回せるようになる面です。
どちらの面が強く出るかは、人によっても、文化によっても違います。寂しさが続いているなら、それは「失った役割」の面が強く出ている状態だと考えられます。
02 研究とデータでわかっていること巣立ちのあと、親の気持ちはどう変わる?
タイの追跡調査では、子どもが家を出たあと前向きな気分が少し上がり、女性では人生の満足度も上がっていました。研究のまとめでは、子どもとの行き来や、家の外の人間関係が、気持ちを支えるとされています。
Pengpidら(2026年)[1]
タイの全国調査で、子どもがいる45歳以上の人を2015年・2017年・2020年・2022年に調べ、同じ人の中で「子どもと同居していた時期」と「子どもが家を出たあと」を比べました。この間に子どもが家を出る経験をしたのは1,029人でした。
子どもが家を出たあと、前向きな気分の点数(0〜6点)は、男性で0.32点、女性で0.17点上がっていました。人生の満足度(0〜10点)は女性で0.12点上がり、男性でははっきりした変化がありませんでした。いやな気分の点数は、男女とも変わっていませんでした。どれも年齢、健康、仕事、暮らし向きなどの影響を差し引いたあとの結果です。
対象: タイの45〜107歳(平均68.7歳)の人、男性6,535件・女性8,521件の回答 / 限界: 同居をやめた時期の気持ちの変化を見たもので、因果関係の向きは断定できない。子どもとの連絡の頻度は分析に入っていない。家族のあり方が日本と違う。
Hartantoら(2024年)[2]
欧米とアジアの研究を整理したまとめです。巣立ちのあとに気分が沈む、孤独を感じるという研究がある一方、子どもと定期的に連絡を取っている場合などに気分がよくなる研究や、変化がないという研究もあり、結果は分かれていました。
この違いを、「親の役割を失う」面と「子育ての負担が減る」面の2つで説明しています。負担が減ると、時間と気力が空き、ボランティア、サークル、地域の行事、昔の友達とのつながり直しなど、新しい人間関係に向かいやすくなるとしています。一方で、子育てが自分らしさの中心だった人(伝統的な社会で、家で子育てを担ってきた母親など)ほど、役割を失う影響が大きくなりやすいとしています。
対象: 欧米とアジアの、巣立ち後の親の孤独と幸福感の研究 / 限界: 研究を理論的に整理したもので、数字をまとめて計算したものではない。
Wangら(2026年)[3]
中国の全国調査で、子どもと同居していない65歳以上の3,117人を調べました。子どもが会いに来る回数(「ほぼない」から「週1回以上」までの5段階)が多い人ほど、落ち込みの症状の点数が少なく、自分の健康を「よい」と答える人が多い関連がありました(年齢、性別、収入、持病の数などの影響を差し引いたあと)。会う回数が多い人ほど運動もよくしていて、その関連の一部は運動を通したものでした。
対象: 中国の65歳以上で子どもと別に暮らす3,117人(2020年の調査) / 限界: 1時点の調査のため、会う回数が多いから元気なのか、元気だから会えるのかは区別できない。電話やメッセージでの連絡は測っていない。
暮らしの大きな変化と孤独の研究は、定年退職と孤独の記事や、進学や転勤で人間関係が変わるときの記事にもまとめています。
03 まだわかっていないこと日本の親にも、同じ結果が当てはまる?
わかっていません。紹介した調査はタイと中国のもので、家族のあり方や親子の距離感が日本とは違います。研究のまとめも、文化によって巣立ちの受け止め方が変わるとしています。
- 日本の親を対象に、巣立ちの前後で同じ人の気持ちを追った研究は、今回の調査では見つからなかった。
- 寂しさがどのくらいの期間で和らぐのかは、調べられていない。
- 電話やビデオ通話、メッセージでの連絡が、会うことと同じように気持ちを支えるかはわからない。
- 巣立ちのあとの寂しさを和らげる方法を、くじ引きで比べて確かめた試験は、今回の調査では見つからなかった。
04 今日からできるセルフケア巣立ちのあとの寂しさから、どう立て直す?
寂しさを無理に消そうとせず、空いた時間と気力を、家の外のつながりに少しずつ向けます。子どもとは、互いに無理のない形で行き来を続けます。
寂しさを「役割が変わったしるし」と受け止める
研究では、巣立ちには「役割を失う」面と「負担が減る」面の両方があるとされています。寂しいのは、長く大切な役割を果たしてきたからです。自分を責めず、「いまは役割が変わる途中」と言葉にしてみます。
目安 寂しさを感じたときに1分
空いた時間の使い道を、1つ書き出す
子育てに使っていた時間を数え、その一部を何に使うかを決めます。研究のまとめが挙げていたのは、ボランティア、サークル、地域の行事、昔の友達とのつながり直しなどでした。
目安 週1回・新しい予定を1つ
子どもと会う予定を、無理のない間隔で決める
中国の調査では、子どもが会いに来る回数が多い人ほど落ち込みが少ない関連がありました。会う頻度を一方的に増やすのではなく、次に会う時期を相手と相談して決めておきます。
目安 月1回など、互いに続けられる間隔
孤独が長引いたときのつながり直し方は、グループ活動と孤独の記事や、昔の友達に連絡するときの記事にもまとめています。
05よくある質問
「空の巣症候群」は病気?
研究では、子どもが家を出たあとの時期を「空の巣(エンプティネスト)期」と呼び、暮らしの移り変わりの一つとして調べています。診断名として扱っている研究は、今回紹介したものの中にはありませんでした。
子どもに頻繁に連絡したら、迷惑では?
連絡の頻度と子どもの側の気持ちを調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。中国の調査は子どもが会いに来る回数を調べたもので、電話やメッセージは測っていません。頻度を一方的に増やすより、互いに無理のない形を話し合うのが現実的です。
父親と母親で、感じ方は違う?
タイの調査では、前向きな気分は父親・母親の両方で上がり、人生の満足度が上がったのは女性だけでした。研究のまとめでは、伝統的な社会で家で子育てを担ってきた母親のように、子育てが自分らしさの中心だった人ほど、役割を失う影響が大きくなりやすいとされています。
寂しさはいつまで続く?
寂しさが続く期間を調べた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。タイの調査は2015〜2022年に4回調べたもので、巣立ちのあと何か月で気分が戻るかまでは分析していません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Pengpid S, Peltzer K, Satitvipawee P, Kaewchankha W, Suanrueang P, Hajek A (2026). The Onset of Empty Nest Increases Subjective Well-Being Amongst Middle-Aged and Older Adults: Longitudinal National Evidence From Thailand, 2015–2022. Psychogeriatrics, 26(2), e70147. https://doi.org/10.1111/psyg.70147
- Hartanto A, Sim L, Lee D, Majeed NM, Yong JC (2024). Cultural contexts differentially shape parents’ loneliness and wellbeing during the empty nest period. Communications Psychology, 2, 105. https://doi.org/10.1038/s44271-024-00156-8
- Wang H, Jiang Y, Cui J (2026). Intergenerational contact frequency and health outcomes among empty-nest older adults in China: a mediation analysis through physical exercise. Scientific Reports, 16, 26748. https://doi.org/10.1038/s41598-026-57472-8


