仕事とAIの不安

職場のいじめやパワハラのあと、心のつらさが抜けない。日本の市職員2,036人の1年の追跡では、1年後のつらさをいちばん強く予測していたのは、いま感じているつらさの強さだった

約8分で読めます

わかっている度 ★★☆ 中研究3本・公的指針0件を整理
雪の積もった森の小道
Photo: Oliksiy Yakovlyev / CC0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究と公的機関のデータ・指針をAIが調べて整理しました(商品の紹介や診断はしていません。出典は末尾)。

職場でのいじめやパワハラが終わったのに、思い出すと胸が苦しくなる。仕事に向かう気力が戻らない。そんな自分を「いつまで引きずるのか」と責めていませんか。研究では、職場のいじめを受けた経験は、時間をおいたあとの心の不調とも関連していました。そして、1年後のつらさをいちばん強く予測していたのは、いま感じているつらさの強さでした。

3行でわかる

  1. 22の集団・5万4千人あまりの追跡研究のまとめでは、職場のいじめを受けた経験は、平均28か月ほどあとの心の不調と関連していた。
  2. 東京近郊の市の職員2,036人を1年追った研究では、1年後のつらさを最も強く予測していたのは、最初の時点のつらさの強さだった。人に助けを求める・見方を変える対処の人ほど1年後のつらさは低めで、避ける対処の人ほど高めだった。
  3. 研究の著者は、立ち直る力が高い人でも、いじめを受けると1年後のつらさが高くなると述べている。つらさが続くのは弱さではなく、早めに手当てをしてよいサインと言える。

01 結論から言うとパワハラのつらさが長引くのは、おかしいこと?

おかしいことではありません。職場のいじめは、時間をおいたあとの心の不調とも関連していました。日本の追跡研究では、いまのつらさの強さが1年後のつらさを最も強く予測しており、放っておかず早めに手当てすることが大切だと考えられます。

ここでいう「職場のいじめ」は、研究では、仕事に必要な情報を回さない、仕事ぶりをしつこく責める、といった嫌な行為をくり返し受けることを指します。日本で「パワハラ」と呼ばれる行為の多くが、ここに入ります。

こうした経験のあと、すぐに元気に戻れないのは自然なことです。日本の研究の著者は、立ち直る力が高い人でも、いじめを受けると、受けていない人より1年後のつらさが高くなると述べています。つらさが続くのは、心が弱いからではありません。

02 研究とデータでわかっていること職場のいじめのつらさは、どれくらい続く?

追跡研究のまとめでは、いじめの経験と、平均28か月ほどあとの心の不調に関連がありました。ドイツの5年の追跡でも、同僚からの頻繁ないじめは5年後の抑うつ症状と結びついていました。人に助けを求める対処は、1年後のつらさの低さと関連していました。

5万4千人職場のいじめと、その後の心の不調を追った研究のまとめの人数(22の集団、2015年発表)
2,036人東京近郊の市の職員を1年追った日本の研究の人数(20〜60代以上、2022年発表)
2.50倍ドイツの31〜60歳2,172人で、同僚から週1回以上いじめを受けた人が5年後に抑うつ症状がある人のオッズの比

Verkuil ら(ライデン大学、2015)[1]

職場のいじめと心の健康を調べた研究をまとめました。時間をおいて2回調べた研究(22の集団、合わせて54,450人、2回の間は平均28か月)では、最初にいじめを受けていた人ほど、あとの心の不調が多い関連がありました(相関係数0.21)。とくに抑うつとの関連が目立ちました(0.36)。逆に、最初に心の不調があった人ほど、あとでいじめを受けやすいという関連もありました(0.18)。

対象: 働く人を調べた研究のまとめ(全体で70の集団・約17万人、うち時間をおいて追ったのは22の集団) / 限界: どの研究も本人の回答で、子どもの頃の経験などほかの要因の影響は除ききれていないと著者が書いています。研究ごとの結果のばらつきも大きくなっていました。

Tsuno(2022)[2]

東京近郊のある市の職員を1年あけて2回調べました。いじめを多く受けていた人ほど、1年後の心のつらさが高くなっていました。ただし、最初の時点のつらさを考えに入れると、いじめの影響は見えなくなり、最初のつらさが1年後のつらさを最も強く予測していました。対処の仕方では、人に助けを求める・見方を変える人ほど1年後のつらさが低く、問題を避けて我慢する人ほど高くなっていました。上司や同僚、家族の支えが、いじめの影響を和らげるという結果は出ませんでした。

対象: 東京近郊の市の職員2,036人(平均42.8歳、男性1,142人) / 限界: 1つの市の公務員だけの研究で、民間企業の人に当てはまるかはわかりません。対処の仕方は、いじめを受けた人だけでなく職員全体での関連です。

Lange ら(ドイツ連邦労働安全衛生研究所ほか、2020)[3]

ドイツ全国の働く人を2011〜2012年から2017年まで追いました。最初の時点の抑うつ症状を考えに入れても、同僚から週1回以上いじめを受けていた人は、5年後に抑うつ症状がある人のオッズが2.50倍でした。上司からの頻繁ないじめは、統計的にはっきりした差が出ませんでした。

対象: ドイツの31〜60歳の働く人2,172人 / 限界: 観察研究で、いじめが抑うつの原因だと断定はできません。上司からのいじめで差が出なかった理由は、この研究ではわかっていません。

03 まだわかっていないことどうすれば、早く立ち直れる?

いじめを受けたあとの回復を早める方法は、まだはっきりしていません。紹介した研究は、どんな人のつらさが続きやすいかを追った観察研究で、特定の方法を試した実験ではありません。

  • 人に助けを求める対処と1年後のつらさの低さは関連していましたが、助けを求めたからつらさが下がったのかは確かめられていません。
  • いじめを受けた職場を離れたあと、どのくらいで回復するかを追った研究は、今回は見つかりませんでした。
  • 日本の研究は1つの市の公務員だけで、民間企業や、AIの導入で仕事の進め方が変わった職場を調べた研究は見当たりませんでした。

04 今日からできるセルフケアパワハラのつらさが抜けないとき、何から始める?

一人で抱え込まず、誰かに話すことから始められます。研究で1年後のつらさの低さと関連していたのは、人に助けを求める・見方を変える対処でした。いまのつらさが強いほど、早めに手当てする価値があります。

1

信頼できる人か相談窓口に、1回だけ話してみる

家族や友人、職場の外の人、社内外の相談窓口など、話しやすい相手を1人選びます。研究では、人に助けを求める対処の人ほど、1年後のつらさが低くなっていました。全部を話せなくてもかまいません。

目安 今週中に1回、10分

2

「自分が悪かった」以外の見方を、1つ書き出す

「あの言い方は相手の問題でもあった」「同じ立場なら誰でもつらい」など、別の見方を1行だけ書きます。研究で関連していた「見方を変える」対処を、小さく試す工夫です。

目安 1日1回、3分

3

つらさを週1回、10点満点で記録する

いまのつらさの強さが、1年後のつらさを最も強く予測していました。週ごとの点数を残しておくと、下がっているのか、続いているのかがわかり、人に相談するときにも伝えやすくなります。研究から考えた工夫です。

目安 週1回、1分

自分を責める気持ちが強いときは「転職活動で不採用が続いて、自分を責めてしまう」、仕事の自信を取り戻したいときは「AIが広がってから、仕事の自信をなくしたまま戻らない」も参考になります。不安を抱えたまま動く方法は「AIの不安が消えるのを待っていたら、何も手につかない」で紹介しています。

05よくある質問

パワハラを受けた職場を離れれば、つらさは消えますか?

この記事で紹介した研究では、職場を離れたあとの回復までは調べていません。日本の2,036人の追跡では、いま感じているつらさの強さが1年後のつらさを最も強く予測していました。離れたあとも続くつらさは、早めに人に話したり相談したりする価値があります。

いじめられたのは、自分が弱いからでしょうか?

そうとは言えません。日本の研究の著者は、立ち直る力(レジリエンス)が高い人でも、いじめを受けると、受けていない人より1年後のつらさが高くなると述べています。強さに関係なく、いじめは心に影響する出来事です。

上司からと同僚からとで、心への影響は違いますか?

ドイツの2,172人の5年の追跡では、同僚から週1回以上いじめを受けた人で、5年後に抑うつ症状がある人のオッズが2.50倍でした。上司からの場合は統計的にはっきりした差が出ませんでした。1つの研究の結果で、上司からなら影響が小さいとは言えません。

つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。

無料ツール
セルフチェックで「今日やること」をまとめる
当てはまる悩みを選ぶだけ。診断はせず、記事の対策を一覧にします。
研究早見表でほかの悩み337件も見る

出典

  1. Verkuil, B., Atasayi, S., & Molendijk, M. L. (2015). Workplace Bullying and Mental Health: A Meta-Analysis on Cross-Sectional and Longitudinal Data. PLoS ONE, 10(8), e0135225. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0135225
  2. Tsuno, K. (2022). Do personal resilience, coping styles, and social support prevent future psychological distress when experiencing workplace bullying? Evidence from a 1-year prospective study. BMC Psychology. https://doi.org/10.1186/s40359-022-00991-6
  3. Lange, S., Burr, H., Rose, U., & Conway, P. M. (2020). Workplace bullying and depressive symptoms among employees in Germany: prospective associations regarding severity and the role of the perpetrator. International Archives of Occupational and Environmental Health. https://doi.org/10.1007/s00420-019-01492-7