人と比べて落ち込み、そのことばかり考えてしまう。気をそらすのは逃げ?米国の大学生などの5つの実験(計1,950人)では、8分ほかのことを考えた組で、自分について考え続けた組よりいやな気分が少し小さかった

同期の昇進や友達の近況を見て落ち込んだあと、「なぜ自分は」と頭の中で考え続けてしまう。そんなとき、別のことで気をそらすのは、問題から逃げているようで後ろめたく感じるかもしれません。研究では、その場で注意を別のことに向けるのは、いやな気分を少し小さくする方法の一つでした。
3行でわかる
- 米国の大学生などの5つの実験(計1,950人)では、8分間ほかのことを考えた組で、自分について考え続けた組より、いやな気分が少し小さくなった。
- 感謝を思い浮かべた組も、いやな気分の下がり方は同じくらいで、うれしい気持ちも増えていた。
- どちらも効果は小さく、比べたあとの落ち込みで直接確かめた実験ではない。押さえ込むのとは別の方法として使う。
01 結論から言うと比べて落ち込んだとき、気をそらすのは逃げ?
逃げではなく、その場の対処として研究で支持されている方法の一つです。米国の研究チームの5つの実験では、短い時間ほかのことを考えた人で、自分のことを考え続けた人より、いやな気分が少し小さくなりました。
人と比べて落ち込んだあと、頭の中で同じことを何度も考えることを、心理学では「反すう(考え込み)」と呼びます。考え込むほど答えが出そうに感じますが、気分が沈んでいるときの考え込みは、かえって気分を長引かせやすいと考えられています。
反すうの研究を整理したレビューでは、楽しめる別のことで気をそらすと落ち込んだ気分が和らぐことを、何十もの実験が示していると書かれています[4]。ただし同じレビューは、日常の調査では、気をそらす人ほど落ち込みが少ないという結果は一貫していないとも書いています。
つまり、気をそらすのは「その場で気分を落ち着かせる」ための方法です。比べた気持ちに向き合うのは、気分が少し落ち着いてからでも遅くありません。
02 研究とデータでわかっていること8分の「気をそらす」で、気分はどれくらい変わった?
米国の大学生とネットで集めた大人、合わせて1,950人の5つの実験で、ほかのことを考えた組と感謝を思い浮かべた組は、自分について考え続けた組より、いやな気分が少し小さくなりました。
Layous ら(2023)[1]
参加者は3つの組に分けられ、8分間、画面の45個の文に沿って考えました。1つめは「自分の性格や、目指す自分について」など自分の気持ちや性格を考え続ける組、2つめは「大きな黒い傘の形について」のように自分と関係のないことを考える組、3つめは「あなたを大切に思ってくれる人たちについて」のように感謝を思い浮かべる組です。5つの実験をまとめると、ほかのことを考えた組と感謝を思い浮かべた組では、自分について考え続けた組より、悲しい気分やいやな気分が少し小さくなりました。もともと落ち込みの質問票の点数が高い人ほど、考え続けた組とほかのことを考えた組の差が大きくなっていました。
対象: 米国カリフォルニア州の大学の学生(3つの実験)と、ネットの調査会社などで集めた大人(2つの実験、国は論文に明記なし)、合わせて1,950人 / 限界: 効果の大きさは相関で0.1前後と小さい。考え続ける組の文は、落ち込むことを考えるよう指示したものではない。人と比べたあとの気分で確かめた実験ではない。
気をそらすのと感謝を思い浮かべるのとでは、違いもありました。いやな気分を小さくする効果は2つの方法で同じくらいでしたが、うれしい気持ちが増えたのは感謝を思い浮かべた組だけでした。たとえば1つめの実験では、うれしい気持ちの点数(7段階)が、感謝の組で3.49から3.98に上がり、ほかのことを考えた組では3.99から3.65に下がっていました。
効果の続き方も調べられています。2回目の測定をした1つの実験では、ほかのことを考えた組のいやな気分の低さが1週間後も見られましたが、感謝の効果は1週間は続きませんでした。この実験は途中でやめた人や注意の問題があったと、著者らは書いています。
Xu と Li(2024)[2]
中国の大学生463人の調査では、自分より上の人と比べやすい人ほど考え込みが多く(相関0.31)、考え込みが多い人ほど人前での不安が強い(相関0.47)という関連がありました。比べることと人前での不安の結びつきの一部を、考え込みがつないでいると分析されています。
対象: 中国の大学生463人 / 限界: 一時点の質問票調査で、比べることが考え込みの原因だとまでは言えない。
Carraturo ら(2023)[3]
SNSでの比較、ねたみ、落ち込みの関係を調べた9本の研究を整理したレビューでは、すべての研究でこの3つに関連がありました。向きを確かめられた2本の研究では、もともとの落ち込みが、のちの比較やねたみを予測していました。
対象: 2012〜2022年に発表された9本の研究 / 限界: 研究の数が少なく、多くは一時点の調査。
この2つの研究からは、比べて落ち込んだあとの考え込みが気分の悪い流れにつながりやすいこと、すでに気分が沈んでいるときほど比べたことに引きずられやすいことがうかがえます。その流れをいったん止める方法として、気をそらすことが役に立つ可能性があります。
03 まだわかっていないこと比べた落ち込みにも、同じように効くかはわかっている?
まだわかっていません。気をそらす実験は、人と比べたあとの気分で直接確かめたものではなく、効果も小さく、長く続くかもはっきりしていません。
- これらの5つの実験は、人と比べる場面をつくって確かめたものではありません。比べたあとの落ち込みに同じように効くかは、研究がまだ少ない状態です。
- 効果の大きさは小さく、効果が1週間続くかを調べたのは1つの実験だけでした。
- 気分はすべて本人の答える質問票で測られています。落ち込みの点数も、専門家が確かめたものではありません。
- 日常の調査では、気をそらす人ほど落ち込みが少ないとは限らない、という結果もあります。気をそらすだけで比べるくせそのものが減るかは、わかっていません。
04 今日からできるセルフケア比べて考え込みが止まらないとき、何をすればいい?
比べた画面を閉じ、自分と関係のないものに8分ほど注意を向けます。少し落ち着いたら、大切に思ってくれる人を思い浮かべます。押さえ込もうとはしません。
自分と関係のないものを、じっくり思い浮かべる
比べたSNSや資料を閉じ、窓の外の雲の形、机の上の道具、近くの駅の様子など、自分の評価と関係のないものを細かく思い浮かべます。実験の「大きな黒い傘の形」のような、具体的な物がやりやすい題材です。
目安 8分
「考えるな」と押さえ込まず、注意の行き先を変える
比べたことが頭に戻ってきたら、追い払おうとせず、また思い浮かべていた物に注意を戻します。押さえ込むと考えが戻りやすいことは、考えの押さえ込みの研究で知られています。
目安 戻ってきたら、そのつど1回
落ち着いたら、大切に思ってくれる人を思い浮かべる
気分が少し落ち着いたら、自分を大切にしてくれる人や、助けてもらったことを2〜3個思い浮かべます。実験では、いやな気分が小さくなるだけでなく、うれしい気持ちも増えていました。
目安 3〜5分
何日も同じ比較を思い返してしまうときは少し離れた視点で振り返る方法を、感謝を習慣にしたいときは感謝を書き出す習慣の研究を、思い出で気分を戻したいときは楽しかった思い出の研究を読めます。
05よくある質問
人と比べて落ち込んだとき、気をそらすのは逃げ?
研究からは、その場の対処として理にかなっています。米国の大学生などが参加した5つの実験(計1,950人)では、8分間ほかのことを考えた組は、自分の性格や気持ちについて考え続けた組より、いやな気分が少し小さくなりました。ただし効果は小さく、比べたあとの落ち込みで直接確かめた実験ではありません。
気をそらすのと、考えないようにするのは同じ?
違います。実験の「気をそらす」は、傘の形のような別のことに注意を向ける方法でした。「比べたことを考えるな」と押さえ込むのとは別で、押さえ込みはかえって考えが戻りやすいことが実験のまとめで知られています。
気をそらすのと、感謝を思い浮かべるのはどちらがいい?
いやな気分を小さくする効果は、5つの実験のまとめで同じくらいでした。うれしい気持ちが増えたのは感謝を思い浮かべた組だけでした。ほかのことを考えた組では、うれしい気持ちは増えず、下がった実験もありました。
比べたことを考え続けると、何がよくないの?
中国の大学生463人の調査では、自分より上の人と比べやすい人ほど考え込みが多く、考え込みを通して人前での不安が強いという関連がありました。調査は一時点のもので、比べることが考え込みの原因だとまでは言えません。
つらい状態が2週間以上続くときや、日常生活に支障があるときは、医療機関や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などの相談窓口に相談できます。
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出典
- Layous K, Kumar SA, Arendtson M, Najera A (2023). The effects of rumination, distraction, and gratitude on positive and negative affect. Journal of Personality and Social Psychology, 124(5), 1053-1078. https://doi.org/10.1037/pspp0000440
- Xu L, Li L (2024). Upward social comparison and social anxiety among Chinese college students: a chain-mediation model of relative deprivation and rumination. Frontiers in Psychology, 15. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1430539
- Carraturo F, Di Perna T, Giannicola V, et al. (2023). Envy, Social Comparison, and Depression on Social Networking Sites: A Systematic Review. European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education, 13(2), 364-376. https://doi.org/10.3390/ejihpe13020027
- Nolen-Hoeksema S, Wisco BE, Lyubomirsky S (2008). Rethinking Rumination. Perspectives on Psychological Science, 3(5), 400-424. https://doi.org/10.1111/j.1745-6924.2008.00088.x


