何もしない時間が落ち着かず、すぐスマホに手が伸びるのはなぜ?米国の実験では、ただ考えるだけの6〜15分に約9割が「心がさまよった」と答えたが、ドイツの追試では終わったあとの気分ははっきり下がっていなかった

電車を待つ数分、レジの列、エレベーターの中。何もしない時間になると、ついスマホに手が伸びてしまう人は多いはずです。それは意志が弱いからではありません。ただ考えるだけの時間は、研究でも多くの人が「集中しにくい」「心がさまよう」と答えていました。一方で、終わったあとに気分が悪くなっていたわけではありませんでした。
3行でわかる
- 米国の実験では、6〜15分ひとりで考えるだけの時間に、89.0%が「心がさまよった」と答え、自宅で試した学生の32%は途中でスマホなどに手を出していた。
- 同じ研究で、痛い電気ショックを自分で押せる15分では、男性の67%・女性の25%が押していた。ただ、データを見直した研究者は「多くの人はまあまあ楽しんでいた」と反論している。
- ドイツの4つの追試(254人)では、ボタンを押した理由は退屈よりも好奇心に近いと考えられ、最初の2つの実験では考える時間の前後で気分に有意な差はなかった。何もしない時間は、落ち着かないが、つらい時間とは限らない。
01 結論から言うと何もしない時間が落ち着かないのはなぜ?
何もせずに考えるだけの時間は、多くの人にとって集中しにくく、退屈に感じやすいことが実験でわかっています。スマホに手が伸びるのは、その落ち着かなさを手軽に埋められるからだと考えられます。
何もしないで考える、というのは意外と難しい作業です。何を考えるかを自分で決めて、その考えを続ける必要があるからです。研究者は、これを「脚本を書きながら、同時にその場面を味わう」ようなものだと説明しています。
ただし、「ただ考えるのは苦痛だ」とまでは言い切れません。同じデータを見直すと、多くの人は「まあまあ楽しく、まあまあ退屈」と答えていました。追試でも、考える時間の前後で気分ははっきり下がっていませんでした。
02 研究とデータでわかっていることただ考えるだけの時間に、人は何をした?
米国の11の実験では、スマホを預けて6〜15分考えるだけの時間に、多くの人が集中しにくさや心のさまよいを感じていました。電気ショックのボタンを押す人もいましたが、ドイツの追試では理由は好奇心に近いものでした。
Wilson ら(2014)[1]
スマホや筆記用具を預け、何もない部屋で6〜15分「自分の考えで楽しく過ごしてください」と頼む実験を、11回行いました。実験室での6つの研究(146人)では、57.5%が集中しにくかったと答え、89.0%が心がさまよったと答えました。楽しさが中間点以下だった人は49.3%でした。自宅で試すと、32%が途中でスマホや音楽に手を出したり席を立ったりしていました。本を読む・音楽を聴くなどの組のほうが、考えるだけの組より楽しんでいました。考える内容を前もって決めさせても、楽しさは変わりませんでした。
別の実験では、15分の考える時間に、前もって体験した電気ショックを自分で受けられるようにしました。「お金を払ってでも避けたい」と答えていた人のうち、男性の67%(18人中12人)、女性の25%(24人中6人)が、少なくとも1回は自分でショックを受けていました。18〜77歳の地域の人を集めた実験でも結果は似ていて、楽しさは年齢やスマホ・SNSを使う頻度とは関係が見られませんでした。
対象: 主に米国の大学生と、18〜77歳の地域の人 / 限界: 6〜15分の短い実験で、多くは実験室で行われました。ショックの実験は42人と少数です。
Fox ら(2014)[2]
上の研究の公開データを見直した論評です。1〜7番目の研究の190人では、9段階の点数の平均が、楽しさ5.21、面白さ4.24、退屈さ4.60でした。この尺度の中間は「まあまあ楽しい」「まあまあ面白い」「まあまあ退屈」にあたります。著者らは、多くの人は「まあまあ楽しく、まあまあ退屈」に過ごしていたと指摘しました。ショックの実験でも、42人の多くは自分でショックを受けていませんでした。また、楽しさは人によって大きくばらついていました。
対象: Wilson らの研究の参加者のデータ / 限界: 新しい実験ではなく、同じデータの読み方についての論評です。元の研究者は別の論文で反論しています。
Eder ら(2022)[3]
ドイツの研究チームが、電気ショックの実験を4回やり直しました。15分の考える時間に、自分でショックを押した人は63〜89%で、元の研究より多くなりました。ただ、弱いショックやショックの出ないボタンを選べるときでも、強いショックを押す人が多くいました。楽しいことを考える手助けをしても、押す人はいました。そのため著者らは、「考えるのがいやで逃げた」というより、ショックがどんな感じか確かめたい好奇心が大きかったと考えています。押した時刻を記録した2つの実験では、押す回数は待ち時間の最初に多く、時間がたつにつれて減っていました。最初の実験の70人では、考える時間の前後で気分に有意な差はなく、時間は「やや心地よく、まあまあ退屈」と評価されていました。
対象: ドイツの大学の参加者計254人(最初の実験は平均24.9歳の70人) / 限界: 主に学生で、実験室の特殊な場面です。日常の何もしない時間とは違う可能性があります。
Meteier ら(2025)[4]
スマホを預けて7分30秒ただ待った組は、紙の数独をした組やスマホを使えた組より退屈が強く、時間の進みも遅く感じていました。一方、どの組も実際の待ち時間を平均5分44秒と、短めに答えていました。
対象: スイスの若い成人90人(平均21.7歳、うち女性76人、主に大学生) / 限界: 1回だけの短い実験で、参加者は若い女性が中心でした。
ぼんやりしているときに考えがさまよう仕組みは「作業中、気づくと別のことを考えている」、スマホがあるのに退屈が増える話は「スマホがあるのに、いつも退屈」で整理しています。
03 まだわかっていないこと何もしない時間は、心にとって良いの?悪いの?
何もしない時間が心に良いか悪いかは、研究ではまだ結論が出ていません。わかっているのは、数分〜15分の短い時間で、集中しにくく退屈しやすいことまでです。
- 実験はどれも6〜15分ほどの短い時間で、何もしない時間を毎日とると長い目で心にどう影響するかは調べられていません。
- 参加者は米国やドイツ、スイスの大学生が中心で、日本の働く大人で同じ結果になるかはわかりません。
- 電気ショックを押した理由が「考えるのがいやだから」なのか「好奇心」なのかは、研究者の間で意見が分かれています。
- スマホをよく使う人ほど何もしない時間が苦手になるのかは、はっきりしていません。2014年の実験では関係が見られませんでしたが、スマホの使い方が大きく変わった今も同じかはわかりません。
04 今日からできるセルフケア何もしない時間に、すぐスマホを見ないためには?
落ち着かなさは最初の数分に強く、時間がたつと薄れていく可能性があります。スマホを手の届かない所に置き、短い時間から試すか、手を動かす小さな作業で埋めるのが手がかりになります。
最初の3分だけ、スマホを出さずに過ごしてみる
待ち時間の最初の数分だけ、スマホを出さずに周りを眺めます。ドイツの実験では、ボタンを押す回数は15分の待ち時間の最初に多く、だんだん減っていました。そわそわは最初がいちばん強いと知っておくと、やり過ごしやすくなります。
目安 1回3分
スマホはかばんの奥など、すぐ取り出せない所に入れる
ポケットや手元に置いたままだと、無意識に手が伸びます。自宅で試した実験では、32%が途中でスマホなどに手を出していました。取り出すのにひと手間かかる所に入れておきます。
目安 待ち時間のたびに
考えるのがつらいときは、手を動かす小さなことで埋める
紙のパズル、手帳への書きこみ、窓の外の景色を数えるなど、手や目を使う小さなことをします。実験では、ただ考えるより本や音楽などのほうが楽しまれ、ただ待つより数独のほうが退屈が少なくなっていました。
目安 5〜10分
終わったあとの気分を、ひとことメモする
何もしない時間のあと、「思ったより平気だった」「退屈だった」とひとこと書きます。研究では、考える時間の前後で気分ははっきり下がっていませんでした。自分の場合を確かめると、何もしない時間を必要以上にこわがらずに済みます。
目安 1回30秒
時間を見るだけのつもりがスマホを触り続けてしまう場合は「時間を見るだけのつもりが、ついスマホを触り続けてしまう」、AIが使えずそわそわする場合は「AIが使えないと、そわそわして何も手につかない」も参考になります。
05よくある質問
何もしない時間が苦手なのは、スマホのせいですか?
研究からはそうとは言えません。2014年に18〜77歳の人を調べた実験では、ただ考える時間の楽しさは、スマホやSNSを使う頻度とは関係が見られませんでした。何もせず考えることは、スマホに関係なく、多くの人にとって集中しにくいものだと考えられます。
「人は考えるより電気ショックを選ぶ」というのは本当ですか?
一部は本当ですが、言いすぎです。米国の実験では、男性の67%・女性の25%が少なくとも1回は自分でショックを受けました。ただ、データを見直した研究者は、多くの人はショックを選ばず、考える時間もまあまあ楽しんでいたと指摘しています。ドイツの追試では、押した理由は好奇心に近いと考えられています。
待ち時間にスマホを見るのは、やめたほうがいいですか?
やめるべきだとまでは言えません。スイスの実験では、スマホを使った組も、ただ待った組より退屈が少なくなっていました。スマホを見る時間が長すぎて困っているときに、待ち時間の一部だけスマホなしで過ごしてみる、という使い分けが現実的です。
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出典
- Wilson, T. D., Reinhard, D. A., Westgate, E. C., Gilbert, D. T., Ellerbeck, N., Hahn, C., Brown, C. L., & Shaked, A. (2014). Just think: The challenges of the disengaged mind. Science, 345(6192), 75–77. https://doi.org/10.1126/science.1250830
- Fox, K. C. R., Thompson, E., Andrews-Hanna, J. R., & Christoff, K. (2014). Is thinking really aversive? A commentary on Wilson et al.'s "Just think: the challenges of the disengaged mind". Frontiers in Psychology, 5, 1427. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2014.01427
- Eder, A. B., Maas, F., Schubmann, A., Krishna, A., & Erle, T. M. (2022). Motivations underlying self-infliction of pain during thinking for pleasure. Scientific Reports, 12, 11247. https://doi.org/10.1038/s41598-022-14775-w
- Meteier, Q., Délèze, A., Chappuis, S., Witowska, J., Wittmann, M., Ogden, R., & Martin-Sölch, C. (2025). Effect of task nature during short digital deprivation on time perception and psychophysiological state. Scientific Reports, 15, 10469. https://doi.org/10.1038/s41598-025-94316-3


