仕事の負担が続いて、心がすり減る前に手を打ちたい。ドイツの働く人350人の試験では、乗り越えた場面を書きとめて見通しと自分へのやさしさを育てる8週間の練習で、ストレスの点数が下がり、3か月後も差が残っていた

AIの導入で仕事の進め方が変わり、覚えることも、求められる速さも増えていく。まだ倒れるほどではないけれど、このままだと心がすり減っていきそうだと感じることがあります。つらくなってから立て直すより、その手前でできることはあるのでしょうか。ドイツで行われた試験が、一つの手がかりを示していました。
3行でわかる
- ドイツの働く人350人の試験では、「乗り越えた場面」を毎日書きとめ、前向きな見通しや自分へのやさしさを育てる8週間の練習をした組で、ストレスの点数が待機した組より下がり、3か月後も差が残っていた。
- 効果の大部分は、先の見通しの明るさと、自分へのやさしさの変化を通じたものだった。自分の力への自信や、人の支えの感じ方を通じた効果は確かめられなかった。
- AIの不安そのものを扱った試験ではなく、練習した組でも、基準によって4.6〜10.9%の人はストレスが悪化していた。
01 結論から言うと心がすり減る前に、自分でできる備えはある?
あります。仕事の負担が大きい人を対象にした試験で、自分で進める8週間の練習がストレスを下げていました。ただし試験は1つで、AIの不安を直接扱ったものではありません。「試す価値のある備え」までが、今わかっていることです。
ここでいう練習は、特別な技術を覚えるものではありません。一日の中で、小さな壁を越えられた場面や、大変な中でもよかったことを書きとめる。それを読み返して、自分にはどんな力があるかを確かめていく、というものです。
研究チームがねらったのは、ストレスのもとをなくすことではなく、ストレスがある中でも心の健康を保ちやすくすることでした。AIで仕事が変わる流れは、一人では止められません。だからこそ、自分の側で手をつけられる備えとして読むことができます。
02 研究とデータでわかっていることこの練習で、ストレスはどのくらい下がった?
練習した組は、待機した組より、ストレスの点数(0〜40点)が8週間後に3.14点、3か月後に2.79点低くなっていました。効果の大きさは中くらいで、練習した組の中では6か月後まで下がった状態が保たれていました。
Hannibal ら(2026)[1]
働く人をくじ引きで、8週間の自習型の練習をする組と、順番を待つ組に分けました。練習の中心は、小さな壁を越えた場面や、大変な中でもよかった場面をスマホに書きとめ、毎日の振り返りで「自分でできた」「先の見通し」「自分へのやさしさ」「人の支え」の4つに分けることでした。週1回のウェブ講座では、その場面をもとに自分のイメージを言葉にし、日々の場面で試していきました。練習した組はストレスの点数が下がり、効果の大部分は、見通しの明るさと自分へのやさしさの変化を通じたものでした。
対象: ドイツの科学雑誌や健康保険の会報などで募った、18歳以上の働く人350人(平均42.8歳、女性65.7%)。9割近くが、努力に見合う報いを得られていないと感じる働き方をしていました / 限界: 自分から申し込んだ人が対象で、会社が用意した場合に同じ効果が出るかはわかりません。途中で回答をやめた人が23.4%いました。
Carrillo ら(2019)[2]
うまくいった未来の自分を思い描いて書く練習の効果を調べた、29件の研究(計2,909人)をまとめました。比べる組と比べて、幸福感と、先の見通しの明るさがどちらも少し高まっていました。気分の落ち込みへの効果は小さいものでした。
対象: 29件の研究(26本の論文)のまとめ / 限界: 働く人に限った研究ではなく、仕事のストレスへの効果を直接調べたものではありません。
Martinez ら(2026)[3]
大学生を、自分にやさしく考える組、好きな食事を楽しむなど自分にやさしい行動をする組、一日の活動を書き出すだけの組に分け、1週間に3回取り組んでもらいました。自分にやさしい行動をした組で、ふだんの自分へのやさしさの点数がほかの2組より高くなりました。ただし、幸福感や気分の落ち込みには、組の間ではっきりした差は出ませんでした。
対象: 米国カリフォルニア州の大学生739人(平均19.5歳) / 限界: 1週間と短く、研究チーム自身も、期待した効果の多くは見られなかったと書いています。
立ち直る力を育てる練習の研究をまとめた結果は「AIで仕事を失う不安が続いて、心が折れそう」、未来の自分を書く練習は「AIで仕事の先が見えず、将来を悲観しがち」で紹介しています。
03 まだわかっていないことAIの不安にも、同じように効くの?
まだわかっていません。試験の対象は仕事の負担を感じる人全般で、AIの導入や仕事を奪われる不安に絞った試験は見つかりませんでした。また、プログラムのどの部分が効いたのかも区別されていません。
- ウェブ講座とアプリを組み合わせたプログラム全体の効果で、「書きとめる」練習だけで同じ効果が出るかはわかりません。
- 比べた相手は順番を待つ組で、ほかのストレス対策と比べてどうかは調べられていません。待機した組には3か月後以降の比較もありません。
- 参加者はドイツで自分から申し込んだ人で、女性が多めでした。日本の職場で同じ効果が出るかは確かめられていません。
- 研究チームは、「立ち直れるはず」という前向きな言葉が、かえって自分を責める気持ちにつながるおそれにも触れています。悪化した人がいた理由は、まだわかっていません。
04 今日からできるセルフケア忙しい中で、何から始めればいい?
試験の練習の中心をまねて、乗り越えた場面を1日1つ書きとめることから始められます。週に一度読み返して、先の見通しと自分へのやさしさにつながる場面を拾い、自分にやさしい行動も予定に入れておきます。
「乗り越えた場面」を1日1つ書きとめる
新しいツールの使い方がわかった、締め切りを守れた、大変な日でも昼ごはんがおいしかった。小さなことで構いません。スマホのメモでも紙でもよいので、1行だけ書きます。
目安 毎日1分
週に一度、書いた場面を読み返して分けてみる
「自分でできた」「先に希望が持てた」「自分を責めずにいられた」「人に助けられた」のどれに近いかを分けます。試験では、見通しと自分へのやさしさの変化が効果の大部分を説明していました。
目安 週1回、5〜10分
自分にやさしい行動を、週に3回入れる
好きなものを食べる、早めに休むなど、自分をいたわる行動を前もって予定に入れます。米国の大学生の実験では、考えるより行動するほうが、自分へのやさしさの点数が上がっていました。
目安 週3回
うまくいった先の自分を、ときどき書いてみる
半年後や1年後、仕事がうまく回っている自分の様子を具体的に書きます。29件の研究のまとめでは、この練習で先の見通しの明るさが少し高まっていました。
目安 月に数回、10分ほど
体の動きと心の状態を記録した日本の試験は「仕事やAIの先行きで、心がじわじわすり減りそう」で紹介しています。
05よくある質問
専用のアプリがないとできませんか?
試験で使われたのは、ウェブの講座とスマホのアプリを組み合わせた研究用のプログラムで、アプリはすでに配信が終わっています。中心の練習である「乗り越えた場面を書きとめる」ことは紙のメモでもできますが、紙で行った場合の効果は確かめられていません。
忙しくて全部やりきれなくても、意味はありますか?
試験では、6回あるウェブ講座のうち、参加者が終えたのは平均2.2回でした。それでも練習した組は、待機した組よりストレスの点数が下がっていました。ただ、どの部分が効いたのかまでは、この試験からはわかりません。
こうした練習で、かえってつらくなることはありますか?
あります。練習した組でも、4.6〜10.9%の人はストレスの点数が悪化していました。研究チームは、「立ち直らなければ」という思いが、うまくいかないときの自分責めにつながるおそれにも触れています。できない日があっても、練習をやめてかまいません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Hannibal, S., Behrendt, D., Wessa, M., Schäfer, S. K., Dalkner, N., & Lehr, D. (2026). Effectiveness of and Mechanisms of Change in a Self-Help Web- and App-Based Resilience Intervention on Perceived Stress in the General Working Population: Randomized Controlled Trial. Journal of Medical Internet Research, 28, e78335. https://doi.org/10.2196/78335
- Carrillo, A., Rubio-Aparicio, M., Molinari, G., Enrique, Á., Sánchez-Meca, J., & Baños, R. M. (2019). Effects of the Best Possible Self intervention: A systematic review and meta-analysis. PLoS ONE, 14(9), e0222386. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0222386
- Martinez, R. L., Regan, A., & Lyubomirsky, S. (2026). Pathways to Self-Compassion: The Effects of Self-Kind Behaviors and Self-Kind Thoughts on Self-Compassion and Well-Being. Affective Science, 7(3), 447–463. https://doi.org/10.1007/s42761-026-00379-4


